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達成率999%のゲームに転生した俺の選択が、シナリオを崩壊させていく 〜攻略者の因果律〜  作者: 波動犬
王都にて

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第21話 漆色の引きこもり

ガサガサと森の中を駆けていく。

 

座標感知で、すでにビルノードンたちとルアたちが街道に出て、合流しているのが分かった。

 

たどり着くと、ビルノードンと何か話している、長髪の大男がいた。

ビルノードンも相当な長身だが、その男は、さらに背が高い。二メートル近くあるだろうか。

灰色がかった癖のある髪は無造作にはね、左の眉から頬にかけて、古い傷が一本走っている。

歳は四十半ばほどか。眼光だけが、笑っていても鋭いままだった。

 

「うわ……追加援軍が、『引きこもり』かぁ……」

 

レイアが、ぼそりと独り言を言うのが聞こえた。

 

(このデカいやつ、誰だ?)

 

近くまで駆け寄ると、ルアが泣きじゃくっていた。

スルギとともに、こちらへ駆け寄ってくる。

 

「リツ〜〜! よかったぁ〜〜!」

 

「おう、レイア。無事だったか。ゼシィーは、ゲイルとミントに街へ運ばせた。

……あと、残念な知らせだ。追加援軍は、『引きこもり』が派遣されたそうだ」

 

「いや、ありがとう。これで、一安心だよ。……また、一から考えるさ」

 

「坊主も、生きててよかったな。よく無事だった」

 

ビルノードンに声をかけられ、リツは、こくりと頷き返す。

 

「はい。危なかったですが……レイアさんと出会えて、助かりました。

それで——こちらの方は?」

 

その、なにげない問いに——その場の全員が、ぱっと、こちらを振り向いた。

 

「……っ!? お前、知らないのか? 漆色(ノワール)だぞ」

 

ビルノードンが、心底驚いた顔で、リツを見る。

 

「最近、探索者になったばかりの少年だろう。初めまして。『引きこもり』のザルヴァです」

 

見た目の厳つさとは裏腹に、その挨拶は、ユーモアのある言い方だった。

 

(漆色だって……? 超高位階級の……?)

 

とっさに、真識で鑑定をかけてみるが——先ほど耳にした名前と階級以外は、ノイズがひどく、まるで読み取れなかった。

格が違いすぎるのか、隠蔽かわからないが、相当な実力者であるということは疑いない。

 

「内陸の英雄だぞ。……ああ、知らないなら言っておくが、『引きこもり』ってのは、悪口じゃない。

本人が好んで名乗ってる、ただの愛称だ。

深淵大陸には出ず、ずっと内陸のクエストばかり支えてるから、『内陸の引きこもり』ってな」

 

ビルノードンが、補うように言い添える。

 

「よろしくね、若者たち。……さて、早速だが、始めようか。いいね、レイア」

 

「もちろんです。……よろしく、お願いします」

 

「鎌か、雨か。どちらがいいだろうか」

 

「——雨で、お願いします。仲間の遺体が、まだ中にあるはずなので。できるだけ、傷つけたくないんです」

 

「わかった」

 

そう言うと、ザルヴァは森の中に入り、平原のほうへと歩き出した。

 

ビルノードンに「せっかくだ、見ていけ」と促され、リツ、ルア、スルギ、レイアの四人は、その後についていく。

 

「『引きこもり』の討伐が見られるなんて……」

 

スルギが、興奮を隠しきれない様子で呟いた。

 

「……さっきの、『引きこもりが派遣されて残念だったな』って、どういう意味ですか?」

 

歩きながら、リツは、隣のレイアに尋ねた。

 

「ああ。……このクエスト、追加で緊急要請がかかって、あなた達が救助に来たでしょ。

探索者はクエストに出るとき、仲間で積み立てた金をギルドに預けていくの。

で、失敗したり緊急事態になったとき、その金で補填や追加派遣がされる。

緊急要請の時点で、まず積立の半分。

さらに追加で派遣される場合は、誰が来るかは選べなくて、来た相手によって値段が変わる」

 

レイアが、苦笑する。

 

「漆色は……当然、最高額。たしか、2000万ベルクくらい。……つまり、借金だね」

 

そんな話をしているうちに、森を抜けた。

 

先ほどとは違う位置なので、櫓は、少し遠くに見える。

 

「では」

 

ザルヴァが、静かに、意識を集中させた。

 

「……三十二、だね」

 

長剣を抜き、その切っ先で、円を描くように、ゆっくりと回す。

すると、大きな光の玉が六つ生まれ、それぞれが、さらに分裂していった。

 

「——行きます」

 

光の玉が宙に浮かんだ、次の瞬間。

それらは一斉に軌道を描き、櫓へと降り注いだ。

キィイィン、という音とともに、光の残像だけを残して消える。

 

「あれ、ただの光追跡弾(ホーミング)らしいよ。数も、正確さも、速さも、威力も……段違いなだけだって」

 

横で、惚けたような顔のスルギが囁いた。

——確かに、段違いだった。

 

「……ありがとう、ございました」

 

リツの隣で、レイアが、そっと祈りのポーズをとる。

仲間への黙祷だろう。

その場に残っていた全員が、同じように静かに頭を垂れた。

 

*

 

「よし。あとは、罠を解除して、仲間を回収して……帰ろうか」

 

ビルノードンの言葉で、一同は、櫓へと向かった。

レイアとリツが率先して罠を見つけ、残りの面々がそれを解除していく。

ザルヴァは、櫓そのものの解体にあたった。

 

散らばった魔獣たちは、小さな光の玉が急所だけを正確に貫いたあとを残して、無惨な骸となっている。

レイアの仲間の遺体は、ビルノードン、レイア、ザルヴァの三人が穴を掘って葬り、ネームタグだけをそっと回収していた。

 

作業の途中で、ふと、ビルノードンが呟いた。

 

「……しかし、妙だな」

 

「妙、というと?」

 

レイアが問い返す。

 

「この集落。組み方が相当にしっかりしているし、罠の張り方も……ただ魔獣が寄り集まっただけにしては、手が込みすぎだ。相当人慣れしている」

 

ザルヴァも、櫓の梁を撫でながら同意する。

 

「——知恵の回る個体が、交じっていたのかもしれないね」

 

リツからすると、実感値がなかったが、確かに飛ばされた先で殺されそうになったことなど、用意周到に準備されている感じはした。

 

そして、櫓の奥まった場所まで行って、ふと、足元に転がる、一体のゴブリンの骸が、目に留まった。

 

片方の、腕がなかった。

 

リツは、その場にしゃがみ込んだ。

肩から先が、丸ごとない。断面はすでに塞がって、ひきつれた肉が盛り上がるように固まりかけている。

今回の戦闘で落とされたものではない。もっと前に——せいぜい、ひと月ほど前に切られた傷だ。

 

その瞬間、記憶が、鮮明に呼び起こされた。

 

——村の外れの、あの高台。

ダリオが薙ぎ払い、数体が逃げていった。

その中に、腕を落とされながらも必死に逃げていった、一匹がいた。

 

ダリオが確かに言っていた。

 

「……ゴブリン程度の魔獣でもな、生き延びると、人間との戦い方を覚えて対策を立てたりしやがる。厄介な話さ」

 

(……いや。まさか。そんな、はずは)

 

腕を失ったゴブリンなど、いくらでもいる。

あの日の個体だと、決まったわけじゃない。何の、証拠もない。

 

それでも——一度浮かんでしまった考えは、どうしても、消えてくれなかった。

あの時逃げた一匹が……この集落を作る一因になった可能性もあるんじゃないか。

あの日、ダリオと一緒に村の外に出なければ、ゴブリンたちと出会うことはなかった。

そして、ダリオが討ち漏らすこともなかった。

レイアの仲間が、死ぬことも——

 

(村を出たのは、俺がダリオに無理を言ってそそのかしたからだ)

 

「リツ? どうかした?」

 

ルアの声に、はっと我に返る。

 

「……いや。なんでもない」

 

リツは、無理やり笑って見せた。

だが、胸の奥に生まれた冷たいしこりは、そう簡単には、溶けてくれそうになかった。


読んでいただきありがとうございます。

続きが気になったら、ぜひブックマークよろしくお願いします。

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