第18話 初めての王都
門をくぐり抜けると、視界いっぱいに、極彩色の光景が飛び込んできた。
「うわあああ、すごーいっ!」
隣で、ルアが瞳をきらきらさせて声を上げる。
行き交う人々の熱気。通りに軒を連ねる露店の数。鼻をくすぐる、香ばしい匂い。
「……ああ、すごい活気だね」
ルアに相槌を打ちながら、リツも、自然と口元が緩むのを感じていた。
これが、ダークロの世界の日常だ。
画面越しでは決して味わえなかった熱気が、肌に直接、伝わってくる。
「どうするどうする? ちょっと見てきたくない!?」
はしゃぐルアをなだめつつ、どのみち都市区は抜けねばならないので、通りすがりに焼き鳥のようなものを買って、頬張りながら歩いた。
中央の広場、ギルドらしき建物に、教会。
武器屋もあれば、用途のわからない怪しげな店もある。
都市区を渡りきると、少し背の低い門が見えてきた。
こちらの門では憲兵がしっかり目を光らせていて、素通りしていく者と、呼び止められている業者らしき者とに、はっきり分かれている。
どうやって入れる人と入れない人を識別しているのだろうか、と考えていると、察したのか、スルギが教えてくれた。
「あの門には、魔法がかかっててね。
住んでる人は判別されて素通りできるけど、そうじゃない人は、憲兵に通行許可をもらわなきゃいけないんだ」
魔法でオートロックが成立しているわけである。
スルギの案内に従い、憲兵のところで魔法印を腕につけられると、特に問題なく通り抜けることができた。
門の先の通路を少し歩くと、打って変わって、静かで広々とした空間が現れた。
公園のような広場と、大きな屋敷が、いくつも建ち並んでいる。
奥には遠巻きに見えていた城が迫って見え、その大きさと迫力を持って、王都の盤石さを示しているようだった。
そこかしこを歩く人々も、ふわりとしたワンピースなどを身にまとったり、きれいなシャツを着ていたりと、丁寧な暮らしが窺われる。
ピコン、とシステム音が鳴った。
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王都へ到着!
メインストーリー達成率:6%
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「あそこの屋敷だよ。行こう」
案内されたスルギの屋敷は、驚くほど大きかった。
入口の門に近づくと、執事のような男が出迎える。
「坊っちゃん、おかえりなさいませ。お連れの皆様も、ようこそお越しくださいました。
お母様がいらっしゃいます。ぜひ、中広間へお越しください」
中へ入ると、見たこともない様式の装飾が、そこかしこに施されている。
まさに、ザ・お屋敷、といった風情だ。
リツからすると、さながら海外旅行か、遊園地に来たような心地である。
きょろきょろと見回していると、少しして、階段の上から一人の女性が現れた。
「スルギ、おかえりなさい。そちらは、お友達ね。スルギの母で、センカと申します」
黒い髪は頭の後ろで複雑に結われ、色白の肌に、豪華すぎず、それでいて品の良さを感じさせるドレスを纏っている。
背筋の伸びた佇まいは、いかにも厳格そうで、思わず居住まいを正したくなる。
(どこの出自とも知れない、俺やルアだ。無礼があっては、まずいよな……)
そう身構えながら、リツも挨拶を返す。
「初めまして、リツと言います。スルギさんとは段超え試練をご一緒させていただきました」
「ルアと言います。よろしくお願いします」
「ふふっ。そんなに畏まらないで。まずは、疲れたでしょう。とにかくお風呂に入って、それから食事にしましょう」
にっこりと微笑みながら、そう告げられる。
その、ふっと空気のほどけるような受け答えで、最初の張り詰めた印象は、あっけなく覆された。
ああ、この人は、見た目よりずっと、あたたかい人なのだ、と。
半ば押し込むように、全員が浴室へと案内された。
男女は別々の更衣室で、浴室こそ同じ空間ながら、天井から中央へ分厚い布が垂らされ、向こう側は見えないよう、きっちり仕切られていた。
「母様、おしゃべりでさ……。礼儀とか全然気にしない人だから、おかまいなく」
センカは、ゲームでは語られることはあったが、キャラクターとしては登場していない。
こんな人だったのか、と少し驚いたが——異世界だろうとどこだろうと、母親は母親なのだな、と、身も心も、じんわり温かくなった。
*
風呂から上がり、ルアが出てくるまでの間、センカに、騎士団に会いたいことを伝えた。
ハナが勤めている詰め所があるが、当のハナは調査のためまだ戻っていない。
急ぎ取り次いでもらいたいのであれば、スルギの父親に話を通してもらうのがよさそうだ、という話に落ち着いた。
ちなみに、スルギの妹二人は、今は学校で不在とのことだった。
話している途中でルアも戻ってきて、そのまま食事になった。
ルアもまた、すっかりセンカに懐いている。
スルギの父が戻るのは夜になるという。
食事を終えた一行は、それまで時間があるので、街の散策に出ることにした。
*
まずは探索者ギルドを覗いてみたい——その点で、三人の意見は一致していた。
比較的、都市区の中でも、冒険区に近いエリアに、探索者ギルドはあった。
商業施設の多い都市区の中心部からは少し離れている。
無骨な作りの、四角い大きな建物だった。
わくわくしながら扉を開けると、思い描いていた通りの、受付と掲示板がある。
その横側には立ち酒場のような様子で、いくつものテーブルが並べられている広間がある。
ただ、マンガで見たような、武器を提げた荒くれ者でごった返す光景は、見事に外れた。
奥のテーブルで話しているのが一組いるだけで、拍子抜けするほど閑散としている。
「全然、人がいないね」
「日とか時間によって、かなり違うみたいだよ。
昼過ぎは、依頼を受けた人がもう出払ってて、戻るには早い時間だから」
初心者たちである一行としては、人でごった返していないのは有り難い。
早速、ということで、受付で探索者になるための申請を行う。
一通り説明を受けたが、ほとんどはゲームで聞き知った通りだった。
まずは無色からということで、受付でネームタグを受け取る。
リツは、ゲームで聞いた手順を、今こうして現実に自分がなぞっており、ネームタグを首にぶら下げていることに、妙な感慨を覚えた。
続いて、商業ギルドにも顔を出してみるといい、と勧められる。
魔獣の退治や探索などではない依頼は、商業ギルドの方で取り扱われることも多いらしい。
礼を言って、ギルドを出ようとした——そのときだった。




