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達成率999%のゲームに転生した俺の選択が、シナリオを崩壊させていく 〜攻略者の因果律〜  作者: 波動犬
初めての魔窟

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第16話 赤狂いの三日間

翌朝。

ゆうべの疲れも、指輪という確かな戦果も胸の内にしまい込んだまま、リツは何食わぬ顔で朝を迎えた。

そして、ついに旅立ちの日がやってくる。

 

ハナは中位魔獣の調査があるとのことで、村からは三人での旅路になった。

ダリオは別れを惜しんで、今にも泣き出しそうな顔をしている。

そのくせ、リツには何度も「ルアに手を出すんじゃないぞ」と、目で釘を刺すのを忘れなかった。

 

出発の準備が整った頃、ダリオが、ふとリツだけを手招きした。

 

「リツ。ちょっと、こっちへ」

 

ルアとスルギに聞こえないよう、少し離れた木陰へ連れていかれる。

 

「改めて、バーサーカー化についてだ。ちゃんと伝えておこう」

 

ダリオの表情が、村のまとめ役から『元・王国騎士』であることを思わせる鋭い顔つきへと変わる。

 

「……込み入った話でな。ルア本人に聞かせるには、少し、酷なんだ。

スルギは王国に近いからな、必要なら親かハナからでも聞くだろう」

 

ダリオが、声を落とす。

 

「前にも話したが、バーサーカー化は治すのが非常に難しい。

状態異常というより、呪いに近い。それも自分自身に呪いをかけている状態と言われているのだ」

 

「バーサーカー化の初期症状では、一定時間が経つと動きが止まるが、徐々に、別の人格——狂戦士としての人格が育っていく。

繰り返すほど、元に戻るまでの時間は延び、やがては常時バーサーカー化した状態になり、治せなくなる」

 

リツとしては、既知の話だが、ダリオの真剣な眼差しに、神妙に頷く。

 

「だが——治す、というか、飼い慣らす方法がある。『赤狂いの三日間』という話があってな」

 

ダリオが、一度間を置いた。

 

「かつて、遺跡(ルインズ)の調査にあたっていた、重戦隊の隊長がいた。ジェイドという男だ。

あるとき、魔物との戦いで深い階層に閉じ込められちまってな。

一緒に閉じ込められていた戦友が、先に力尽きた。

ジェイドはその死を——助けることもできず、目の前で看取るしかなかった」

 

ダリオの声が、低く沈む。

 

「それが引き金だった。ジェイドはバーサーカー化した。

深い階層から這い上がってきたときには、もう何日も経っていて……完全に狂ったまま、行く先々を、片端から虐殺していったそうだ」

 

「その当時はバーサーカー化に治療法なんてなかった。討伐するしかない、とな。

そこで派遣されたのが——大魔道士ガーランドだ」

 

その名前に、リツは思わず顔を上げた。

 

「近くの村にガーランドの娘夫婦が住んでいたらしくてな。率先して、急いで駆けつけたらしい。

だが、着いたときには、もう遅かった。……村ごと、跡形もなく消し飛んでいた。ジェイドの手でな」

 

ダリオが、目を伏せる。

 

「それを見て、ガーランドも——壊れた。絶望し、自身もバーサーカー化したんだ」

 

「斧の一振りで大地ごと削り取るジェイドと、極大魔法を無制限に撃ち続けるガーランド。

誰にも止められない戦いは、三日三晩、続いた。そして最後は、ガーランドがジェイドを討った。

その間に、王都はほぼ全軍を配備し、バーサーカー化しつつも、疲弊しきったガーランドを討伐しようとした」

 

ダリオはリツの顔を、まっすぐ見据えた。

 

「俺も当時、王国騎士として戦場に向かったが、その三日間は気が気じゃなかったよ。

——が、そこで、妙なことが起きた。ガーランドが、赤い瞳をしたまま……『普通に喋った』んだ」

 

ダリオの声に、かすかな熱がこもる。

 

「バーサーカー化した人間は、戦うこと以外、何も喋らん。だからこそ、その状況は、大きな衝撃を与えた。

そしてガーランドは、赤い瞳の状態と、元の状態を——意のままに、行き来してみせたんだ」

 

「その後の研究で、分かったんだが。

バーサーカー化した者は、同じくバーサーカー化した者を打ち倒すことで、自分自身を律し、その力を意のままに操れるようになる。

この状態を——『ドミネーター』という」

 

ガーランドの過去も、ストーリー通り、リツの知っている話だった。

だが、こうして壮絶な半生を背負った男が、いま現実にどこかで生きているのだと思うと、胸の奥が、静かに軋んだ。

 

「そして、ガーランドは王都で、特務魔導学者という地位を得て、研究に明け暮れた。

そして、ドミネーターを生み出す方法を確立したのさ。

理屈は単純だ。討たれても構わない、手頃なバーサーカー化した相手さえ用意すればいい。

つまり——バーサーカー化させた魔獣を討たせることで、人をドミネーターにする。そういう仕組みを作り上げたんだ」

 

ゲームでも、バーサーカー化した魔獣を倒すことが、ルアがドミネーター化するための試練となっていたが、今のダリオの説明を聞いて、ゲームでは言及されていなかった部分への疑問が湧いた。

 

「バーサーカー化した、魔獣なんて……どうやって用意しているんですか?」

 

ダリオの顔が、わずかに曇った。

 

「目ざといな。……詳しくは、知らんでいい。ただ、な。……そうだな、少しだけ説明しよう」

 

「魔獣が自然にバーサーカー化した例は、これまで、ない。

一定の魔獣は、悪意を持つのは知っているな?

……詳しいことは分からんが、魔獣と人間とでは、感情の多さってやつが違うらしい。

だから、バーサーカー化の引き金になる、『絶望』というのを自然には味わわないからと言われている」

 

一度言葉を切って、ダリオは、苦いものを吐き出すように続けた。

 

「だから——強制して、作るのさ。

コボルトやゴブリンみたいな、最弱の魔獣をたくさん捕まえてきて、「あらゆる方法で絶望させる」。

その中で、稀に、バーサーカー化したやつを使うのさ。

……どっちが魔獣だか、分からん話だがな」

 

リツは、言葉を失った。

 

(……そういうことか。

ゲームでは、『バーサーカー化した魔獣』としか描かれていなかった。

その裏で、こんなことが……)

 

「その仕組みを回しているのが、ガーランドのところだ。だから、王都へ行け」

 

ダリオは、丸めて紐で結わえた紙を、リツに差し出した。

 

「これは、ガーランドへの紹介状だ。騎士団の誰かに渡せば、つないでくれる。

そして、ガーランドのところへ行けば、王国に保護してもらえるだろう。

ドミネーターになれば、それ自体が非常に強い武力だからな。

ガーランドがこれまで信頼を築いてきた結果、いまでは五人ほどが王都の要職に就いていて、バーサーカーが迫害されることもない。

……ただし、一つだけ気をつけろ」

 

声が、一段低くなった。

 

「ここまでの話でわかっただろうが、バーサーカー化は、危険なものとして扱われている。

つまり——力があるものには、反発するものもいる。

特に神聖教会は、バーサーカーを目の敵にしていてな。

ドミネーターになっちまえば、暗殺程度じゃ仕留められん。だが、そうなる前なら——話は別だ」

 

「王国に保護される前に、教会に嗅ぎつけられたら、暗殺されかねん。芽のうちに、摘んでおきたいってわけさ」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

最初の魔窟編、これにて完結。ここから王都編です。


この先が気になると思っていただけたら、ブックマークお願いします。

あと、下の☆☆☆☆☆を★★★★★にしていただけると、めちゃんこ喜びんで尻尾ちぎれて飛んでいきます。ワン。

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