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達成率999%のゲームに転生した俺の選択が、シナリオを崩壊させていく 〜攻略者の因果律〜  作者: 波動犬
西ケレ侵攻

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第45話 黒猫の瞳

「……嘘でしょ」

 

クオンが、崩れたゼーレゼから目を離せないまま呟いた。

さっき名前を交わしたばかりの相手だ。

 

リツの身体に、急激に血が通ってくる。

全力の注意を相手に向けて態勢を整えるが、相手はそれ以上追撃をしてこなかった。

 

「いやあ、念には念をで、一人殺しておいただけだからさ。力量差も分かるだろ。

少し聞いておいたほうが良いから、答えろよ。

お前ら、どうやってあいつを殺したんだ?

もしかして、『虚ろ』耐性なんてのが偶然いたのか?

それとも精神力が異常に高いやつでもいんのか?」

 

それぞれを品定めするように見る。

 

「うーん……その銃を持ってる嬢ちゃんか、おまえ……鬼の息子か。どっちかか?」

 

スルギが問う。

 

「お前ら……だれだ……?」

 

「ん? 神聖教会シンラ派の者ですよー。

次の魔放出まで、ゴーレムを生かしておかないといけないものでして。

みなさんにはここで死んでもらいますー」

 

バカにしたような言い方で男は説明する。

 

「はぁ〜〜〜マジで暇だったからな。本当に暇。どう考えてもなにもやることがない。

わかるだろ? マジで暇なんだ。どうせ次の魔放出の予兆が来るまでは暇なんだ。

だからそれまでできる限り死なずに、頑張ってみて欲しい」

 

理不尽な道理だが、本人は話しながら納得したらしい。

 

男が腰から長剣を抜いた。

 

「じゃあ、いっちょやりますか」

 

そう言った瞬間には、クオンの目の前にいた。

 

クオンが刀で受ける。だが、そのまま吹き飛ばされ、壁に激突した。

 

「クオン!」

 

「ん〜これでも強すぎるのか。まあでも必死になってくれよ。ただ待ってるだけよりはマシだ」

 

今度はリツに向かってくる。すかさずレイアが横から撃ち込んだ。

 

「おぉ、やっぱりお嬢さんは、これくらいなら反応できるか。この中じゃ一番マシそうかな」

 

リツは指輪に魔力を通す。

自分の魔力はどうだろうか。すでに限界が近いのではないだろうか。

ここまででどれだけ展開したか、もう覚えていない。

 

予備動作だけで、目の前の男は反応する。

 

「うわ、お前も魔法使いかよ。なら、殺しとくか」

 

宣言通りに、リツの目の前に現れる。

空間包囲を展開するが、間に合わず、脇腹をえぐられる。

 

「リツ!」

 

叫ぶスルギを無視して、男は無防備なまま話し続ける。

 

「お? なんか珍しい魔法だな。う〜ん……う〜〜〜ん……

……ミラちゃーん。まずはこのお姉さんと戦いたいから、そいつ縛っといてー

できれば、見たことない魔法とも遊んでみたいー

まあ、出血でそのうち死ぬかもだけど、なんか危ない動きしそうだったら殺しても大丈夫ー」

 

ゴーレムの足元で、ミラが軽く手を上げた。

 

リツの足元から、黒い鎖が噴き出す。

 

血の滲む脇腹を押さえながら、空間変成で面を斜めに立ち上げ、鎖の軌道を逸らす。

が、二本目、三本目、四本目と次々にくる鎖が、逸らしきれずに腕へ、胴へ絡みついた。

 

床に引き倒される。

 

「ぐっ——レイアさん!」

 

「やっばいね、これはまずいかも……」

 

それでも、レイアは足を止めずに応戦し続けている。

 

「お姉さん、ちょっと本気出すけど、ついてこられるかな?」

 

男が、もう一本の長剣を抜いた。

 

一振り目を、レイアが躱す。

二振り目を、銃身を交差させて受けた——その瞬間、下から蹴りが入った。

レイアが壁に飛んでいき、そこに男が追撃にかかる。

 

「ぐぅあううう」

 

土埃が晴れると、レイアが石畳に倒れていた。

その太腿に、長剣の片方が深々と突き立っている。

 

「レイアさん!」

 

「あぁ、やっぱりこんなもんかぁ」

 

男が、もう一本の剣を持ち直した。

 

「お姉さん、これでも微色(ティント)なんだねえ。弱すぎるねえ」

 

その背後で、影が動いた。

 

スルギだ。

低く沈み込んだ姿勢から、音もなく間合いを詰めている。

 

渾身の一刀が、男の首筋へ吸い込まれる。

だが、男は振り向きもせず、半身をわずかにずらしただけだった。

刃は外套の端にも当たらず、空を切り、そのまま行き場を失う。

 

「お、鬼の息子。速いね」

 

返す刀を叩き込むより早く、男の剣が下から跳ね上がった。

スルギは刀で受けるが、受け応えられる耐性ではなく、刀は手から離れ、高く舞い上がる。

 

「でも、軽いなあ」

 

くの字に折れた身体が浮き上がり、石畳を二度跳ねて、壁際まで転がっていく。

 

「スルギ!」

 

スルギは片手をついて起き上がろうとしたが、そのまま咳き込み、息を戻している間に、上から鎖で地面に縛り付けられる。

落ちた刀が、遠くでからんと音を立てた。

 

「うんうん、必死なのはいいね。でも順番があるからさ」

 

男が、何事もなかったように向き直る。

剣の切っ先が、倒れたレイアの首へ向いた。

 

「やめろ!!!」

 

「うるせえな。次はお前もやってやるから、黙ってろよ」

 

鎖が食い込む。指輪にもう熱がこもらない。もう魔力がない。

 

(動け。動けよ)

 

ここまで、何のために鍛えた。

ルアとスルギは救えた。でも、ゼーレゼは目の前で死に、いま、レイアが殺されようとしている。

 

「こんな——クソ! こんなの——ふざけるな!」

 

無我夢中で叫んでいた。

 

「こんなの許してたまるか! 変えるんだ……全部!」

 

「何いってんだか」

 

男が冷笑しながら剣を振りかぶり、レイアの首めがけて振り下ろした。

 

——その瞬間。

暗闇の中で、黒猫の瞳が開いた。

 

黒い影が、リツの横を通り、男が持った剣を弾き飛ばす。

驚いた男が臨戦態勢に入る間もなく、次の瞬間には、男が宙を舞って吹き飛んでいた。

 

レイアのそばには、腕に大きな拳のようなものをまとったステラが、揺るぎない足取りで降り立っていた。

 

「——ステラっ……!」

 

リツの声が、掠れた。

 

「え——タマ……?」

 

レイアも驚いて目を見開いて、ステラを見上げている。

 

「はあ? いてえ……なんだぁ、お前、どこにいたんだ?」

 

男がそう言いつつ起き上がり、飛び退いて距離を取ろうとする。

——が、その着地際に、目で追えない速さでステラの拳が再び届いていた。

 

「……は?」

 

大きな何かが炸裂したような音とともに、男の身体が真横に吹き飛び、石壁に叩きつけられる。

 

ややあって、崩れた瓦礫の中から、男が咳き込みながら這い出してくる。

その間に、鎖がステラの足元から出てくるが、ステラは、絡まれることなく、素早いステップで回避する。

 

「ステラ……?」

 

誰もが信じられないという顔でその背中を見ている。

 

ステラは振り返らなかった。

男から目を離さないまま、ゆっくりと息をつく。

 

「はぁ、やっぱりだめね」

 

リツの息が止まった。

 

その声は、確かにステラの声だった。

だが、ずっと聞いていた敬語も、ナビゲーションキャラクターの平坦な口ぶりも、どこにもない。

 

ただ、呆れたように、やわらかく——ステラがこちらへ振り向いた。

 

「本当に、シナリオを変えていくんだね?

っていってももう変わってしまっているけど……

ここから……本当に、もう戻れなくなってしまうよ」

 

鎖に縛られたまま、それでも、リツは絞り出した。

気づいたら、喉が渇いていて、声がしわがれる。

 

「ああ。

……できることがあるなら、全部やる。

物語が変わってしまっても、その中で戦っていく」

 

ジト、とした目で睨みつけられた。

 

しばらくそうしていたステラが、やがて観念したように肩を落とす。

 

「わかったわ。それなら……力を貸すから。

……頼むから、クリアはしてよ」


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