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達成率999%のゲームに転生した俺の選択が、シナリオを崩壊させていく 〜攻略者の因果律〜  作者: 波動犬
王都にて

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22/50

第22話 999%の外側

王都までは歩いて戻ることになった。

ザルヴァがレイアから報告を聞くのを、後ろで聞いていた。

 

レイアたちが到着したタイミングでは、ドラムとゴブリンの姿しか視認できなかったという。

そのため、ダンだけを森に残し、罠を避けながら櫓に近づいた。

だが、ドリーが誤って気付鐘(侵入を知らせる鐘)の罠に触れてしまった。

ゴブリンが大量に出てきたタイミングで、死角に紛れていたフープル三匹から魔法を受け、ゼシィーが牢内に飛ばされたらしい。

 

すぐさまレイアは救助に向かったが、想像以上の数と、遠距離攻撃の要であるゼシィーの不在が響いた。

魔法使いのロイが落ち、続いてガンド、ドリーも囲まれて落ちた。

一人ではどうにもならず、レイアは隠蔽魔法で隠れるしかなかった——という地獄のような顛末だった。

 

その後の救助の顛末の中で、リツが援護しようとしたこと、ルアを庇って飛ばされたことを話した。

 

「戦闘には参加するなと言っただろう!」

 

ビルノードンは声を荒らげたが、ザルヴァは違った。

 

「度胸があるな。だが、それよりもとても幸運だね。どう考えても死ぬ確率のほうが高い」

 

そう言って、笑いかけてくれた。

 

報告が終わると、一行が連れ立って歩く中、リツは、少しだけ歩調を速め、先を行くザルヴァの隣に並んだ。

ルアたちには、聞こえない距離だ。

 

「ザルヴァさん。……一つ、聞いてもいいですか」

 

「うん、なんだい」

 

「さっきの、集落のことです。……ああいう集まりって、その、どうやって、できるんですか」

 

ザルヴァは、少し意外そうにこちらを見たが、すぐに、穏やかに答えた。

 

「そうだね。強い個体が周りを従える場合もあれば、知恵のある個体が仲間を集め、群れになる場合もある。

……珍しいことじゃないよ。この世界じゃ、どこででも起きている」

 

「……その、たとえばの話ですけど。

……人と戦って逃げた個体が、知恵をつけて、ああいったものを築く中心になることもあるのでしょうか」

 

リツの遠回しな問いに、ザルヴァはしばらく黙って歩いてから、ふっと、口元をゆるめた。

 

「……なるほど。きみは、そういうことを気に病むタイプなんだね」

 

当然のように見透かされ、リツはうなだれた。

 

「言っておくけど。仮にそうだとしても——きみのせいじゃないよ」

 

ザルヴァの声は、あくまで、静かだった。

 

「魔獣が逃げるのも、生き延びるのも、知恵をつけるのも、集落を築くのも。

それは、この世界がもともとそういう風にできているからだ。討ち漏らしだって、いつだって起きる。

逃げた個体が、たまたま知恵を持っていたかもしれない。ただ、それだけの話さ。

……一匹の魔獣が逃げたことと、誰かが死んだこと。

その間に、まっすぐな線を引けると思うのは——少し、思い上がりだよ」

 

「思い上がり……」

 

「そう。世界は、そんなに単純じゃない。無数の偶然が絡み合ってできている。

きみ一人の行いが、その引き金になった、なんてことは……思い上がりだよ。

だから、気に病むだけ無駄さ」

 

そう言って、ザルヴァは、リツの頭を、ぽんと軽く叩いた。

 

「……レイアたちには、言わないほうがいい。あの子は今、仲間を失ったばかりだ。

きみが余計なことを気に病んでいると知ったら、あの子まで、要らない重荷を背負うことになる」

 

「……はい」

 

リツは、頷いた。

 

ザルヴァの言葉は、理にかなっていると思った。正しい。きっと、正しいのだ。

そう理解しつつも、わだかまりを抱えた心は警笛を鳴らすのを止めようとしなかった。

 

*

 

ギルドに帰着する頃には、赤い夕日が、沈む間際になっていた。

レイアはゼシィーを見に行くとのことで、街中で別れ、五人でギルドに戻った。

ザルヴァは受付嬢に「問題なく」とだけ伝えて、すぐに立ち去っていく。

ビルノードンには「一杯やるか」と誘われたが、さすがに心身ともに疲弊していたリツたちは、「また今度」と伝えて帰路についた。

 

スルギの家に戻ると、またもボロボロになっているリツを見て、センカが、すぐに風呂に入るよう指示する。

リツだけ、先に浴室へ向かった。

 

*

 

やはり、いい湯は心身を回復させる。

ふぅ——と湯に浸かっていると、窓際に、黒猫が寝転んで、こちらを見ているのに気づいた。

 

「おい! 男湯にまで入ってくるな!!」

 

黒猫は、微動だにせず、こちらを見ている。

 

タオルで前を隠しながら、諦めて話しかけた。

 

「……ったく。ステラ、今、話せるか?」

 

黒猫がシュルシュルと形を変え、ステラの姿になる。

湯気の立つ風呂場に、服を着たままの女性が立っているという、なんとも不可解な光景になった。

 

「どうされましたか?」

 

(……うーん、しまった……風呂場で話しかけるんじゃなかった)

 

「……いや、風呂場でごめん。

その……ゲームの中では、自分が漆色を目指す必要があったけど……『将軍』『探究者』『擁立された人』以外に、『引きこもり』なんていう漆色がいた描写はなかったと思う。

漆色って、元々、他にもいたのか?」

 

「その物語で描かれているのは、あくまで、主役である主人公一人の視点から見た、一部の景色だけです。

つまり、リツ様が知っているのは、メインストーリーと、ご自身が体験したサブシナリオの数々。

ですが、逆に言えば——それのみです。

この広い世界では、知らずに起きていたこと、関わらなかった人々や世界が当然あります」

 

(……なるほど、確かに——自分以外のパーティの様子は分からなかったけれど、探索者がたくさんいるのだから、他のパーティがいたのは当たり前ではある)

 

「じゃあ……今、漆色とか絶色って、他にどれくらいいるんだ?」

 

「世に言われているのは、『漆色(ノワール)の十一人』と、『絶色(アビス)の三人』になります」

 

「え、そんなに!?」

 

詳細を聞こうとしたところで、スルギの「ご飯ができたぞ。父上も帰ってきた」と呼ぶ声がかかり、話は中断になった。

 

(漆色だけで十一人、それに絶色が三人……)

 

自分が知っていたのは、漆色のうちの、たった三人だ。

999%まで攻略したはずのこの世界には、まだ、名前も知らない怪物が、たくさん残っている。

 

(……本当に、俺は、この世界を知っているんだろうか)



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