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結城
「どうせ、いなくなるんだろ」
結城は、椅子の背にもたれたまま言った。
視線は、教師に向いていない。
窓の外。
どうでもよさそうな顔。
でも、その声だけは、やけに刺があった。
教室が、少し静かになる。
教師は、すぐには答えなかった。
怒ると思った。
説教が始まると思った。
でも——
「……なるな」
あっさりと、言った。
結城は、一瞬だけ目を向ける。
「は?」
「いなくなるかもしれない」
教師は続ける。
「でもな」
チョークを指で転がしながら。
少しだけ笑う。
「それでも、見捨てないやつはいる」
妙に軽かった。
重くもなく、押し付けるでもなく。
ただ、事実みたいに。
結城は、鼻で笑う。
「綺麗事」
「かもな」
否定しない。
それが、少しだけ引っかかった。
その日の帰り道。
裏門の近く。
誰もいない場所で、ノートを開く。
何を書くつもりもなかったのに。
気づけば、ペンが動いていた。
もし、最後までいたら。
そのときは——ちゃんと名前、呼んでやるよ。
書いてから、少しだけ笑う。
叶うはずのない約束。
そんな日、来るわけない。
そう思っていた。
数日後。
結城は、帰らなかった。
教室の席だけが、ぽっかり空いていた。
その空白が、やけに広く感じた。




