第32話 シューティングスター
翌日、探索者ギルドで黄色と赤色魔窟のクエストをもぎ取り、レイアとセンテとの修行が始まった。
都度、王都には戻らず、南東にあるサーン商工自治領を目指しながら魔窟攻略をしていくことになった。
旧王の遺品探しの第一歩目についても、薄れかけたシナリオの記憶を、必死に手繰り寄せた。
サーン商工自治領の近くにある魔窟で「深く青く沈む金冠の地図」というものを手に入れることが、先の案内になるはずだ。
レイアは教えるのがかなりうまかった。
行き道は街道を行かず、遠投・気配消しなどのスキルを次々と教えてもらう。
王都を出て二日目には、黄色魔窟に到達した。
リツが斥候をしつつ、敵と出会ったらレイアが銃で牽制、そのままリツが前衛で戦うという流れだ。
基本センテは手を出さない。
最初の識異点魔獣は、コウモリの群れだった。
『黄色の魔窟は、状態異常の魔窟』というだけあって、コウモリたちは毒牙を持って集団で襲い掛かってきた。
が、そもそもリツは状態異常無効だ。
何度噛まれても、傷は痛むが、それだけで終わる。
「……あんた、毒を食らって平然としてるの?」
群れの中で棒立ちのまま矢を放ち続けるリツを見て、レイアが引いた声を出した。
音無鳥の弓は、弦の音すら鳴らない。
毒を効かせたつもりの群れは、どこから射られたのかも分からないまま、次々と落ちていった。
「便利なスキルだなあ、聞いたこともないんだけど」
「……まあ、いろいろありまして」
黄色魔窟は、あっけないほど簡単に終わった。
次の赤色魔窟は、そうはいかなかった。
力自慢の魔獣が出てくるというだけあって、一撃が重い。
まともに受ければ骨が折れる。リツは終始、避けることに専念させられた。
「リツ! 避けるのは上手いけど、避けてから次が遅い!」
レイアの声が飛ぶ。
「避けるってのは、逃げることじゃないの。次の一手を取りに行くことなんだよ。
どこに避けたら、次にどこを狙えるか。それを先に決めてから動きな!」
言われて、初めて気づいた。
自分は、当たらないことばかりを考えていた。
避けた先に何をするかを、何も決めていなかった。
以降、意識して足を運ぶ場所を選ぶようにすると、明らかに攻撃の回数が増えた。
座標感知で敵の位置を掴み、避けながら次の射点へ入る。
——ゲームの画面で、キャラクターを操作していた感覚に、少しだけ似ていた。
識異点魔獣は、巨大な狼のような敵二体。
遠識で片方の動きを先に捉え、レイアが牽制した隙に、二体まとめて射点へ引き込み、同時に倒す形でクリアできた。
「うん。だいぶマシになったね」
レイアがそう言って、リツの背中を軽く叩いた。
そして、リツの記憶をたどり、「深く青く沈む金冠の地図」が報酬になっている魔窟を探し続けた。
サーン商工自治領の近くのかなり入り組んだ海岸線の岩場を転々と探し続けると、まだ誰の手も入っていないであろう魔窟があった。
紫色だった。
「紫か。混色だね」
センテが眉をひそめる。
「掛け合わせが出ると、途端に難易度が跳ね上がる。紫ってことは力と仕掛けってことだろう」
(力と仕掛け……罠を掻い潜りながら、一撃の重い相手と戦うことになるのか)
「厄介なのが出たら、リツが即死しそうで心配」
「ええ、怖い」
「とりあえず、ここまでとっても順調だしね。
まだ時間はあるから、サーン商工自治領に行って、別の魔窟を見ようか。
リツが段超え試練で第二位階に上がれば、さらに動きやすくなると思うから」
合意して、陸側は高い壁に囲われている、サーン商工自治領に入った。
サーン商工自治領は、海に面しているだけあり、船の往来が多く、漁業や貿易が特徴的だ。
港に騎士を模した二体の白い巨大な像があるのが目を引く。
王都も人が多かったが、さらにいろんな種類の人やモノが集まっている感じがある。
潮の匂いが、鼻をくすぐった。
新しい街に来たのだと、胸が少し高鳴った。
*
隣を歩くセンテが、人の流れを眺めて言った。
「サーンの商業ギルドは今日も賑わってるねえ。さすがギャンブルギルド」
人だかりができているところを見ると、現代で言う射的ゲームのようなものに大勢の人が集まっていた。
リツも気になってちらりと覗くと、『シューティングバンバン!』と弧を描くように大きく書かれている。
リツは目を輝かせずにはいられなかった。
「うおおお、懐かしい。このミニゲームこっちにもあるんだ」
「お、リツはどこかでやったことあるの? 難しいんだよねえ、大体全然当たらないんだよ」
「ちょっとやってみたいな……これ景品何? ……え! 雷身紋!?!?」
遊園地のゲームコーナーのような仕様になっていて、景品がいくつも並んでいる。
その中で、雷身紋の名前だけが客寄せのようにデカデカと書かれていた。
「いいけど、雷身紋はスコア100点でもらえるものだから全然取れないよ。
今まで歴代でも100点はいないんじゃない? 大体40点くらいの景品が取れたらラッキーくらいで……」
「任せて! 次、俺がやる!」
リツはゲームをやり込んでいた。
つまり、ミニゲームもスコア100点までやり込んでいた。
こういったミニゲームにはどれもコツがあるのである。
チャララララ〜と陽気な音楽とともに、様々な大きさの魔獣の絵をかたどった画像が動く。
それを銃で狙っていく。
ズッタズッタというリズムに合わせて上下に撃ち抜く。
ボミボミ、ズンズン
チャララ〜ジャッジャッ
ボミボミ、ズンズン
そして最後にシュルルルル〜ドン……パンというリズムで、フィニッシュ。
画面全体がピカピカ光り、スコアは100点と表示された。
周りにいた観客が一斉に声を上げる。
「うぉおおすげえな兄ちゃん!」「スコア100なんて本当に出るんだな!」「美しい。華麗なリズムの少年だね」
口々に盛り上がる人々に囲まれ、アンコールをせがまれる。
「ギルド職員さん、これもしまた100点だったら何か景品あるの?」
「いえ……今すぐにはないので、下位の景品から選んでいただくしかないかと……」
「そうしたら、もし100点出したら二回分チャラにしてね」
「それで良ければ……」
再度100点を叩き出すと、さらに多く集まった人が、それぞれにリツを称賛した。
「シューティングバンバンの申し子!」「突如現れた新星」「美しい。華麗なリズムの少年だね」
こうしてリツは、「シューティングスター」というあだ名を拝命することになった。




