第42話 百扉解錠
翌朝、探索者たちは、バディ同士で組んで四人以上のチームを作り、それぞれ探索を開始するよう命じられた。
リツとレイアはスルギとクオンと連携することにしたが、魔法を使える補佐役がいないことを相談すると、派遣されてきた同世代くらいの魔法使いのゼーレゼが加わって、五人でのチームとなった。
「翠緑の魔法使い、ゼーレゼよ、よろしくね」
緑を基調としたローブに、ベージュのケープ。
左右で結った髪が、頭を下げるたびにぴょこりと跳ねる。
歳はリツたちと変わらないくらいだろうか。
挨拶ひとつにも背筋を伸ばす、生真面目そうな子だった。
簡単な挨拶を済ませた頃には、出発の号令がかかっていた。
グループごとに隊列を組み、順番に遺跡へ入っていくらしい。
森の奥へ進むと、木々の間に、突如として地下への階段が露出していた。
ここが、西ケレ遺跡の入口である。
入場の順番を待つあいだ、リツは遺跡についての知識を、頭の中でさらっていく。
魔窟や集落と異なり、遺跡には特徴が二つある。
まず、最奥部に、核となる魔導ゴーレムがいる。
これを破壊するまで、遺跡は敵を生み続ける機構と化しているため、目下魔導ゴーレムを見つけて破壊することがゴールである。
そして、もう一つの特徴は——人を取り込もうとする、ということである。
様々な仕掛けで奥深くまで人を導き、迷わせるための複雑な構造を作り出す。
やがて順番が来た。
足元では、黒猫が当然のような顔で先に階段を降りていく。
その後を追って、五人も階段を降りた。
降りた先に待っていたのは、大規模マンションのように扉が並んだ、広大な壁だった。
西ケレ遺跡は「百扉解錠」と呼ばれている。
並んだ扉を、正しい順番で開けていかなければいけない時空迷宮だ。
正しく開けると部屋のような広場に出て、そこで敵を倒して奥に進むと、また扉が現れる。
その繰り返しである。
そして、扉を間違えると、最初の入口に戻される。
選び方には法則があるのだが、それを発見するのが難しいため、探索者の間ではまだ二階層目までしか到達できていなかった。
王国騎士団は魔放出に備えて地上に控えるため、中には潜れない。
遺跡の中心にある魔導ゴーレムまでの道を探るのは、探索者の仕事になる。
そのために、これだけの人数が集められたのだった。
リツにとっては、扉の法則はすでに知っているので、道順に関しては特に問題にならなかった。
むしろ、周りの探索者が追いつく前に、早く四階層目に行く必要があった。
もし、ゲームと同じシナリオをたどるのであれば、四階層目に沢山の人がいないほうが良い。
本当は一人で向かえたらよかったが、それではそこまでの道のりで行き詰まってしまう。
それに、スルギと一緒にいなければ、未来がどうなるかが分からない。
探索を始めてみると、チームの噛み合いは良かった。
リツはスルギとクオンの戦い方を知っているし、レイアとはこれまでの冒険もある。
ゼーレゼはゲームでは登場していない人物だったが、後衛として非常に優秀だった。
スルギが前に出れば、その背中を追わずに、リツの射線から一歩ずれる。
クオンが回り込めば、着地の先を読んで、魔獣を牽制する。
誰がどこにいるかを常に把握したまま、空いた場所へ自分を置いていくといったように、器用に合わせて動くことができた。
即席のチームの割には、非常に良い連携ができていた。
*
そして、想定通り、一番乗りで三階層目を突破し、四階層目に続く扉を開けた。
その扉を前にしたとき、ゼーレゼが口を開いた。
「あの、リツさん」
「ん?」
「……なにかコツがあるんですか?」
手元の紙束に目を落としたまま、彼女は続けた。
「ここまで、一度も間違えていませんよね。
私、開けた扉の位置を全部記録してるんですけど、法則が見えないんです。
探索者の方々は二階層目までしか進めていないって聞きました。
それを、初めて来た人が、迷わずにってすごいなと思いまして……」
何かを疑っているというわけではなく、純粋に分からない、という顔をしている。
みんなにはだましだまし正解の道を開けてきたが、疑問を持つのも当然である。
だが、リツも説明のしようがない。
「うーん……勘、かな」
「勘」
「うん、勘」
「わかるー! 不思議だよねー!」
「リツってこういうの物知りというか、冴えている時があるというか。
たくさん読書してるからなの?」
クオンもレイアも気になっていたようである。
ゼーレゼは、しばらくリツを見ていたが、やがて手元の紙束を閉じた。
「うーん、どういう本かあ。なるほどです。
私も勉強不足ですかね。どういう本読んでるかとか、またぜひ教えてほしいです」
もちろん、と苦笑いしながら伝えつつ、四階層目に踏み入った。
*
(……ここからだ)
四階層目。
ゲームで、スルギが死ぬ場所である。
湧いた魔獣は、これまでと同じ手順で片づいていく。
そうして、敵を倒し終えた——その、直後だった。
自分たちが通ってきた扉が、背後でガチャリと開く。
「みんな、下がるんだ!」
リツが声を張ると、全員がすぐに従い、距離を取って武器を構える。
「ああ、やっと追いついた」




