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達成率999%のゲームに転生した俺の選択が、シナリオを崩壊させていく 〜攻略者の因果律〜  作者: 波動犬
因果について

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第49話 対価

その後は、できる限りの市民を避難させながら、市街地側の救助に向かった。

 

王国騎士団や残った探索者とともに、徐々に魔獣を撃退していく。

ようやく危機が去る頃には、王都の美しい街並みは、あちこちが瓦礫と化していた。

 

市街地で合流したハナから、詳しい状況を聞いた。

魔族、上級魔獣、そしてシンラ派が同時に牙を剥き、王国騎士団も苦戦を強いられたという。

そして神聖教会の強硬派リーダーであるシンラが、混乱の中で聖女を人質に取り、そのまま姿を消したらしい。

 

聖女、と聞いて、リツの胸がざわついた。

月明かりの中で振り返った、白い姿が、鮮明に思い出された。

 

発端は、王都襲撃の一ヶ月前にさかのぼる。

神聖教会の内部で、虚空刀の盗難と、教会兵の惨殺事件が起きた。

その断罪のための聖天審判に、聖女は招集されていた——リツたちがサーンですれ違った、あの馬車の道行きが、まさにそれだったのだ。

 

だが、審判を待たず、断罪候補者とされた一人が忽然と姿を消した。

時を同じくして、シンラ派と、五体のセーステスも消えていた。

クオンが、神聖騎士団が逃げた者たちを追って西ケレへ同行していたと言っていたことを、リツは今になって思い返す。

 

そして今回の襲撃が、引き起こされたのだ。

 

リツは、今日この街で死んだ人間の数を思った。

ゲームの知識で変えられた未来と、変えられなかった最悪の現実とが、頭の中で激しくせめぎ合う。

 

実際、街への被害そのものは、ゲームの正史より少なかった。

ゲームでは王都が壊滅的に荒廃と化すが、今回はそのすべてを第一居住区でガーランドとルアが倒しきった。

だからこそ、被害は最小限で済んだのだ。

 

スルギもルアも生きている。ルアはドミネーター化も果たした。

だが、その代わりに、取り返しのつかない対価を支払うことになった。

 

——ガーランドが死んだ。

 

どう因果が変わったのかは分からない。

だが、リツの行動の何かが、シンラを焦らせ、襲撃を前倒しにさせたのかもしれない。

そして、セーステスの動きを変え、ガーランドの死につながったのかもしれない。

 

重い後悔と苦痛が、絶え間なくリツの胸を抉る。

 

自分の選択によって、世界の歯車は完全に狂った。

もう、都合のいいゲームのレールには戻れない。それだけは、はっきりと分かっていた。

 

*

 

街の復興には、思ったよりも時間がかかった。

 

一ヶ月ほどをかけて、瓦礫を片付け、負傷者の治療を手伝い、壊れた建物の修繕を続けた。

その間も、街の地下や外縁に魔獣の残党が現れれば討伐に向かい、遺跡の完全封鎖作業にも駆り出された。

けが人も多い中で、探索者(シーカー)たちは最前線に立ち続けざるを得なかった。

 

ルアは復興作業の間も、時折、その瞳を真っ赤に染めていた。

 

「意識はちゃんとあるから、怖くないよ。むしろ、力が身体の奥で冴え渡っている気がするんだ……」

 

そう言って、ルアは笑った。

泣いているのか笑っているのか分からない、危うい表情のまま、人間離れした膂力で巨大な瓦礫を軽々と持ち上げていく。

 

ガーランドの死を糧にして、バーサーカー化を我が物とした赤の支配(ドミネーター)の力。

それは、消えることのない喪失の傷跡だった。

 

*

 

街の復興が一段落した頃、探索者ギルドから通知が届いた。

 

内容は、深淵大陸へ渡る公認の証——微色(ティント)に昇格するための、黒色試験の案内だった。

 

「今回の西ケレ遺跡の魔放出と、この王都急襲によって、高位の探索者が多数戦死、あるいは負傷離脱してしまいました。

内陸最高位の深紅(ドレー)も、深淵の入り口たる微色も、数え切れないほどです」

 

受付嬢が、重苦しい面持ちで書類を差し出した。

 

「そのため、探索者の本業たる深淵大陸攻略のため、不足した戦力を補填する臨時措置として、群青(ルーブ)までが参加できる一斉昇格試験が開催されることになりました。

異例の、王命です。

ただし、深淵大陸が、まさに死と隣り合わせであることは、言うまでもありません。

本試験でも、命の保証はないことは、ご理解ください」

 

今回の騒動で高位の探索者が死に絶えたからこそ設けられた、泥縄式の救済策だった。

 

*

 

その夜、スルギの屋敷で、同じく受験資格を得ていたクオンを交え、四人で話をした。

 

「……本当に、受けるか?」

 

リツは、集まった三人の顔を見回した。

ガーランドを失い、王都は壊滅的な打撃を受け、それぞれが心に深い傷を負った。

 

場に、重い沈黙が落ちた。

 

「……私は、受ける」

 

最初に口を開いたのは、ルアだった。

 

「改めて、強くならないといけないと思った」

 

赤い目を、静かに見開いて続ける。

 

「師匠に、卒業試験だって言われたから。ここで止まったら、怒られちゃうよ」

 

スルギが、静かに頷いた。

 

「僕も受けるよ。約束したからね。終わったら、みんなで潜ろうって」

 

その言葉に、クオンがふっと笑う。

 

「強くならなくちゃいけない」

 

いつもの調子で、けれど普段より少しだけ真面目な声だった。

 

リツは、自分の手を見つめた。

ここで引くという選択肢は、最初から存在しなかった。

 

「黒色試験を突破して、深淵大陸に行こう」


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