第29話 大魔道士ガーランド
その夜、ガーランドとの面談の日程が決まった。二日後だという。
「そういえば、二人とも、職業ギルドの方はどうなの? 師匠は決まった?」
神聖教会にルアの状態がばれないように、帰り道はリツが職業ギルドまで毎日迎えに行っていた。
ただ、三人ともしっかりとくたびれていて、あまり会話もしていなかったので、久しぶりの近況報告だった。
「僕は、ジューゾーという遠地から来た速切の達人に師事したいんだけど、大人気だからね。師事選抜試験の真っ最中って感じ」
(やっぱりジューゾーか)
「模擬的に何度か習ったんだけど、やっぱり段超え試練が終わった後だからか、自分の物覚えがすごいよ。
今までだったら全然理解できないだろうと思っていた芯への接近度が明らかに早くなった」
スルギは生傷が増えているが、充実の顔である。
「わかるわかるー。魔法の基礎を習っていてもどうも理解しきれなかったことが、線で繋がった気がするんだよね。頭が良くなった感じ!」
第一位階を超えた辺りからスキルが増えるのは、こういった理由があるらしい。
段超え試練を越えて、本当に格が上がっているような状態だ。
「でも、ルアはまだ師匠が全然見つかってないんだろ?」
「なななんで知ってるのー! ……なんか周りの魔法使いと馴染めなくって……ごにょごにょ」
「気にしなくていいと思うよ、ガーランドさんと会ってから考えよう」
シナリオ通りなら、ルアは職業ギルドで折り合いが悪かったはずだ。
そう思ってカマをかけてみたが、案の定だった。
接近戦が好きな魔法使いというのは、性格も他の魔法使いとは一線を画すようである。
このまま進めば、ルアが修行について心配する必要はない。
とはいえ、若い悩みは尽きないようだったので、ごにょごにょと小さくなる語尾に相槌を打ち続けた。
*
そして、面談日になった。
スルギは師事選抜試験の最終試験があるらしく、行きたがっていたがどうしても来られないということで欠席。
リツとルアの二人で向かうことになった。
城の近くにある王国騎士団の詰め所で声をかけると、細身で背の高い坊主頭の男が出てきた。
「おぅ、ダリオさんからの紹介状の件だな。こっちへ来い」
訓練場のようなところを横切り、城の離れのような部屋に案内された。
「ガーランドさんが直接会ってくれるらしいが、粗相ないようにな」
そう言われると確かに緊張する。
王国随一の魔法使いなのだから、当たり前に相当な偉い人である。
坊主頭の男が、扉の向こうへ声を投げた。
「ガーランドさん、紹介状の件、連れてきました」
「おう、入れ」
校長室のような部屋の奥の机に、白髪で髪の長い男性が座っていた。
魔法使いというよりはプロレスラーに見えるようなガタイだ。
シワがたっぷり刻まれた顔で、書類に目を落としている。
「こちらです。私はこれで失礼します」
案内の王国騎士はそれだけ伝えて去っていき、ガーランド・リツ・ルアの三人になった。
「よく来たな、君がバーサーカー化しているルアちゃんか。横のはお仲間かな?」
「そうです、リツといいます」
ガーランドはジロリとリツのネームタグと身体の各所を見て顔をしかめた後、ルアに向き合った。
「まずは何があったか聞こうか。あの脳筋……ダリオはいいやつだが仕事がずさんすぎる!!!」
(……わかるぜ、ガーランドさん)
そうして、ルアは魔女との出会いから話し始めた。
*
ルアは気づいたら、魔女のもとで育てられていた。
魔女は多くを語らず、名前も知らない。
ダリオを紹介され、普段はダリオの家の近くで生活しながら魔女のところへ魔法を習いに行く生活を三年ほど続けていたこと。
遠い村が魔獣に襲われた際の孤児らしく、本当の親は分からないが、魔女やダリオが世話をしてくれて、寂しい思いをしたことはなかった。
そして、ヴルドの件。
「うっうっ……大変だったなぁ……」
ガーランドが、ガタイに似合わない柔らかい声を出した。
「その魔女っていうのは、かぎ鼻の『〜ってぇねぇ』って喋るやつじゃないか?」
「そうです! ご存知なんですか!?」
「ああ。イェゼルデという魔女だな。東の枯れた国ラフラスの魔女だよ。
まさか王都の近くにいたなんてなあ〜確実にダリオは知っていただろうけど」
安心させるように、ガーランドが続ける。
「ダリオからも言われたと思うが、ヴルドごときに魔女がやられるはずない。だからルアちゃんも心配しなくていい」
魔女の素性をちゃんと知っている、王国一の大魔道士と呼ばれる人から『安心していい』と言われたのだ。
ルアも安心して糸が切れたのか、泣き出してしまった。
あれ以来、行方の分からないイェゼルデへの心配も多分にあったのだろう。
ガーランドはルアのもとに屈んで背中をさすり、ルアもガーランドに寄りかかって、気持ちを落ち着かせた。
「少し落ち着いたかな。それでは、バーサーカー化についても話そうか」
ルアが落ち着いたのを見て、ガーランドが話し始めた。
「ルア、君には可哀想なんだが、現実的な話、すぐには治せない。
ドミネーター化するには、バーサーカー化している相手を自分の力で討つしかない。
ここでは、バーサーカー化した魔獣を扱っているから、ゴブリンやコボルトなど、できる限り弱い魔獣と戦ってもらうことになる。
そうはいっても、バーサーカー化するということは非常に強敵になるということだ。
だから、最低でも勝てる強さにならないといけない。挑んで負けてしまったら、意味がないからな」
「そう……なんですね……じゃあ、たくさん修行して、強くなってから、また来るしかないってことですよね」
「待て待て、最後まで聞きなさい。……というか、ダリオは本当に何も伝えてないようだな」
呆れたような口調でガーランドが続ける。
「神聖教会は、バーサーカー化している人間を目の敵にしているから、危ないんだ。
だから、そういう人間は私のもとで保護している。
つまり、私のもとで修行してもらう。嫌だと言っても拒否権はない」
「え、いいんですか!?」
「あぁ、優しくはできないがね」
「はい、がんばります!!」
ルアの満面の笑顔を見て、ガーランドも安心したように微笑んだ。
バーサーカー化する不安や、神聖教会への不安を抱えながら修行していくことを考えたら、どれだけ厳しいとしても、ガーランドのもとで修行できることが嬉しいのだろう。
「外に師匠ができていたりするとな、師匠と離れねばならなくなるので、悲しむ子も多いのだ。前向きにとらえてくれてよかったよ」
「はい、職業ギルドに五日間も行ったんですが、私は全然師匠いないので大丈夫です!」
ルアは気にも留めていないようだが、元気に言うことではないので、ガーランドも苦笑いになっている。
「シウにも共有しつつ、宿舎を用意してあげよう。少し待ちなさい」
ガーランドが、燕の紋で王国騎士団に声をかけた。
ある程度の距離までなら、遠隔で連絡が取れる紋らしい。
ほどなくして、先ほどの坊主頭の団員がやってきて、ガーランドから指示を受ける。
簡単に案内してくるということで、坊主頭の団員はルアを連れて二人で先に出ていった。
(修行はルアだけなのか)
扉が閉まる音を聞きながら、リツはその場に立ち尽くしていた。
ゲームでは、ここは二人一緒に修行に入る流れだった。
ガーランドのもとで基礎を固め、そこから次の章へ進む。
(……あれ? 俺の修行は……?)
部屋に、リツだけが残された。
ピコン、とシステム音が鳴り響いた。
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メインストーリー達成率:8%
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明日からは、1話更新になり、毎日20時の更新になります。
50話まで走り抜けます!
引き続きよろしくお願いします。




