第36話 時計仕掛けの迷宮
洞窟内は特に変わったこともなく通り過ぎて識異点に到達した。
ただ、本番はここからである。
センテは慣れた様子ではあるが、混色魔窟はレイアも気を抜けるような難易度ではないと理解している。
リツは改めて気合を入れ直し、転移した。
転移先は、珍しく地面が石畳のようになっていた。
天井も側面も全く見えないため、はっきりとは判断がつかないが、少なくとも相当広い空間にいるのだろう。
中心に角の生えた牛のような鉄像があり、遠目に見る感じ固まっているようだが、手には鎖に繋がれた鉄球と斧を持っている。
「うわ……マジか……これはヤバい」
「リツ、なにか知っているの……?」
ゴーーーーーン。
突如、鐘のような音が鳴り響き、全員ビクッとする。
見上げると、頭上に空を覆うような巨大な時計盤がこちらを見下ろしていた。
僅かな沈黙が訪れたあと、「ガヂッガヂッガヂッ」という鈍い音を出して、時計の秒針が動き出した。
ヒュー……ドーーーンッ。
直後、秒針が五秒ほど経過したタイミングで、風切音がしたかと思うと、後ろでとてつもなく大きい音がした。
振り向くと、大きな板のようなものが落下してきたのだとわかった。
長さは五メートルくらい、太さも一メートル程度ある。
先端が鋭利になっているようで、地面に突き刺さり、壁のように立っていた。
それと同時に目の前のミノタウロスがバキバキと音を立てて動き出した。
「気をつけて! 五秒ごとに、迷宮が出来上がっていくはず!」
見覚えのある状況を踏まえて、リツが呼びかけた。
ミノタウロスに対してはまずは様子見と距離を取っていると、持っていた鉄球を回し始め、振り回してきた。
わかりやすい振りかぶりのため簡単にかわせたが、座標感知に頭上からの落下物が感知され、慌てて横に飛び抜けることになった。
直後にまたドーーーンという音がして、リツがいた位置に巨大なブロックが落下してきた。
「危ないですね。あの牛もたぶん狙って攻撃してきてるみたいですし」
「そうだね、ブロックは察知できるけど、あの牛が捉えられない。何か阻害されてそう」
直後に板の横から、ミノタウロスの持っていた鉄球が迫ってきた。
「うおっ器用だな……」
(ゲームでも苦戦した覚えがある)
「ミノタウロスは氷属性の魔法しか効かない! 物理も通るけど相当硬いぞ!」
「氷魔法は僕が中級までなら使える!」
センテも少々戦う大変さを感じたのか、やる気である。
「じゃあ俺とレイアさんで撹乱しながら、センテの魔法で徐々に削っていこう! とっておきの手があるから、広い空間まで誘導したい!」
とりあえず落ちてくる板と鉄球を避けるのに集中しながら先へ進む。
「あと、早く倒さないと! 分針が十を指すと……」
まだ板が落ちていない広いエリアに出ることができたが、今度は牛がいない。
と思った束の間、目の前の暗闇から今度は斧が回転しながら飛んできた。
避けるため雷身体になって横に飛び出すと、間一髪で免れる。
斧は鎖で引き戻されると、直後に再度投げられてきて、そこから、連続した攻撃が続いており、身動きが取りづらい。
壁や地面を削って土埃が舞い上がる。
土埃が収まり顔を上げると、レイア・センテがいた方向に、間を二分するように大きな板が落ちてきていた。
「マジか……なるほどね……さすが悪意」
「レイアさーん、センテー、大丈夫ーー?」
恐ろしいほどに音が聞こえない。
ガヂッガヂッという秒針音と、定期的に発生する迷路が出来上がっていく音以外は聞こえない。
(マジか……リアルだと難しすぎるだろ……とりあえず早く合流しないと)
心細いが、一人で先に進みだすと、いつの間にか、ステラが後ろについている。
寂しくないようにだろうか。強力な二人と離れて、迷路に取り残されてしまった心理状況的には、かなり有り難い気遣いであった。
角を曲がろうとするとミノタウロスが斧を振り下ろしてきた。これも間一髪で雷身体になって避ける。
「……こっちにいるのかよ!」
迷宮が完成されつつあるためか、すでに鉄球は持たず、斧だけを持って振りかぶってくる。
大ぶりのため簡単には当たらないが、腰の短剣を抜いて合間で切りかかっても、ほぼ傷がついているとは言い難い状況だ。
「くそ、硬すぎるだろ」
ミノタウロスの間を通り抜け、迷宮の先に向かって走り出した。
途中からミノタウロスも四足歩行で、都度壁に激突しながら追いかけてくるが、ギリギリで避けていく。
かなり先に行くと、まだ壁が落ちきっていないエリアになってきた。
「一人でやるしかない」
ミノタウロスが再度斧を掴み、振り回して連撃をしてくる。
なんとかかわすのでギリギリだが、横目で頭上の秒針を見ながら、秒針が五を叩くのに合わせて、ミノタウロスの足元に向けて空間包囲網を展開した。
ミノタウロスがバランスを崩し、倒れた瞬間、上から板がミノタウロスの左肩に深く突き刺さった。
ギャアアアアアという声を出したが、再度立ち上がってくる。
左肩に刺さった板が、ぐらりと傾いだ。
狙ったのは首だった。
(クソ……! うまくいかなかった——ゲームでは、これで落とせたのに)
悔しさに歯を食いしばると、その直後、二度目の鐘が鳴った。
頭上を見ると、分針が十を指していた。
「……やばい」




