第35話 デスマーチ
そう言いながら、センテが用意してくれたご飯をかきこんで、じゃ先にとそそくさと宿を出た。
門の方に向かうと兵が何人もいたので、似顔絵だとバレることもないかなと思いつつ、雷身体になって壁を登って外に出る。
大きな石のところで数十分ほど待っただろうか。
チラホラと人の往来がある中で、街から大きな馬車が出てこちらに向かってくるのが見えた。
二十名くらいの大所帯である。
リツが待っているのは王都方面なので、王都に行くのだろう。
だんだんと近づいてくると、掲げている旗からして、神聖教会の馬車だとわかった。
(やばい……隠れるところもこの岩くらいしかないし、今動いたら絶対怪しまれる)
この規模の人数に見られ、昨日の犯人だとバレれば、雷身紋を使って逃げられたとしても、指名手配になることは間違いないだろう。
とはいえ、近づいてくるのにもうできることは、ドキドキして待つこと以外ない。
そのまま石に座ったまま動かずに待っていると、神聖教会の人々は一瞥してから素通りしていった。
通り過ぎる際に、揺れたカーテンの隙間から、昨日の女性が乗っているのが見えた。
(あっぶない……! 気づかれなくてよかった。そしてやっぱり偉い人なんだ、王都に行くのか)
それから少しして、センテとレイアが街から出てきた。
「どうやら聖女様が本当にいたっぽいよ。もっと早く出れたんだけど、規制で出れなくて時間かかっちゃったのよ」
「え……じゃあやっぱり昨日のは聖女様だったんだ……」
「聖女様に会えるなんて幸運だったな。
聖天魔法の担い手として選ばれてるから、お高い金額を払って治療を受ける貴族くらいしかなかなかお目にかかれないはずだ。
でも、神聖教会の総本山から出て来てるなんて珍しいな」
*
そんな話をしつつ、センテとレイアが取ってきてくれたクエストの魔窟に向かい、これも難なくクリアできた。
「これでようやく三つ目ね。どう?」
レイアに問われて、ステータスを確認すると、レベルが二十まで上がっている。
第二位階に到達できたようで、ふっと身体が軽くなる感じがあり、力が漲っている気がする。
ステータスボードを見ると、新しく『空間包囲』という魔法を使えるようになっていた。
空間固定が点を押さえるのに対して、面で抑えられるようになる魔法である。
「順調そうだよ。第二位階に上がったと思う」
「よかったな。一ヶ月も経たずにここまでこれるなんてすごいもんだろう」
センテはそう言うと、もう次の話に移っていた。
「では、昨日の混色魔窟に行こう」
早く行きたそうにしている。
「ちょ、ちょっと待って。マジで死にかねないって。考えがあるんだ。少しだけ付き合ってくれないか?」
「だったら案内だけして、外で待ってろ!」
センテは急かしてきたが、リツからすると逃すわけにはいかない機会だった。
なぜなら、混色魔窟をクリアすると、第三位階に上がることができるためである。
微色や侵色という強者は、基本的には深淵大陸で活動する。
そのため、一緒に混色魔窟に入れるなど、望んでも得られるものではない。
何としても、一緒に行きたい。
それでいて、死ぬわけにはいかない。
「旧王の遺品を探すなら、俺が強くなっておかないと足を引っ張るだろ」
そう主張し続けると、センテも渋々同意した。
「俺は主張を押し通してくるやつは嫌いだ!」
と言いつつも、なんだかんだ合わせてくれる。
リツは「1週間だけ」という猶予を勝ち取って、レイアとセンテを連れて近郊の森に向かった。
目当てはドッペルダンサーという魔獣である。
ゲームでも出現率が低く、魔獣コンプリートのため、長時間粘った記憶がある。
ドッペルダンサーは、鏡面質に覆われている。
そこに映った魔獣や人のコピーを生み出し、そのコピーに攻撃させるという特殊なスキルを持っている。
そこで、ドッペルダンサー二体を同一空間に閉じ込めるとどうなるか。
結論、内部で相互に増殖し続け、お互いを攻撃し続けるのである。
そしてこれは、空間魔法で閉じ込めておけば攻撃判定になる。
つまり、閉じ込めて放置しておくだけで経験値が積み重なるという、空間魔法だからこそできる効率的なレベル上げ方法というわけである。
そうして、空間包囲を練習しながら粘ると、二日目に一体確保でき、四日目にようやく二体目を確保することができた。
一体目は二日間、リツが捉えたままにしていた。
時々リツのコピーを生み出してくるので、それを倒さねばならない。
この役割はセンテが申し出た。
コピーと言っても劣化版なので、基本的には体当たりしかしてこない。
それをセンテは「絶対そこまでやる必要はないだろ」という勢いで思いっきり叩き潰していた。
自分の見た目をしたコピーが吹き飛ばされているのを見るのはなんとも言えない気持ちだったが、ストレス発散になっていたようであるから、よい……だろう。
ということで、ついに、二体を空間包囲の中に入れて、維持し続けると、中でじわじわと増殖が始まった。
数が多くなっていくので加速度的に増えていき、密集度があがってきたタイミングで、倒される個体が出てきた。
一体ずつは大した経験値がないが、徐々にレベルが上がり始める。
MPが尽きたらセンテからもらった回復薬を飲み、眠気と戦いながら、ひたすら粘り続けた。
ゲームでも、仕事でもこなしてきた、懐かしのデスマーチである。
「……あのー……リツ、まだ続けるの?」
半日ほど経った頃、レイアが恐る恐る覗き込んできた。
「まだまだ」
「昨日から寝てないよね?」
「寝たら、空間包囲切れちゃいますからね……大丈夫です。こういうの慣れてます……」
そして、二日間近く不眠で頑張ると、ついにレベルが二十九になっていた。
「やることがえげつないな……」
時々様子を見に来ていたセンテが素で引いていた。
「なんでそんな、魔獣を経験値の樽か何かみたいに……いや、いい。何も言うまい」
そして、倒れたように眠っていると、センテに「待ちくたびれた」と押し切られる形で起こされ、いよいよ力と仕掛けの混色魔窟に突入することになった。




