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達成率999%のゲームに転生した俺の選択が、シナリオを崩壊させていく 〜攻略者の因果律〜  作者: 波動犬
初めての魔窟

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10/50

第10話 ザコ敵

一歩、足を踏み入れると、外の光はもう届かない。

ひんやりとした冷気と、湿った土の匂いが、鼻をつく。

ルアが唱えた「浮遊光」の魔法で、周囲三メートルほどまでは、どうにか見通せるようになった。

奥までは光が届かないが、大人が五人ほど並んで通れそうな道が、ずっと先まで続いている。

 

ふと足元を見ると、いつの間にか黒猫姿のステラが、リツの少し後ろをついてきていた。

どこから現れたかは分からないが、こういうところには、律儀についてくるらしい。

 

リツは斥候の役割で、先頭に立っているが、真っ暗で、敵のいる洞窟、そんなものに入るのは、生まれて初めてだ。

正直に言って、普通に恐怖である。

ゲームでは出てくるような地図も、敵が近くに来たときに始まる戦闘音の演出もない。

光が届く三メートル以外は、ただ黒い。

何かがいるのか、いないのか、確かめる方法がない。

 

情報がないということが、どれだけ恐ろしいかを実感する。

 

自分の足音が、やたらと大きく響く。

背負った矢筒が、一歩ごとにかたりと鳴る。

どこかで水の落ちる音がする。

なんの音かを分かっていても、身体のほうが勝手に反応してしまう。

 

だが、この中で実年齢が一番上なのは自分だという、小さなプライドもある。

ビビっていると思われるのも情けない。

 

中身は二十八歳である。

十歳以上も年上でありながら、探索者としての経験はさほど変わらない。

だからこそ、ルアやスルギの前では、一歩前に立っていなければならない気がした。

 

リツは不安を表に出さないまま、歩を進めた。

 

背後では、ルアの浮遊光がゆらゆらと揺れている。

その少し後ろで、スルギが刀の柄に手をかけたまま歩いているのが、気配で分かった。

二人とも、さっきから一言も喋らないが、怖いのは、自分だけではないようである。

 

前方に意識を向けると、四識眼の権能のひとつ、「遠識」が働くのがわかった。

心が凪いで、周囲の気配や、かすかな音に、神経が研ぎ澄まされていく。

暗闇の先、目視できる範囲より数メートル奥まで、何かがいれば気配で捉えられる。

 

ただ、本来この権能は、見えないような広範囲の敵位置まで察知できるはずだった。

今それが叶わないのは、やはりリツのレベルがまだ低いせいだろう。

それでも、この暗闇の中では非常に心強い。

 

歩いても、歩いても、何も出てこない。

結構進んだ気もするが、実際にはまだ少ししか歩いていないのかもしれない。

 

特に問題はない状況である。

だが、身構えたまま何も起こらない時間というのは、想像していたよりもずっと消耗する。

いつ来るか分からないものを待ち続けるのは、来ると分かっているものを待つより、はるかに悪い。

 

そして、しばらく進んだところで——ようやく、前方に、気配を感じた。

自分の警戒が正常に反応していることに、安堵を覚えるが、落ち着いている暇はない。

 

「待って。何か、来る」

 

そう呼びかけ、短剣に手をかけた、その瞬間。

 

キィーーーン、と甲高い音が響き、正面の闇から、ギラリと光る何かが飛んできた。

 

リツは咄嗟に短剣を掲げ、飛来物が刃にぶつかった。

硬い音とともに軌道を変え、飛んできたものは天井へと張りついた。

 

「刃コウモリだ……!」

 

四識眼を使って確認するまでもなく、その姿形から、明らかだった。

そして——刃コウモリという魔物を思い出すとともにリツの背筋が、ぞっと粟立った。

 

刃コウモリ。

ゲームでは、初期魔窟に出る、ただの雑魚だ。

特別な能力もなく、外側に刃の付いたハネを広げて、真っ直ぐに飛んでくるだけ。

ゲームでは一撃か二撃でサクサク倒せて、手こずったという記憶は一度もない。

 

ただ、飛んできてわかった。

 

それは、画面の向こうの話だ。

ゲームなら、被弾しても削れるのはHPゲージの数値だけ。数発当たったところで、どうということはない。

だが、これは——ゲームではない。

今、あのハネの刃が、腕にでも深く当たれば、この先の冒険は続けられないだろう。

腹に当たれば内臓がこぼれる。そして、首にでも当たれば——即死だ。

 

想像した瞬間、身体じゅうの内臓が、ヒュッと縮こまった。

やり直せるゲームとは違う。今、自分は、死と隣り合わせなのだ。

それを、改めて思い知る。

 

ドクドクと心臓が早鐘を打つ。足が、ガクガクと震える。

恐怖のせいか、それとも昂りのせいか、自分でも分からない。

脳内にアドレナリンが噴き出し、リツの合理的な思考は、一瞬でパニックに塗り替えられた。

 

天井に張りついた影が、羽を広げる。

あれが生きている限り、この恐怖は終わらない。ならば。

 

(殺してやる……)

 

手にしていた短剣を投げ捨て、素早く弓矢を構える。

先ほどの刃コウモリに狙いを定めると、ちょうどそいつが、こちらへ向かって再び飛び始めた。

 

「リツ! 戻れ!」

 

スルギが大きな声を出した。

リツはハッとする。だが、冷静な判断ができない。

 

ほぼ同時に、刃コウモリへ向けた矢から、手を離す。

そして、その直後——前方から、別の音が聞こえた。

 

キィーーーン

 

別の刃が、闇を裂いて迫ってくる。

 

——死ぬ。



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