第31話 それぞれの師匠
目が覚めると、真横にゼロの顔があった。
「うわっ!!!!」
驚いて転げ落ちる。
立ち上がってみると、風通しの良い部屋でベッドに寝かされていたのに気が付いた。
声に気づいたのか、センテがドアを開けて確認しに入ってくる。
「おい、大丈夫か。高熱が出てたみたいだが」
病み上がりの妙な力の入らなさは感じるものの、特にそれ以外に不調な感じはない。
「うん、大丈夫そう。ありがとう、センテと会ったところまでは覚えてるんだけど……ここは?」
「とりあえずこっちに来なよ」
隣の部屋に呼ばれ、先にあるテーブルに腰掛けた。
きちんと片付いた、居心地のよさそうな部屋だ。
「裏道で僕と会った後にぶっ倒れたんだよ。仕方なく運んでやったというわけだ。それで……どうしたんだ?」
センテが聞いてくる。
(さすがパトロンである。優しいのがしみる)
道具を持ち去った話、ガーランドからの尋問、知っていたはずの成長環境が失われたこと。
一通り話した。
「ふぅん……で、どうしたいんだ?」
「……強くなりたいよ。それも早く強くならないといけない。
何か方法はない? パトロンとして修行をつけてくれたり……」
「道具師になるならまだしも。もっと適任の師匠を見つけたほうがいいだろう」
「そうだよなあ、やっぱりまずは職業ギルドでも見てみるしかないか……」
落ち込んでいるのを見かねたのか、センテが続けた。
「ちょうどいいのがいるだろう。頼んでみなよ」
センテが窓から顔を出し、大きな声で「おうい、戻っておいで」と声をかけると、走り寄る音がして、入口の扉が開いた。
そこにいたのはレイアだった。
「リツ、起きたのね! 大丈夫?」
「あ、はい……」
「師匠との訓練の日だったんだけど、いきなり倒れてるリツを連れてくるからびっくりしたよ。
ここ、私の家なんだ。冒険区の、東のはずれのほうね」
「この前話し合っただろ?
僕が深淵大陸に戻るまでの、期間限定だが面倒を見てあげることにしたんだよ。
修行をつけてあげる日だったからちょうどよかった感じってことさ」
そういうことか、とリツは腑に落ちた。
先日、図書館でレイアと再会した際に、次のスキルの伸ばし先に悩んでいたレイアに対して、センテを紹介したのだ。
道具師のスキルである「道具生成魔法」と「多重道具扱い」を覚えれば戦いの幅が広がると勧めた形だ。
ゲームでは、斥候の器用さで道具の「クイックチェンジ」を使っていくことで、「ウェポンマスター」という統合上位職を目指せるのである。
そして、ゲームで見てきたセンテであれば、美人なお姉さんの頼みは断らないだろうと思ったのである。
間違いなかった。
「ん? ってことはさっきの話は」
「そうだ」
「なんのこと?」
確かに、頼むならこの人は適任である。
「レイアさん、——師匠になってくれませんか?」
「え? 私?」
「そうです、道具師の修行中ですよね?
その修行をこなしながら、一緒に魔窟に潜ってもらったりして、斥候の修行をつけてもらいたいんです」
「え〜私、師匠はやったことないよ?」
「大丈夫です、ある程度までやり方が分かれば、吸収できるんじゃないかと思うので!」
「なんだそれ。まあ私も道具師修行で潜りたいからね、師匠もずっといるわけじゃないし、格の釣り合う相手を探すのも大変だから、ちょうどいいかも」
「よかったな。じゃあ、早速いこうか」
「えっどこに?」
センテの急な提案に、リツもレイアも驚いて振り返った。
「リツ、いい遺品が落ちているところか、なにか知ってるだろう? 僕もついていくからそこに行くんだよ」
「遺品ダンジョンなんて、大体高位階じゃないと……」
「じゃあないのか?」
「いや、あるにはあるけど、それなりに危ない橋だと思う……」
「微色と侵色がいるんだぞ。お前も早く強くなりたいんだろう。一矢五グレムリンってやつだな!」
「一石二鳥みたいなことかな……」
「わからないがそういうことだ。明日から出るから準備しろ」
*
「師匠になるのはいいけど、リツは何の職業を目指したいの? 今はまだ初期職業としての斥候でしょ?」
「そうですね……強いと言うと、最終的には、魔銃士、賢者、簒奪者、阿修羅、ウェポンマスター、冥剣士などを目指すのがいいかなと思っていますが……
まだまだ先は長いので、まずは素早さと近接戦が強くなることですかね」
センテは特に気にしていない様子だが、レイアが驚いている。
「な、なにその職業……」
「あ〜ということを、昔、行商人に聞いたり、古文書で読んだんですよ。
職業も新しいものが生まれていますし、目指すならいいかなってね!」
「なるほど……? ま、図書館で勉強してたぐらいだし、物知りってことだねえ!」
「とはいえ、初期は拳闘士・斥候・銃士・剣士・狩人あたりで基幹職としてちゃんと育つのがいいんじゃないか?」
センテが助け舟を出してくれる。
「やっぱりそうですよね。目指せウェポンマスターのレイアさんもいることですし、斥候を軸にいろんな武器を鍛えていくことにします」
「え、私はそのウェポンマスターって職業を目指してたの?」
「あ……まあそうです!」
センテが呆れた顔をしている。
「ううん……まあいいか。武器はどうするの?」
「いまは弓と短剣を持っています。
あとは、銃、投器、ショートソードあたりまでは使えるようになりたいです。幅を広げていきたいなと」
「それもすごいけれど……まあいいや、探索者の基礎力という意味では、斥候より優れているものもないからね。
情報収集ができるのが何よりも強みだよ。情報が先、戦闘が後。これが基礎だね」
「分かりました、師匠!」
「とりあえずは魔窟をクリアしながら位階を上げようか。取り急ぎ、どのあたりまで目指す?」
「三ヶ月でできる限り強く、第二位階の段超え試練までは終わらせたいです!」
「じゃあ魔窟を三つは超えないとだね」
「そうですね、良い遺品も探さないといけないですし」
「あ、そうだ。私のパーティ解散したって言ったでしょ? よければここの空き部屋も使っていいよ」
レイアの優しい提案に対して、なぜかセンテがジロリとリツを睨んだ。
(……レイアの家に居候できるのを羨ましがっているのだろうか)
*
オーガスト家に戻ると、ちょうどスルギも荷造りをしていた。
「師事試験合格できたよ。十五人くらい受けて合格者は僕ともう一人だけだ。すごいだろう?」
「よかったな! おめでとう」
「そのもう一人っていうやつがあんまり好きじゃないのが難点なんだけどね……
明日から泊まり込みで師事を仰ぐことになったよ。
というかルアは一緒じゃないの? リツはどうするの?」
これまでの経緯を説明して、ルアがガーランドに師事することになったことと、リツはレイアのところで師事を仰ぐことを伝えた。
「えぇ! ガーランドさんはすごいな。でもとりあえず安全そうで良かったね。
じゃあ一旦は各自修行ってことか。負けないように鍛えてくるよ。
家も自由に使って大丈夫だと思うし、定期的に連絡しよう」
スルギが部屋を出ていくのを、リツは見送った。
ルアはガーランド、スルギはジューゾー。
どちらも、この世界で指折りの実力者だ。
リツは西ケレまでに追いつかなければならない。
ゲームでは、西ケレまでの三ヶ月を、それぞれの師匠に修行を付けてもらいつつ、一緒に魔窟に潜って第二位階を目指すことになっていた。
三つの魔窟を、ああでもないこうでもないと言い合いながら攻略していく。
プレイヤーの誰もがスルギを主力に据えるのは、あの時間があったからだ。
ただ、もう、そこに自分が行くことはできなくなった。
絶望した気持ちだったが、これでよいのかもしれない、と思い直す。
シナリオをなぞって西ケレに立った主人公は、それでもスルギを救えなかった。
同じ道を通って、同じ場所に立ったところで、結果が変わるはずがない。
明らかに物語が変わってきている。
それなら、新しいやり方で、物語を作っていけるはずだ。
そうすれば——スルギも救えるかもしれない。
そして、その先で失われるのは、スルギだけではない。
今はガーランドのもとで笑っているであろう、あの少女も同じだ。
いや、二人を救うためにも強くなるんだ。
レールから外れていっている自分に言い訳をするように、そう強く思うことにした。




