第28話 キリィの提言
(セーステスだって? 確かにできることは似ているが、違いすぎる)
セーステスは神聖教会が作っている、精霊の残滓を人に取り込ませる魔道具だ。
精霊変体ができるため姿を変えられるのが特徴で、そういう意味ではステラの猫への変体は似ている。
ただ、精霊側のイメージに近くなるはずで、もっとゴツいのばかりだし、黒猫の精霊なんてものはない。
「遺品や呪いをずっと触っているだけあって、魂の感覚に敏感でね。混ざっているように見えるけどね」
ステラは引き続き黙っている。
「まあいいや、彼女の経歴までは条件に入っていない。
一旦素性もわかったし、パトロン契約の方に移ろう」
センテが魔法契約書を出して取引内容を伝えると、契約書の上に文字になって内容が浮かび上がる。
促されるままに同意する旨を言葉に出すと、契約書はその場で消え、口の中に違和感が生まれた。
「飲み込むんだ」
そう言われて、センテが自分の喉を指で示す。
真似て飲み込んでみると、喉から熱が走り、肩のあたりで止まった。
「言葉にした契約を飲み込んで、契約印がついたんだ。一般的だから肩に付けておいたよ」
自分の肩を覗くと、確かに一本の黒い線が引かれている。
センテをチラリと見ると、服を少しまくりあげて、線がびっしりと入った下腹部をちらりと見せてくれた。
*
センテと別れた後、予定通り図書館へ向かった。
居住区にある図書館は、執事から発行してもらった案内証を持って入れたが、とてつもない広さだった。
とりあえず、この世界についての情報を知らないと話にならない、とリツはとにかく調べまくった。
王国史、魔獣の分類、位階制度の成り立ち、各地の地誌。
大雑把な知識を得ていくためだけならかなりの冊数が読める。
ゲームで味わっていた点と点が線になったり、知らなかった背景情報が網羅されたりすることが多々あった。
まず調べたのは、セーステスだった。
教会が公開している資料は、思っていたよりずっと詳しかった。
精霊の残滓を人に取り込ませる工程、適合率、宿主に出る副作用などの注意書き。
そして、公表されている精霊の一覧まで載っていた。
灼炎、樹霊、白翼、魔鋼、邪毒、幻夢——名前を眺めていくと、どれも大仰で、いかにも強大なものばかりだ。
ただ、やはり、黒猫に類する精霊は、どこにも出てこなかった。
記録が足りないのか、それとも、そもそも別のものなのか。
それ以上は分からなかった。
位階制度の成り立ちも読んだ。
リツにとって、第一位階だの段超え試練だのは、ただのゲームの仕様でしかなかった。
レベルが十になったら魔窟をひとつ攻略する。そういう決まりだと、それだけのことだと思っていた。
だが、ここでは違った。
最初に「壁」の存在に気づいた人間がいて、それを越えた条件を書き残した人間がいて、無数の死体の上に、ようやく法則が組み上げられている。
段超え試練という言葉が定着するまでに、七十年かかったと書いてあった。
数字でしかなかったものに、それを見つけた人間の名前がついている。
最も気になったのは、五日目に読んだ反理人の記録だった。
——ジャーナリスト、キリィの提言——
「神聖教会が崇める神『ルーン』は反理人に起源を持つのはご存知だろうか?
変化の時、変化の力を持つものが現れ、変化を正す。
反理人と呼ばれる力を持つ人は現れては消えていく……
その理由は大いなる野望に隠されているのではないだろうか。次週その謎を解き明かす旅に出る」
神聖教会が崇める神と、反理人。
まったく関係のないはずの二つが、この文章の中で繋がっている。
変化の時に現れ、変化を正す——それが反理人だとすれば、自分はその「変化」とやらの中にいるのだろうか。
次の巻以降を探したが、キリィという名前はどこにも出てこなかった。
旅に出ると書いて、消えた。
*
「おい、久しぶり!」
いきなり声をかけられて振り返ると、浅黒い肌を大胆に露出した女性が顔を近づけていた。
「おわっ! ……レイアさん!!」
「勉強熱心だね〜」
「どうしたんですか! なにか調べ物??」
「そうだね〜、パーティもあの一件で解散しちゃったから、一旦修行でもしようと思ってね」
さすが高位探索者だ。
あれだけの事件の後でも、もう次を見ている。
「少年、いま感心しただろう。私はこう見えても座学から入るスタイルだぜ。
それに、感心されるようなことじゃない。
言っただろう、ザルヴァの派遣により、借金を背負ってしまったと……」
図星すぎて苦笑いするしかない。
「ここで読んだ知識を、実践するんですか? レイアさんレベルでも、座学で学べるものがあるんですね?」
「あぁ、斥候職だと流石にもう実務じゃないとだね。
職拡張して上位職を狙おうと思ってね〜。戦士とかかなと。
私の銃、見たでしょ? あれも魔法弾使ってるから魔法も少しだけ使えるけれど、魔法系は強化をすると時間がかかるだろうし、戦闘力強化を模索中ってこった」
斥候で二つの銃が扱える器用さ、魔法が少し使える、戦闘力強化を検討中。
——頭の中で、情報が整理されていく。
「レイアさん、いいこと閃いたんですが、ちょっといいですか?」




