第26話 パトロン契約
「二つの条件って?」
「一つ目は、どういう経緯で僕のことを知ったのか、事細かに話してもらおう。
君みたいな人間に知られている背景は僕も気になっていてね。
もう一つの条件は……少し悩んでいる事があってね。
先に一つ目を聞いてから考えたいと思うんだがどうだい?」
「二つ目がわからないままなのは、相当不利な条件だな……とはいえ、飲める選択肢がないのもわかった上でだろ」
ため息をついて、少し考えてから、声をかけた。
「ステラ」
呼びかけると、どこからか黒猫姿のステラが出てきて、こちらを見上げた。
「少し確認したいんだ。話させてくれないか」
ステラは、猫の姿でも分かるくらい明らかに嫌な目をしたが、リツとセンテに目をやった後、シュルシュルと包み込まれ、人型になった。
「……珍しいものを連れているね」
センテが、静かに言った。
「ステラ、今の聞いていただろう? 経緯を話すとなると、すべてを言わないといけない。それってありなの?」
「それ自体は……可能ですが、おすすめはできません。
未知の要因が増えれば、元の調律から外れていく可能性が高まります。
そうなると、『知っていること』が崩れ始め、連鎖し、大きな結果につながることも想定されます」
つまり、言うことはできる。
ただし、リスクが増えるからやめておけ。ということだ。
改めて隻腕のゴブリンと、レイアたちの仲間の死体が思い浮かぶ。
この状況になったのも自分の判断だが、リツは段々とゲームのとおりに全てを進めることが不可能であることも体感し始めていた。
決断しなければならない。
「センテ、わかった。一つ目の条件は飲むよ。話そう」
ステラは改めて、露骨に嫌そうな顔をしたが、すぐに「フィリス」と言ってまた猫の姿に戻り、後ろで丸まった。
*
外に二人を待たせているから、と前置きをして、ここでは大枠だけを話すことで合意を取り、話し始めた。
ゲームのこと。
この世界がそのゲームそのままであり、恐らく、異世界に転生したような状況だと思われるということ。
だから、センテのことも、この店のことも、知っていたということ。
言葉にしてみると、自分でも呆れるほど荒唐無稽な話だった。
だが、この店では嘘がつけない。
つまり、口から出ていくこの馬鹿げた話は、すべて本当なのだと、この空間だけが証明してくれている。
何を言い、何を言わないかは、話しながら選んだ。
これから誰がどう死ぬのかは、言わなかった。
スルギの名前も、ルアの名前も、口には出さなかった。
(……言ってしまえば、俺の中だけで済んでいたものが、外に出てしまう)
言葉にした瞬間、それは「起こること」として、この世界に置かれてしまう気がした。
それでも——これまで一人で抱えてきたものが、話すたびに、薄く剥がれて落ちていく感覚があった。
軽くなったのか、それとも、ただ手放してしまったのか。自分でも分からない。
戻せない。言ってしまった言葉は、もう引き戻せない。
センテは最後まで黙って聞いて、しばらく何も言わなかった。
「ふうむ、とても訳アリってことが分かったよ」
特に驚いた気配も、追加の質問もない。
それだけを言って、センテは続けた。
「よし、では二つ目の条件も伝えよう……パトロン契約を結ぼう」
「話は信じたのか? それに、パトロン契約って……?」
「だから、嘘はつけないんだから信じるしかないだろ。
ったく……パトロンというのはその名の通りで、出資者さ。
今後、良い遺品があったら回収してきて欲しい。
もし、共鳴できれば解呪して供給してあげよう。無償でね。
ただし、旧王の遺品探しを手伝って欲しい」
「なっ……旧王の遺品!」
「ほぅ……やっぱり旧王の遺品も知っているんだ。話が早いね」
(……そうだ、センテの話から始まるんだ……最強武器収集クエストの一つ、旧王の遺品のクエストだ!
こんなに早く受けられるなんて……願ってもない条件だ)
「もちろんだけど……そんな条件でいいのか?」
「本当は君が僕を知った経緯を聞いて、大したことない話だったら『隷属契約』にしようと思っていたんだ。
捨て駒として遺品回収を手伝ってもらおうかとね。
ただ、今までの流れからして、君はなにか大きい渦の中にいそうだ。
だから、隷属ではなく、パトロン提案にしてみようってね」
(なんとか首の皮が繋がったわけだ)
「情報収集、定期報告、あとはなにかあった場合に手を借りるくらいかな? まあそれまで生きていたらだけど」
「報連相ってことね。任せて」
「なんだそれ。異世界用語か? とりあえず先に肩代わりを終わらせてしまおうか」
そう言うと、センテはすぐにゼロに向き合った。
「ゼロ、オーダー、肩代わり契約」
ゼロの目がジロリとセンテの方を向き、五本の角の光が消えた。
センテは着ていたコートのポケットから、厳重にくるまれた細い包みを出し、差し出すと、ゼロの角がすべて光り、包みは消えた。
そして、舌でセンテ、リツの順で顔をベロリと舐めると光が消えた。
「完了したよ」
「……あの包みはなんだったの?」
「ここでそれ以上聞くなよ! 嘘をつけないんだから、答えるしかなくなるだろう!
深淵大陸の違法物だよ。これ以上は知らないほうがいい」
「仲間も心配しているだろうし、座って話せばいいから、ここは出ようか」
「逃げるとかは心配してないの?」
ハアとため息をついて、一言だけ言った。
「やっぱり、君は侵色を舐めているね」




