第27話 反理人
外に出ると、不安げな顔のスルギとルアが寄り添ってきた。
センテの仕事を手伝うことで、許してもらったと伝えると、大いに安堵していた。
また、センテからは「別のものが手に入ったから費用もいらない」と言われたので、非常に高価な武器と300万ベルクが手残りすることになった。
うまく着地しすぎたのが気がかりだったのか、スルギは細かく聞きたそうだったが、ひとまず安心といった顔で、街に戻り、細かな道具は大通りの店で揃えて、スルギの家に帰ることになった。
「なんだかんだあったけど、武器も揃ったし、あとは訓練だね」
*
スルギの家で今後の作戦会議中である。
横ではサランが小難しそうな本を黙々と読んでおり、ヨルワは、武器なのか道具なのか判然としないものを、黙々と組み立てている。
ルアが、ここまでの作戦会議の話をまとめる。
「ってことは、商業ギルドでクエストを受け続けて、さらにお金を貯めるか、職業ギルドに行って訓練するか、だね」
スキルは知識と経験で覚えるものだと、ダリオの修行時に聞いていた。
ゲームではクエストをこなしたり戦闘を進めていると閃く形だったし、王都までの道のりでもそれぞれいくつかのスキルは覚えていた。
ただ、より積極的にスキルを覚えたい場合は、ちゃんと知識を得て経験を積まなければならないらしい。
また、特に高位職になると、複数職業への理解を深め、研究や研鑽を重ねてスキルを開発していく必要があるという。
ゲームの背後に、そんな涙ぐましい努力があったとは。
そしてそれを自分が体験することになるとは。
一般的な探索者がどう知識と経験を積み上げているかといえば、職業ギルドで基礎座学を受けた後、師弟関係を結ぶのが一般的だ。
ゼミのような形で師に見てもらいながら基礎的なスキルを身につけていく。
王立図書館や訓練場での自主学習、スキルブックや奥義書を使った習得という方法もあるにはあるが、まあそういうやり方を取る人もいるという感じだ。
「一旦、お金はあるし、まずはしっかり職業ギルドで力をつけるほうが良いんじゃないかな。
さっき父上とも話したけれど、大体一週間後くらいにガーランドさんとの面談の機会が得られそうってことだったから、それまでにできる限り訓練しようってことで」
探索者ギルドでクエストを受け始める場合は、保証金が一人当たり100万ベルク、三人で300万ベルク必要なので、もう少しお金が欲しいところではある。
ただ、危険の伴う探索者ギルドのクエストを受ける前に、もう少し盤石な態勢にしておくことにはリツも賛成だった。
「俺は先に基礎知識を仕入れたいから、まず図書館に行ってからにするよ」
「そっか、執事に案内してもらうといいよ。僕らの修行スピードに出遅れないようにねえ」
「じゃあそれぞれで職業ギルドに行って、強化期間ってことで!」
ルアがそう締めくくった。
*
スルギとルアは朝早くから一緒に職業ギルドに向かっていった。
ルアはずっと緊張する〜と言っていたが、魔法を覚えるのは楽しみだったようで、不安とワクワクを入り混じらせながら向かっていった。
街を歩きたいからという理由で執事の案内を断り、リツはまず改めてセンテに会いに出かけた。
「よう、待ってたよ。人目のないところで話そうか、こっちにおいで」
案内されたのは個室のある飯屋だった。
「すごいな」
「深淵大陸に出ている奴らなんて大体そうさ。生きていれば金はあるからね」
席につくと、センテは水を一口飲んで、口の端で笑った。
「それで? 今日は猫の女の子は一緒じゃないのかい?」
呼びかけると、ステラが出てきて人の姿になった。
お嬢ちゃんも一緒に食べようとセンテが言うので、三人で並んで話すことになった。
普段はルアとスルギにも説明ができていないから、こうしてステラが普通に出てきて話すのはリツも初めてだった。
「そうだな、改めて……リツと言ったか、君、反理人だな」
「反理人……? 物騒な名前だな」
ゲームでも聞いたことのない、耳慣れない言葉である。
そして、良くなさそうな言葉である。
「そう、反理人。異世界から来た人をそう呼ぶんだ。名前の由来は知らん」
「え、ってことは他にも?」
「いや、殆どは噂とか嘘みたいな類の話だけど、竜殺とか勇者はそうなんじゃないかって言ってるやつもいる。
僕は深淵大陸で、明らかにこの世界のものには見えない遺物を見ることがあってね。
だから、そういうこともあるのかな、と思っていた。それだけだよ。
嘘がつけない状況だったとは言え、他の人が聞いたら『盲信者』だと思われるだけかもね」
自分以外にもここに来ている人がいる可能性があるという展開は、あまり考えていなかった。
「で? 反理人のリツは、なにか特殊な力を持ってたりするの?」
「俺の場合は、そのゲームっていうのをやり尽くしていたから、シナリオに精通しているってところかな……」
スキルなどは言及を控えたが、そう言われると、他に何かあったりしないのだろうか、と気になり、横にいた案内役に聞いてみる。
「ステラ、他になにかあったりしないの?」
「さあ、わかりません」
本当に分からないのか、あしらわれたのか分からなかったが、ステラはそれ以上話す気はないようだった。
そんなやり取りを眺めていたセンテが口を挟む。
「ところで、ステラちゃんは何者なんだい?」
「彼女はナビゲーションキャラクターで……」
ステラは答えない。
「そんなわけないだろう、聞いていても、ナビゲーションキャラクターなんて存在は、かなり異質すぎる存在だよ。
君、セーステスじゃないのかい?」
「……さあ、わかりません」
感情などはないと思っていたステラから、感情のようなものが見えた気がした。




