第39話 バトラー&メイド
中央国は、住居が非常に多い国だった。
片側が山になっているせいもあるのかもしれない。
洞窟をそのまま住居にしたような家もあり、斜面にびっしりと人の暮らしが張りついているのが見えた。
そして翌朝、宿の一室で。
「ステラ!! 頼む!! お前しかいないんだ!!」
「リツ様、私はナビゲーションキャラクターです。介入はできかねます」
「そこをなんとかあああ、その姿でいてくれるだけでいいからあああ」
「難しいです」
「フフ……このネチェの実で作られた最高級のスイーツを、ご用意したのに……?」
ステラが一瞬だけ好奇に満ちた目をしたあと、キッと冷静を装って向き直った。
「はい。シナリオに影響を及ぼすことを、助長できません」
「シナリオに影響って言っても、そんな大したことじゃないだろーーーミノタウロスの時も助けてくれたし?
どうしてもほしいんだよおおお。やり方は全部説明するからああああ」
伝家の宝刀、土下座スタイル。
床に頭をこすりつけたまま何度も願い続けると、ついにステラが折れた。
「はあ……分かりました。
では、こちらの姿で、参加の届け出はしていただいても結構です」
「やったあああああ」
*
中央国といえば、ゲーム内でもミニゲームとして最高の人気を博したイベントがある。
『超高級カジノの「給仕係(バトラー&メイド)」潜入ミニゲーム』だ。
中央国には、大陸一番のカジノ「パラパラパラダイス」がある。
このカジノには目玉景品として「キンピカカード」という傾国級のアイテムがあった。
名義人の財産保有量に応じて一定額の支払いが自由にできる、いわばクレジットカードのようなものだ。
手に入れられれば、実質的に金策で困ることがなくなる。
これを通常の方法で入手するには、カジノで1億パラパラ——カジノ通貨だ——を貯めなければならない。
だがそれとは別に、ミニゲームイベントを最後までクリアすることでも手に入る。
ただし、男性・女性混合の合計三人でなければ参加自体ができない仕様のため、ステラに懇願していたわけだ。
ちなみに、このイベント自体は本筋とは関係ない。
にもかかわらず異様に作り込まれたゲーム性があり、大変な人気だった。
いわゆる配膳ゲームで、新米アルバイターから十段階。
最後の十段階目は、裏社会のボスたちが集うフロアである。
一つのミスも許されない緊迫感とスピードを求められるというものなのであった。
「レイアさん〜、一人見つけました!
一人で探索者をやっている、え〜タマという子です。
ちょうどお金にも困っていたみたいなので、ぜひ!」
こういうときに咄嗟に出てきたのが、実家で飼っていた猫の名前で、なんとなく小っ恥ずかしくなる。
「よろしくお願いします」
「よろしく! 可愛らしい子ね!
あら、獣人族? 猫かしら?」
「はい、そうです」
「リツは猫に好かれるわね」
バレたのかとドキッとしたが、レイアはそれ以上追及するでもなく、さっそくステラと何やら楽しげに話し始めていた。
女同士で仲良くやりましょう、ということらしい。
「それではやりますか。題して『パラパラパラダイスでイケイケ給仕大作戦』」
「なんかダサいかも」
*
翌日。
「君たちがアルバイトかい。
ここはたくさんの給仕が働いているからね。よろしく頼むよ。
ではこれに着替えて」
ガチムチの、社員のような人に案内された。
タキシード姿に着替えてフロアに出て、少し待っていると、恥ずかしそうなレイアと、無表情なステラが出てきた。
バニーガールの姿で。
「可愛いけど、恥ずかしいわね」
「レイアさん可愛いです!!」
「ありがと。タマちゃんも見てあげて」
言われて、リツは視線を移した。
「タマも……おお、とてもいいと思う……」
猫耳、尻尾、そこにバニーガールの衣装。
なかなかの破壊力だ。
「遊びじゃないんだ、行くぞ」
ガチムチに促され、まずは一つのポーカーテーブルを担当することになった。
この辺りは余裕だ。
リツがディーラーとして場を回し、レイアとステラが配膳などを担当する形になった。
しばらくすると声がかかった。
横のテーブルも、さらにフロア全体もと、任される範囲が広がっていく。
レイアは持ち前の明るさと素早さで場を沸かせ、ステラは機械のように正確に手を動かしてくれている。
進行は上々だ。
ゲームでやり込んだおかげで、どこで加点され、どこで減点されるかは押さえている。
段階はみるみるうちに上がっていった。
あれよあれよという間に、一般フロア、VIPフロアと駆け巡り——
そして最後、裏VIPフロアの管理を任せられることになった。
*
「ゴンドー様、こちら当カジノでも非常に優秀な、バトラーとメイドの給仕係になります。
引き続き、ごゆっくりお楽しみください」
「おぉ、楽しませてもらうわい」
裏マフィアのゴンドーは、あるタイミングでイカサマを挟んでくる。
給仕を完璧にこなしながら、そのイカサマを止めることでオールクリアとなる。
一度でもミスれば最初からやり直しというクソ仕様だが、リツは完璧に見抜いている。
完璧にディーラー業をこなしていくと、その時が来た。
「ゴンドー様。そちらの手を、開いていただいてもよろしいでしょうか」
「あぁ? 何の言いがかりだ?」
「おそらく、カードを隠し握られているかと。
確認させていただけますか」
「ほぅ。俺がイカサマしているってことかあ?
覚悟はできているんだろうな?」
「はい」
「あぁああん? ふざけるな! おい! こんなやつにディーラーをやらせてるんじゃねえ」
レイアが後ろからゴンドーに向けて銀のお盆を投げつける。
ゴンドーは防ごうとして、手から隠し持っていたカードがこぼれ落ちた。
「……ッチ、バレたか。
おい、逃げるぞ。やっちま……」
ドーン。
ガチムチの社員のような人が、ゴンドーの舎弟をグーでぶっ飛ばしていた。
(レベル六十五だもんな、なんでこんなところにいるんだか)
ゴンドーの方に向き直ると、近くにいたステラを人質に取り、叫んでいた。
「クッソ、おい、このバニー殺すぞ!!」
(しまった……)
人質は想定していなかった。
レイアが近くにあったグラスを投げつけるが、別の舎弟がガードしており、ジリジリと出口へ後ずさるゴンドー。
「そんな見え見えの攻撃が効くわけないだろう」
ゴンドーが吐き捨てる。
ステラの首に腕が食い込む。
どう動くか、考えあぐねていた——その時だった。
ステラが、明確にため息をついた。
次の瞬間には、目にも止まらぬ動きでゴンドーの手をひねり、足を払い、掌底で吹き飛ばしていた。
ゴンドーは壁に叩きつけられ、ボテッと落ちて、そのまま意識を失う。
合わせて、横にいた二人の舎弟も、いなして倒してしまった。
「えぇ……」
呆然とするリツとレイアをよそに、ステラは社員に向き直る。
「これでよろしいでしょうか?」
「あ、あぁ。大丈夫だったか? ありがとう。
イカサマの可能性は疑っていたが、バレなければ指摘もできないからな。
これまでのことを考えると、値千金だよ。助かった。よく見抜けたな」
バーンとドアが開き、金髪にピンクのスーツを着た、テカテカのおっさんが現れた。
社員が叫んで、お辞儀する。
「「「オーナー!」」」
「見ていたよーーー、ブラボーーー! ありがとうーーー!
私がオーナーのパラパラだ。
素晴らしい給仕係たちだね」
ふんふんと自分の世界でなにか考えている。
「よし、ご褒美をやろう。何がいい? 何がいいんだい?」
変わった圧のかけ方である。
「一番の景品になっている『キンピカカード』がほしいです!」
「ふぅむ……。もちろんさーーー! あれをやろう。
あとは、心配をかけてしまったその女性二人にも、プレゼントをしよう。ほれ」
従者に合図をすると、大きな箱が二つ運ばれてきた。
促されるままに、レイアとステラが箱を開く。
レイアには「灼熱のドレス」、ステラには「黒猫の踊装束」と、それぞれドレスが入っていた。
「良い装備だけど、明らかに露出が多すぎるわね……」
「これから君たちは私のお気に入りだ!!
いつでも来てもらえれば、……特に女性なら……服は見繕ってあげようーーー!」
「ありがとうございます……」
変態オーナーに引きつつも、目当てのものは手に入った。
*
カジノを出ると、外はもう夜だった。
冬が近づいてきており、少し肌寒い。
タマは丁寧に頭を下げると、人混みの向こうへ消えていき、レイアは見えなくなるまで手を振っていた。
(……ステラって、あんなに強かったのか)
長かった旅も一段落し、ようやく、王都に戻るだけとなった。
戻れば、西ケレへの侵攻が始まる。




