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達成率999%のゲームに転生した俺の選択が、シナリオを崩壊させていく 〜攻略者の因果律〜  作者: 波動犬
王都にて

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19/50

第19話 緊急要請

バンッッ!!

 

けたたましい音を立てて、一人の探索者が転がり込んできた。

髪も服も乱れきったまま、ぜえぜえと息を切らして、受付へ駆け寄る。

 

「集落で、しくじった……! 緊急要請を、頼む……!

フープル(飛ばし屋)が、ドラムと同居してやがった」

 

見覚えのある顔だった。来る道すがら、すれ違ったあのパーティの、戦士の一人だ。

 

緊急要請と聞き、受付も慌ただしく、動き始める。

ここまで相当急いだのだろう。

男はそう伝えると膝を押さえて、呼吸を整えるのに必死そうである。

 

そこへ、奥の一角で飲んでいた大柄の男が、ひときわ大きな声を上げた。

 

「お前、ダンか! フープルで緊急要請だと? 他のメンバーは、どうなった?」

 

ダンと呼ばれた男は、ぱっと顔をあげると、大柄の男を見て目を見開き、覚悟を決めたように、絞り出す。

 

「あぁ……ビルノードンか! ゼシィーが……飛ばされた。

ガンドとロイは……たぶん、ダメだ。

ドリーとレイアは、生きてるかも、わからない。頼む……!」

 

二人の男は、奥のテーブルで慌ただしく言葉を交わし、大柄の男がチラリとこちらを見た。

 

突然の出来事に、一行は出口のそばで茫然と立ち尽くしていた。

だが、何ができるわけでもないのに、つい様子を観察してしまっている自分たちに気づき、はっと我に返る。

そそくさと、その場を離れようとした。

そのタイミングで、話がまとまったようだった。

 

先ほど、ビルノードンと呼ばれた男が、大声で一行に声をかけてきた。

 

「おい、坊主ども。俺はビルノードン、微色の探索者だ。

聞いてただろうが、これから、こいつらの仲間が生きているかどうか、『救助探索』に向かう。

……言っておくが、言葉通り『討伐』じゃない。生存者がいるかの確認と、もし生存者がいた場合はその救助だ」

 

挨拶をしつつも、こちらの反応を窺うことなく続ける。

 

「ただ、問題がある。見ての通り、うちのチームは今日は非番でな。

メンバーが別件で出払っていて、全員は揃わん。

もし生存者がいて、救助できるとなったとき、戦いながら運ぶことまで想定すると、どうしても人手が足りん。

そこで、お前らに『荷運び』の依頼を出したい。手伝ってくれないか。

無色なのは承知の上だ。戦闘には、一切参加しなくていい。

離れた場所で待機して、いざとなったら運ぶのを手伝う。要は、保険だ」

 

そして、声をひそめるでもなく、続けた。

 

「ちなみに、緊急要請は報酬がでかいぞ。内陸階級トップ、深紅チームの積立の半分だからな。

最低でも、合計で1000万ベルクは確実だ。いくらだったとしてもその二割を、お前らにやろう」

 

(メインシナリオに、こんなイベントはなかった。恐らく、ランダムクエストの類だ

フープルもドラムも、ゲームで序盤に出てくるザコキャラクターだ。

どっちも動きは鈍いし、転移や罠の見切りも難しくはない。何よりも、今回は荷運びだけである。

それで、二割——最低でも、200万ベルク。間違いなく大金だ。……運がいい)

 

リツの頭の中では、攻略脳が高速回転する。

スルギとルアに向き直ると、二人が頷くのも確認し、ビルノードンに向き直った。

 

「やります。できる範囲の手伝いをします」

 

「よし、よく言った。……それじゃあ、行くとするか」

 

初めての王都がもたらす高揚と、思わぬ大金への欲、そしてゲームの知識。

これらが——深紅のチームすら壊滅させた、集落の脅威を、リツの頭から都合よく締め出していた。

 

*

 

空間収納から武器を取り出し、すぐに、今朝来た道を引き返す形で、ダンを先頭に、櫓を目指した。

 

移動の道中、互いに、最低限必要なことだけを伝え合う。

 

ビルノードンは、斧と盾を操る戦士で、頭にクマのような丸い耳のついた亜人だった。

連れの二人は、短剣使いの斥候ゲイルと、魔法使いのミント。どちらも、深紅だという。

 

「……もうすぐだ」

 

さすがは微色の探索者、というべきか。

リツが座標感知で捉えるより、ずっと早い段階で、ビルノードンは敵の捕捉を始めていた。

 

「たぶん一人は生きてるな。動いてはなさそうだが……死んでもなさそうだ。

あとは感知に引っかからん。

それより——魔獣の数がすごいぞ。ざっと、三十から四十体はいるんじゃないか?」

 

「……ちょっと見てくる」

 

本職のゲイルが、より精度高く気配察知をするために、一足先に様子をうかがいに向かった。

 

森の端に差しかかる頃、ゲイルが神妙な面持ちでこちらに向き直った。

 

「フープル(飛ばし屋)とドラム、それにゴブリンが大量にいるな。

そして、……生きてるのは、たぶん二人だ。

ビルノードンが感知できなかったほうは、レイアだろう。

反応がかなり鈍いから、隠蔽魔法で隠れているみたいだな。こっちは……大丈夫だろう。

もう一人はゼシィーだ。——目視で見えた」

 

「ゼシィーは!? 無事なのか!?」

 

「いや……。生きては、いるが……」

 

ゲイルは、それ以上を語らなかった。

そして、誰も、最も心配しているはずであろうダンすら、それ以上は問わなかった。

 

(どういうことだ? 目視できる場所にいて、しかも生きているというのがよくわからない。

……隠れて、いるのか?)

 

リツも、森の端までたどり着いた。

だが、ゲイルは目視で確認できたと言うものの、リツの目では、櫓で動く影もぼやっとしか見えない。

 

座標感知も駆使して、できる限り詳細に探ると——確かに、櫓の上に、魔獣にぐるりと囲まれるようにして、人の反応があるのが分かった。

 

その瞬間、点と点が、線でつながった。

ヒュッと心臓が浮く。

強いめまいが襲い、こめかみの血管を、血がどくどくと流れていくのが、いやにはっきりと分かった。

 

——この世界の魔物は、知性を持つ。知性を持った魔物は、邪悪だ。

 

ゲームの設定として、知っていたその言葉が、今、確かな重さを持って迫ってくる。

囲んで、殺さず、嬲る。生かしたまま、その絶望を人に見せつけるように。

 

「……見世物、か」

 

「……おう、小僧。その通りだ」

 

ビルノードンが、低く応じた。

ミントも、ダンも、ゲイルの報告でおおよそを察しているらしい。

誰もが苦い顔をしながら、それでも、取り乱してはいない。

その平静さこそが、この世界の秩序が、リツの知る現代とは、根本から違うのだと突きつけてくる。

 

「お前らは、ここで待っていろ」

 

ビルノードンが、こちらに向き直った。

 

「小僧、これは、別に特別な状況じゃない。

初日から厳しいとは思うが……探索者を続けてりゃ、すぐ慣れる。

お前ら三人は、ここから見ているだけでいい。この数じゃ、討伐なんてのは間違いなく無理だ。

俺たちが出てきたら、すぐ逃げるからついてこい。

もし万が一、十分ほど経っても出てこなかった場合、あるいは、俺たちが全滅したのを確認したら——そのときは、迷わず逃げろ。

坊主が何かしら察知スキルが使えるんだろう? それだけ使っておけ」

 

そして、ダンへと視線を移す。

 

「ダン。魔獣の数が、思ったより多すぎる。

もう一度ギルドへ戻って報告しろ。

討伐依頼の方も急がせて、どこかの部隊を早く派遣させろ」

 

ダンが、身を翻す。

だが、去り際に一度だけ振り返り、ビルノードンに尋ねた。

 

「……いけそうか」

 

ビルノードンは、短く笑った。

 

「なんとか、するさ」

 


まだまだ連載頑張ります。

ブックマークを押してもらえたら嬉しいです。もっと尻尾振りたいです。ワン。


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