第33話 サーンの夜
「おい、シューティングスター、気をつけろよ。
超有名になってるし、雷身紋なんて高価なもの持ってるのみんなにバレてるから、悪いやつに絡まれないようにな」
「その呼び方をやめろ!
そのへんのやつに絡まれても、雷身体になるから大丈夫だよ!」
雷身紋は手の甲に付け、手の甲をこすることで発動する。
一番の特徴は、一定期間、電気をまとった雷身体になることだ。
雷身体になれば高速移動が可能になり、その他にも、威力は弱いが、感電などの疑似電気魔法が使えるスグレモノだ。
「まあでも気をつけなよ。
絡んでくるのが悪いやつだけとは限らないから。
特にソーンは……」
「え、それどういう……」
「まあまあ、それはそれで楽しければいいんじゃないか。
じゃあ明日は一旦各々自由行動ってことで。僕はもう帰るよ」
「あ、じゃあ私も」
全員で店を出る。
リツは黒色階級の二人とは資金状況が違いすぎて、安い宿にしていた。
繁華街から離れて、一人で向かうことになる。
夜も更けてきたが、通りはまだ賑やかだった。
新しい街、新しいアイテム。気分は上々である。
恥ずかしいあだ名を付けられたのは納得しかねるが、あれだけ称賛されるのは気持ちいいものだ。
栄光にほろ酔い、いい気分で気を抜いていると、気づけば……周囲を人影に囲まれていた。
やけに照明が明るいエリアなので、逆光でよく見えない。
「言ってたそばからか……何だお前らは!」
「クックック」
「何だお前らは! だって——かわいい〜〜〜〜〜〜〜〜」
一歩踏み出してきた二十名くらいの人影は、全員きれいなドレスを身にまとった……お姉さんたちだった。
「な、なにぃ!!!!!!!!!」
「あなたがシューティングスターでしょ? かわいい顔してる、私の店来ない?」
両サイドから寄り添ってくる。
ドレスを着てはいるが、皆さん総じて露出度が高い。眼福である。
最高ではあるのだが、リツには元の世界での経験があった。
社会人になりたての頃、雰囲気で入った店でぼったくられたことがある。
それも一回では懲りず、二回もある。
それ以来、どこの店に入るときにも、少し不安になってしまった苦い過去がある。
そんなリツは、危険な匂いを敏感に感じ取った。
「大丈夫です大丈夫です! またぜひ!」
と言いながら小走りで通り抜けていく。
異世界の、様々な種族のお姉さんたち。
そうか、ゲームでは描かれなかったが、人々が生きているということはこういう世界もあるのか。
——明日、センテに相談してみよう。
そんなことを考えながら走っていくと、段々と毛色が変わったオネエさんたちが登場してくるようになった。
「あなた、シューティングスターでしょお? かわいい顔してるじゃないの、私の店来なさいよ」
言っていることは同じだが、声が太いし身体がムキムキすぎる。
通り過ぎようとするが、圧が違う。
太い腕がリツの首元をかすめる。
……え?首元って何する気なの?
そんなこんなで、ほぼ追いかけられている。
「ちょっと〜いいじゃないのよ〜」「待ちなさいよ〜」「ただでもいいわよ〜」
「しょうがないわね、みんな! 愛は言葉よりも身体で表すものよね!」
野太い、勝ち鬨のような声が上がる。
後ろを振り返ると、高いハイヒールを脱ぎ捨てて、前傾になって追いかけ始めようとしている十名ほどのオネエさんが見えた。
「やばい……捕まったら終わる……!」
手の甲に貼っていた雷身紋をこすり合わせると、バチバチと電気の音がして、ぱっと前に進む。
「よし、使える」
何度か使うと、後ろの一団とは距離ができた。
だが、顔を上げると、正面にもオネエさんたちが立っているのが見える。
「どんだけ多いんだよ!」
再度手の甲をこすり合わせ、両脇に並んだ家の屋根に移動する。
「あそこよー!」
雷身体での高速移動は、残像が残るため、すぐに特定されてしまう。
だが、活路は見えた。
「ちくしょう、連続で行くしかない」
手の甲をこすり合わせながら、屋根伝いに高台の方に移動していく。
オネエさんたちの声が遠くなっていく。
「はあ、ここまでくれば大丈夫だろ。疲れた」
少し腰を下ろして呼吸を落ち着かせると、見渡す限りに海が広がっているのと月のようなものが見える。
無我夢中で逃げてきたが、どうやら、高台にある大きな教会の屋根の上のようだ。
「うわぁ、いい眺め」
せっかくこんなところまで来たのだし、と少し眺めていると、逆にこんな所まで来たんだなあと感慨深くもなる。
世界はまだまだ広い。
不安なことはたくさんあるが、一緒に旅をする仲間もいる。
ゲームでは変えられなかった未来も、この身でなら変えられるかもしれない。
そのためには強くならなければならない。
元の世界に思いを馳せるよりも、この先この世界を冒険することを想像して、拳を握った。
「……ふう、宿に帰るか」
港の夜は少し肌寒い。
それに宿も早めに入らないと、宿主にいい顔をされないだろう。
そう思って身体を起こそうと手に力を入れた途端、足元でメキメキと音がした。
——次の瞬間、教会の屋根が崩れ落ちた。




