第46話 遺跡攻略
話しぶりがまるで変わったステラは、リツの鎖を握って手早く破壊する。
その瞬間、男の手から、何かが放たれたが、速すぎて、リツの目には軌跡すら映らなかった。
矢だ、と気づいたのは、ステラがそれを手の周りにあるオーラのようなもので掴み取ったあとだった。
握り込まれた矢が、ぱきりと折れて落ちる。
「ちっ、止めやがった」
男が舌打ちする間に、ステラはリツのもとへ踏み込んでいた。
そのまま襟首を引き上げると、リツの身体は宙を舞い、レイアのそばへ放り出されていた。
リツはかろうじて着地する。
「そこで固まってて」
それだけ言い置いて、ステラは駆け出す。
「ミラ、魔導ゴーレムの鎖も解け」
そう言うと、魔導ゴーレムに絡んでいた鎖がズルズルと取れた。
「ギャアアアアアアア」
魔導ゴーレムが雄叫びを上げ、額のような位置にある紋様に光を集めると、瞬く光の線を乱発し始めた。
身を守る術を持たないリツは、レイアとスルギの前に、短剣を片手に立つ。
だが、あのビームが当たったら、ひとたまりもないだろう。
それでも容赦なくビームは放たれる。
だが、リツたちへ向かうものは、ステラの腕にまとっているのと同じ半透明のオーラが、目の前に幕のように広げられる。
そこに触れた瞬間、それ以上進めずに掻き消えた。
三方向からの攻撃を、ステラは一人でさばいていた。
ミラの鎖は床から壁から這い出して、ステラの足元を狙う。
それを回避するのに合わせて、男が距離を取り、刺さるまで実体の見えない矢を放ってくるが、大きなオーラの手で叩き落とす。
そして拘束を解かれた魔導ゴーレムが、雄叫びとともに突進し、灼けた光の奔流——ビームを吐き出すのをあしらいながら、リツたちを守る。
守るべきものが多すぎる。
「スルギとクオンは動けないだろうし、レイアとリツも……危ないね。さすがに厳しいね」
ステラが、初めて焦りのにじむ声を漏らした。
リツも加勢に回りたかったが、繰り広げられているのは、ハイレベルな攻撃の応酬だ。
自分には魔力も残っておらず、雷身紋では回避くらいしかできない。
「くっ、どうすれば……!」
その時、入口の扉が開いた。
「今度は何だよっ!!」
男がそう言った瞬間、突進の構えを見せていた魔導ゴーレムが、縦横にブロック状に切り刻まれ、崩れ落ちた。
入口に、見覚えのある男が立っていた。
赤い長髪に、隻眼。穏やかな表情のまま、ゆっくりとこちらを見渡している。
「探索者諸君、お疲れ様。ケイジーだ。どうしたんだい?」
「ケイジーさん……こいつら、神聖教会の……人を、殺していて……」
スルギが途切れ途切れに訴えると、ケイジーは「ふむ」とだけ言った。
そして、ゆっくりと前に進み出る。剣の柄を握る。
キンッ、と澄んだ音がした。
鎖を操っていたミラが、糸の切れた人形のようにグラリと倒れ、動かなくなる。
這い回っていた鎖のすべても、同じように力を失って石畳に垂れた。
男のほうは、壁際で呆然と、自分の身体を見下ろしていた。
「まじかよ……」
男がそうつぶやいた瞬間、その身体が、ぐしゃりと崩れ落ちた。
「……え」
誰かがそう漏らした。リツ自身だったかもしれない。
「これで大丈夫かな?」
何が起きたのか、まるで分からなかった。
あれほど手を焼いた三方向の攻撃が、ケイジーが数歩進んだだけで、まとめて消え去っていた。
「ご苦労様。ちょっと上でも厄介なことになっててね。
急がねばならぬから、手当たり次第に扉を開けて、ようやくたどり着けたよ。
遅くなって済まなかった」
こうして、あっという間に、遺跡の攻略は終わった。
*
ケイジーを追ってきた他の騎士団に、遺体とその場の始末を任せ、足早に外へ戻ると、地上は慌ただしいことになっていた。
伝令が森の入口へ走り、隊列が組み直されている。
遺跡から上がってきた負傷者は、その脇に座らされたまま、置いていかれようとしていた。
リツたちの後に、続いて担架が一つ、脇を通り過ぎていった。
布の下から、緑のローブの裾が見えている。
騎士団の一人が屈み込み、首元から何かを外して、木箱へ入れた。
近くにいた騎士に尋ねると、神聖教会の強硬派——シンラ派が暴動を起こし、王国へ攻め入っているのだという。
「これもか……やっぱり変わってる……想定よりも早い」
リツの声が震えた。
「ルアが危ない」
遺跡の攻略で負傷した探索者が多く、すぐに動ける者だけが、わずかな鳥人族の飛行による移動の協力を受けて、王都へ戻ることになった。
リツたち一行も全員が満身創痍で、残留を勧められた。
だが、リツだけは、どうしてもルアの元へ行くと言って聞かなかった。
意外なことに、ステラもそれに同意を示し、それを見たケイジーが、リツとステラの同乗を許可した。
ステラは、リツの脇腹と、レイアの剣が刺さっていた足を淡い光で包む。
すると、それぞれの傷が塞がっていった。
「こんな短期間でできる回復魔法なんて、応急処置でしかないから、動かないでね」
レイアにそう伝えると、リツとステラは二人で鳥人族の背にまたがった。
今は一秒でも早く、王都に着かなければならなかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第一部の最終盤です。ここから50話まで残り4話。最後まで、一気に駆け抜けます。
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