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達成率999%のゲームに転生した俺の選択が、シナリオを崩壊させていく 〜攻略者の因果律〜  作者: 波動犬
王都にて

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第20話 飛ばし屋フープル

すぐに、それぞれが別行動に移った。

 

ビルノードンたちの姿が見えなくなって、五分ほどしたあと、座標感知で二つの動きを捉えた。

 

一つは、櫓の上でゼシィーを取り囲んでいたゴブリンの大半が、ミントの魔法で吹き飛んだこと。

もう一つは、それとほぼ同時に、ゲイルがゼシィーを櫓から降ろし、ビルノードンがそれを受け止めて、地上をこちらへ向かって走り出したことだった。

走る三人を追うように、魔獣たちも動き出している。

 

「成功だ! ゼシィーさんを救出して、こっちに向かってる!

魔獣も動き出した。逃げる準備をしよう!」

 

やがて、ビルノードンたちの姿が、目視できるところまで近づいてきた。

——が、その先頭を走っていたゲイルが、突然、進路を大きく変えた。

 

「なんだ、あっちに行ったら、危なくないか?」

 

スルギが、疑問を口にする。

それと同時に、方向転換をしきれなかったビルノードンが何かにぶつかるのが見え、リツは気づいた。

 

「物理透壁だ! 櫓の外にまで罠を仕掛けてやがったのか!」

 

物理透壁とは、魔獣ドラムが生み出す罠の一つで、物質を通さない透明な壁のことだ。

透明と言っても、近づけば空間が歪んで見えるため、壁があることは目視で分かるが、迷路のように張り巡らされると非常に厄介になる。

しかもこの壁は、物質は通さないが——魔法は通してしまう。

 

「まずい、フープルが来てる!」

 

フープル——その名の由来にもなっている『フープ』という魔法は、投擲型だ。

光の玉を飛ばし、対象に当たるとそこに魔法陣が構築される。

そして構築が完了した瞬間、転移が発動する仕組みだ。

光の玉そのものを避けるか、構築が終わる前に魔法陣を抜ければよいので、本来であれば簡単に回避はできる。

だが——罠にはまって動けない状況では、致命的になる。

フープルとドラムの共存が『厄介』と呼ばれる理由が、まさにそこにあった。

 

二匹のフープルが、ビルノードンたちに向けて、光の玉を練り始める。

 

「——助けよう!」

 

リツは弓を構え、見えているフープルに狙いを定めて、矢を放つ。

矢は一体に当たり、「ギャッ」と声を上げて倒れると、もう一体も魔法を中断して、こちらを振り向いた。

 

「危ない!!!」

 

ビルノードンが叫んだ。

 

射抜いたフープルの、そのさらに後ろ。

死角にいた三匹目が、ちょうど練りあがっていた光の玉を、標的をこちらに変えて投げつけてきた。

リツは咄嗟に躱す。だが、その先には——ルアがいた。

 

「ゔっ……ぅ」

 

投擲魔法を受け、ルアが、その場にがくりと膝をつく。

威力そのものはないが、痺れが走るのがこの魔法のもう一つの特徴だった。

その隙に、魔法陣が、みるみる構築されていく。

 

(——まずいっ!)

 

リツは地面を蹴った。タックルしてルアを押し出すのに成功する。

だが——押し出したリツ自身が魔法陣に入った、正にその瞬間、陣の構築が完成した。

 

視界が真っ白に染まる。そして、景色が——変わった。

 

目の前に現れたのは——槍を構え、今まさに、それを振り下ろそうとしている、一匹のゴブリンだった。

 

(空間固定——ッ)

 

段超え試練を突破し、王都までの道すがらで覚えた、空間魔法の新しい感覚に意識を集中させる。

野営のたびに一人で試してはいたが、実戦で使うのは、これが初めてだ。

指先から魔力が広がる感覚があり、目の前の槍の穂先を含む狭い空間が、ガラスの中に封じ込められたように、ぴたりと静止した。

 

渾身の力で振り下ろしたはずの槍が、途中で止まる。

ゴブリンが、面食らったように動きを止めた。

その隙に、リツは腰の短剣を引き抜き、無防備な首筋へ、一撃を叩き込む。

 

ゴブリンが崩れ落ちると同時に、空間固定が解け、宙で止まっていた槍が、カランと乾いた音を立てて落ちた。

 

「……危なかった」

 

膝が、笑っている。

もし、新しい魔法を使えていなかったら、対処のしようがなかった。

 

魔法を使った反動の倦怠感が、じわりと押し寄せる。

だが、気を抜くわけにはいかない。リツは、素早く周囲へ目を配った。

どうやら、櫓の内部に飛ばされたらしい。

それも、飛ばした先ですぐに槍で貫けるよう、あらかじめ仕組まれていた部屋のようだ。

ちらりと視線をやると、部屋の隅に、槍に貫かれた人間が倒れているのが見えた。

生命反応は、ない。

 

落ち着く間もなく、複数の足音がこちらに向かってくる。

すぐ近くに、魔獣が何匹か迫っているのが分かる。

 

(まずい……複数を、一人で相手にできるわけがない……!)

 

決死の覚悟を決めて、短剣を構え直す。

すると、突如、ドンッ、ドンッ、ドンッ、と、腹に響く銃撃音。

続いて、魔獣の悲鳴じみた叫び声がした。

 

座標感知を使うと、近くの魔獣の反応が次々と消えていく。

その中に——一つ、人の反応があった。

敵の位置を確かめながら部屋を出ると、ちょうど、一人の女性が銃を撃ち終わるところだった。

 

褐色の肌に、白銀の髪。

横に流れた長い耳の先が、硝煙の向こうで揺れている。

ダークエルフだ。

 

「……レイアさん、ですね!」

 

「そう。……あれ、行きにすれ違った子じゃない。なんであなたが? ビルノードンたちが来てたのは分かったけど」

 

「俺たちは、荷運びのサポートでついてきたんです。

ビルノードンさんはゼシィーさんを救出したあと、外で物理透壁の罠を避けながらフープルから逃げています。

援護しようとして……俺だけ、飛ばされました」

 

「なるほどね。助けに来てくれた、ってわけだ」

 

レイアは、ふっと肩の力を抜いて、笑った。

 

「私も、魔獣が減るのを、じっと待ってたところ。おかげで、ようやく動けるようになった。……さ、逃げよう」

 

さすがは微色の斥候、というべきか。

レイアは、軽やかな身のこなしで、張り巡らされた罠を、次々と見切って抜けていく。

その背を追いながら、リツは、素直に舌を巻いた。

 

「……うん。ビルノードンたちは、全員、生きてるね」

 

櫓の囲いの外へ出ると、レイアは、仲間のいる方角へ向けて、別の銃を一発空へ撃った。

 

バヒュゥゥゥ——ンと音が鳴り、空高くで、煙が上がる。

 

「これで、ビルノードンたちにも、撤退の合図が伝わるはず。私たちも、逃げ切ろうか」

 

走り出しながら、レイアが、ぽつりと言った。

 

「……ゼシィー、間に合ったかな」

 

その声は、逃げ切れたかどうかを問うているようには、聞こえなかった。

 

座標感知で、四人と二人の塊が、それぞれ道のほうへ移動していくのを確かめて、リツは、レイアのあとを追い、森へと分け入った。

 

座標感知の、その端で——櫓の中が、まだ、忙しなく動いているのが、分かった。


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