第40話 終わったあとの約束
久々に戻ってきた王都は、少し騒々しくなっていた。
探索者ギルドに顔を出すと、想定通り、王国騎士団が西ケレへの大規模侵攻を予定しており、第二位階を超えている探索者を百人規模で募集しているとのことだった。
リツにとっては、想定よりもいい状態で準備ができていた。
魔連の指輪を手に入れ、ゲームのシナリオではどうしようもなかった混色魔窟をレイアとセンテという高位探索者とともに攻略し、第三位階まで到達し、新しいスキルも手に入れている。
——これで、スルギとルアを救ってみせる。
当然、参加の意を示し、数日後の招集に向けて身を整えた。
*
集合当日、王都の門に向かうと、見知った顔がいくつもあった。
「おう、レイア。リツも……たくましくなったか?」
「なんで疑問形なんですか」
ビルノードンが最初に気が付き、声をかけてきた。
そばには刀を差したスルギがひらひらと手を振っており、スルギの隣には年の近そうな女性もいた。
「あ〜、リツだね〜? スルギ〜から聞いてたよ〜。クオンって呼んでね」
目を引く橙色の、背丈に合わない大判の外套。
肩から羽織って、胸元で一つ留めただけ。
濃い茶の髪は耳が出る長さで切り揃えられ、前髪の下から同じ色の丸い目が、キリッとこちらを見ていた。
スルギがバッと肩を組んでコソコソと話し出す。
「クオンが、僕と一緒に師匠に師事している片割れだよ。気が強いから気をつけて」
振り向くと、クオンが作られたような笑顔のまま話しかけてくる。
「スルギ〜。また適当なこと言っているでしょ〜?
また、背負って投げるよ?」
物騒である。
スルギも居場所がなさそうに「ごめんごめん」と言って、小さくなってしまった。
「ルアとは、何度も一緒に魔窟に潜ってるからさ。
三ヶ月ぶりなのはリツだけだよ。また色々聞かせて」
スルギの話では、ルアとスルギとクオンは、何度か魔窟探索で合同しているらしい。
第二位階に上がるための三つの魔窟には、他のメンバーも加えた五人の単位で潜っていたそうだ。
三つ目の魔窟では、一度目はパーティの一人が識異点にたどり着くまでに、大怪我を負って離脱し、失敗。
二度目がこの西ケレ侵攻の直前で、ギリギリ成功したばかりだという。
確かに真識で見てみると、スルギはレベル二十一、クオンはレベル二十と第二位階になったばかりというところである。
ゲームどおりだったなら、リツが一緒に行っていた探索である。
仲があまり良くないと聞いていたが、話している感じは息ぴったりである。
「ルアはまだ来てないの?」
「ルアは今回の侵攻には不参加だって。
神聖教会が参加するから、ガーランドさんに止められてるらしくてね。王都でお留守番だよ」
「……なんだって」
またシナリオが変わってしまっている。
ガーランドのもとで一緒に修行をしていたなら、本来はこの西ケレ侵攻に一緒に来ていたはずだった。
(ガーランドの近くに残る、か。逆にそれなら、このあともルアはむしろ安心かもしれない。
だけど、じゃあ、スルギはどうなるんだ……?)
不穏な気持ちを抱えたままだが、出発の時間になった。
*
王国騎士団の説明が始まった。
隊列の前に出てきたのは、赤髪をポニーテールにまとめた隻眼の男だった。
その斜め後ろにはハナが控えている。目が合うと、片手をひらりと上げてみせた。
そして、その横にはなぜか神聖騎士団も並んでいた。
ゲームでは、この場に神聖騎士団はいなかったはずだ。
「探索者のみんな、今回は参加ありがとう。
現王国騎士団長のカラック・グローリア。通称ケイジーだ。
西ケレ地方にあるサーザリーという都市の近くで、遺跡が見つかった。
この三ヶ月間、探索と対応を重ねてきたが——ついに『魔放出』が発生してしまった」
周りがざわめいた。
リツの中でも、嫌な感触が走る。
魔放出。
魔獣が大量に溢れ出す事態のことだ。
遺跡級の脅威から起きた魔放出となれば、被害は相当なものになっているはずだ。
「……どこまで……シナリオが変わるんだ」
思わず呟いていた。
幸い、ざわめきに紛れて誰の耳にも届いていない。
「サーザリーで被害が多く出ている。
一度は追い返しているが、早期の対策が必要だ。
そのため、王国の戦力をできる限り集める形で依頼をさせてもらった。是非、力を貸してほしい。
また、今回は神聖騎士団も複数名同行することになっている。
ここからは十日間ほどの行程を経て、到着し次第、直後に対策に当たる」
約百人の探索者と王国騎士団、そして神聖騎士団の面々で、侵攻が始まった。
*
「スルギ、なんで今回神聖騎士団までいるんだ? 王国騎士団と行動するなんて珍しくないか?」
「そうだよなあ、異例中の異例だよ」
近くで聞いていたクオンが会話に参加する。
「なんか、神聖騎士団は遺跡や魔放出とは別で追っているみたいだよ」
「他に何があるんだろうな」
スルギが首をかしげる。
「聖天審判に出る予定だった断罪候補者が逃げたからそれを追ってるらしいよ。内部紛争みたいな状態らしいってさ〜」
「え……クオン、どっからそんな情報仕入れてるんだよ」
スルギが恐る恐る尋ねるが、クオンはふざけた顔をしてその場での会話はそれきりとなった。
*
行軍は人数が多いので、二名ずつのバディを作ったうえで、班分けをされて順番に配置され、進行することになった。
スルギはクオンと、リツはレイアとである。
大人数が一列になって行くのも難しいため、適宜離れて進むが、ちょうど折り返しになる五日目は全員同じ場所で野営することになった。
焚き火のそばで湯を沸かしていると、スルギが刀を抱えて隣に座ってきた。
「クオンはどうしたの?」
「あいつは騎士団の人たちに混ざって情報収集してるよ。ああいうの得意みたい」
スルギが肩をすくめる。
「それより、聞かせてよ。三ヶ月、何してたの」
「スルギの家を出る前に、レイアに師事してセンテとパーティを組んだところからだよね」
それから、三つの魔窟を攻略したこと、シューティングスターというあだ名を付けられたこと、聖女様を見たこと、ミノタウロスの迷宮に挑んだこと、レイアと二人で旅をしたこと、ゴンドーをやっつけたこと。
話せる範囲で話すと、スルギは何度も目を丸くした。
「え? 混色魔窟ってことは、第三位階を超えたのか?
まじか、僕とルアはようやく第二位階だよ。
最初に会ったとき、位階って何ですかって聞いてきた人と同じとは思えないな」
「死ぬかと思ったけどな!」
羨ましがるスルギに対して、本当にヤバかったということを身振り手振りで伝える。
「なんだかんだ、リツとはちゃんと探索したのって最初の魔窟だけだもんね。
ルアとはその後も一緒だったけど。僕はリツと一緒に潜りたかったなあ。一緒に強くなっていくのってなんか良いだろう?」
薪が爆ぜた。
「わかるよ」
「リツもジューゾーさんかガーランドさんに師事させてもらえてたらよかったのになあ」
スルギが笑って、刀の柄をこつこつと指で叩いて続ける。
「今回が終わったら、また三人で潜ろう。ルアも呼んでさ。
それに、クオンやレイアさんにも入ってもらえたら、バランスが良いんじゃないかと思うんだよね」
未来を見据えるスルギを見た。
この先にある未来を、リツは知っている。
ふと、ガーランドに骨を折られながら、未来のことを告げた日のことが、頭をよぎった。
あれから、ルアはこの侵攻に来ていない。良い方に転んだのか、悪い方に転んだのか、いまだに分からないままだ。
「……そうだな。終わったら、潜ろう」
結局、そう返すのが精一杯だった。
「よし、約束な」
スルギが立ち上がり、伸びをして、テントの方へ歩いていく。
その背中を、リツはしばらく見ていた。




