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達成率999%のゲームに転生した俺の選択が、シナリオを崩壊させていく 〜攻略者の因果律〜  作者: 波動犬
西ケレ侵攻

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第44話 最奥の間

遺跡の真ん中で人心地つける状況ではないものの、言いようのない達成感を味わっていると、横たわっている男から、ボソボソボソと声が聞こえてきた。

 

近づいてみると、呼吸が浅く、何かをつぶやいている。

 

「なんだ」

 

「……してぶれ……こ……ふぃ……くれ……」

 

ギョッとして顔を覗き込むと——目も歯もなく、鼻も潰れていた。

蝕まれ続けたのか、それとも、それ以前の拷問なのか。完全に使い捨ての器だ。

 

「た……む……」

 

空気が漏れるようなかすかな声だったが、言っていることは伝わった。

 

リツは、自分の腰の短剣に手をかけてみるが、柄を握ったところで、指が止まる。

 

魔獣は数え切れないほど斬ってきた。迷わず殺した。

だが、目の前で横たわっているのは人間で、その喉に刃を当てるという想像だけで、それ以上の思考が鈍くなっていく。

 

その間も、男は浅い呼吸を繰り返している。

もう……どう見ても、助からないのは分かっている。もちろん、助けられないことも分かっている。

この状況で、苦しんでいる人を助けるには、刃を抜くしかない。

だが、そんな思いやりよりも、自分の中に、人を殺したという事実が残ることが歯止めをかけ続けていた。

 

気づくと、横にスルギが立っていた。

 

「リツ……」

 

呼ばれても、顔を上げられなかった。

 

「もう、助からないだろう」

 

「……ああ」

 

「だ……の……ぅ……」

 

男が、同じ言葉を繰り返す。

 

スルギはしばらく黙ってそれを見下ろしていたが、やがて意を決した表情で、自分の刀を静かに抜いた。

 

「僕がやるよ」

 

「スルギ、待——」

 

言い終わる前に、スルギは刀を垂直に立て、左胸の上から、ずぶりと突き立てた。

刃が肉に沈む鈍い感触だけが、握ってもいないリツの手にまで届いた気がした。

 

男の小刻みな震えが止まり、静かに——動かなくなった。

 

スルギが刀を引き抜き、血を払う。その手つきは落ち着いていた。

何か言わなければと思ったが、言葉が出てこなかった。

 

それを合図としたかのように、リツが腰に差していた虚空刀が震え始めた。

重たい空気に構うことなく、気楽な声を上げる。

 

「お迎えだあ……」

 

そう言ったかと思うと、石畳の隙間から、黒い半透明の鎖が這い出してきた。

一本ではない。無数の鎖が、床から、壁から、噴き出すように伸び上がる。

 

「な——」

 

鎖は虚空刀を捉えたあと、リツの足に絡み、周囲にいる四人にも次々と巻きついていく。

あたり一面が鎖に埋め尽くされ、全員を捉えたところで、鎖は一瞬だけ静止し、一気に引き始めた。

 

レイアが叫ぶ。

 

「後処理だ! あいつが死んだから発動した、たぶん魔法だ——」

 

視界が横に流れたが、物理的に引かれるのとは異なり、壁を、扉を、階層そのものを通り抜けていく感覚があった。

時空迷宮の順路など無視して、ただ一直線に、どこかへ運ばれていく。

 

*

 

「は?」

 

男の声がした。

 

「ちょっと、待てよ。この鎖が動いたってことは……暗殺者(あいつ)、殺されたのか?」

 

「そうみたいだね」

 

今度は女の声が聞こえる。

 

「まさか。あれを? 誰が」

 

そんなやり取りが聞こえるうちに鎖がほどけていき、放り出されたのは、広大な石の間だった。

 

中央に、巨大な魔導ゴーレムが立っているのが見える。

本来ならこの距離にいるだけでも危険なはずだが、魔導ゴーレムは動いていなかった。

全身を同じ黒い鎖で幾重にも縛られ、床に縫い止められていたからである。

 

(……これが、遺跡核の最奥の間——)

 

そして、ゴーレムの奥に、二人。

 

一人は小柄で、フードを目深に被っているため顔が見えない。

もう一人は、弓を担いだ、背の高い男だ。

二人とも、真っ黒な外套を着ている。

 

会話のやり取りからして、間違いなく——敵だ。

 

男が、担いだ弓に手をかけながら、放り出された五人を見回した。

 

「まじじゃねえか、こんな奴らがか?」

 

からんっ、と音がして、鎖が解けきったために、虚空刀がリツの近くに落ちる。

すぐさま、落ちた虚空刀へ新しい鎖が這い寄り、再び巻き付いていく。

 

誰も動けないまま、緊迫した空気が、肌をびりびりと刺してくる。

 

「触るなよ、ミラ。持ったら終わりだからな」

 

「……分かってる。だから縛ってるの」

 

「はあ……ちょっと話も聞いたほうがいいよなあ……まあ、とりあえず面倒そうだから、魔法使いだけ殺しとくか」

 

男が事も無げにそう言うと、素早い手つきで弓を取り出し、矢を番えないまま弦を弾いた。

動きはギリギリ目で追えたが、身体は反応できない。

 

直後に、斜め後ろでドスッという鈍い音がする。

 

全員が振り返る。

 

後ろにいたゼーレゼの喉に、正面から矢が立ち、鏃が後ろへ突き抜けていた。

 

「な——ゼーレゼ!」

 

表情も変えず固まったまま、目の色が消えている。

そして、声が届く前に、その身体は前のめりに崩れ落ち、石畳に赤い血が広がっていく。

 

男は、分かりやすい動きで、弓を再度背中に戻しつつ、気だるげに言った。

 

「流石に五人相手は骨が折れるしなあ、魔法使いは面倒だから嫌いなんだよ」

 

突然のことに誰も、なにも反応ができなかった。

 

そのまま——一人、死んだ。


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