ユハとケルナ⑤
なにやらロッタがひどく興奮しているようなので俺はなだめることにした。
「まあ落ち着け」
「これが落ち着いておれるか! ケルナはあれほど一途に想いを寄せておるというのに貴様は他人事のように……!」
「あんなあからさまにいちゃついてたんだから俺でも分かる、いいからまず落ち着け」
などとやっていたらケルナも乱入してきた。
「ちょ……ちょっと……何の話をしてるんですかぁ! やめてくださいっ!」
ケルナは顔を真っ赤にして叫んだ。ロッタも驚き黙り込んだので一瞬の静寂となる。
「まあ、いいから落ち着いて……二人とも俺の話を聞け」
ケルナは耳まで真っ赤な顔を伏せたまま、ロッタは不満そうだがとりあえずは黙って俺を見た。
「……ああ、何から話すかな……うーん……結論からいうとだな……心配はいらんということなんだがな……ケルナ、お前は……その……ユハとどうなりたいんだ?」
ケルナは顔を真っ赤にしたまま俯いて答える。
「……え……どうって、あの……え?……」
「だから夫婦になって子供が欲しいとか最強の剣士になって欲しいとか……なんかあるだろ?」
「ええっ! こっこここ……子供ッ!?」
ケルナは両手で顔を覆いしゃがみ込んだ。
しゃがみこんだケルナはしばらく恥ずかしそうにうずくまっていたがやがて小刻みに肩を振るわせ嗚咽を漏らしはじめる。俺もロッタも顔を見合わせ言葉を失っていた。
どう声をかけたものかと思案しているとケルナは嗚咽混じりに話し始める。
「だめ……だめなんです……わたしが何を望んでも……ユハさんは……わたしのことなんか迷惑だったんです……わたしよりもタケゾウさんのほうがいいんですっ!」
「だからな……心配はいらんと言ってるだろって…………は? 俺のほう?」
ケルナは顔は伏せたままで叫ぶように言う。
「だってユハさんはいつも……! タケゾウさんのことばかり……嬉しそうに……楽しそうに……わたしに話すんですっ!!」
「いや、待て、俺は男でユハも男だぞ?」
「……でも……そういう人もいるんでしょう?」
「そりゃあ……いるにはいるだろうが……じゃなくてだな……」
見るとロッタは俺をまじまじと見ている。
「貴様……そういう趣味か……」
「ない! 断じてない!」
「冗談じゃ」
……畜生。
「ケルナよ、儂が言うのもなんじゃがこのタケゾウはかなりのむっつりでな、男色とかそういう趣味はないと儂は思うぞ」
なんか聞き捨てならんが、まあここは突っ込むとまた話が面倒な方向へ行きそうなので黙っておくことにする。そして何故かケルナは顔を上げた。
「まあ、ケルナ聞け……あいつは……ユハはな、ケルナ……お前にぞっこんだ」
ケルナの顔が見る見る赤くなる。
「でも……でも……急に冷たくなったじゃないですか……」
「そりゃあケルナ……お前が高嶺の花だからだよ」
俺がそう言うとケルナは怪訝な顔を向ける。
「高嶺の……花……?」
「タケゾウよ、それはどういうことじゃ……?」
ロッタも合点がいかないらしい。仕方なく俺は説明をすることにした。
「まあ、つまりだな……ユハにとってケルナは守るべき弱い存在だったんだよ、実際にはケルナのほうが強かったんだろうがあくまでヤツの心の中の問題だ。俺が思うにそれがケルナは魔法使いになるってんで崩れてしまった訳だ」
「はあ? そんなことでか?」
ロッタが眉をひそめて言った。
「そりゃあ魔法なんて俺のように使えない者からしたらとんでもないインチキだからな、守るべき弱い女だと思ってたのが急にべらぼうに強くなりますってんだから……まあ混乱してるんだな」
ロッタは神妙な顔になる。ケルナは愕然とした顔で俺を見た、そして戦慄く唇で言葉を絞り出した。
「……そんな……わたしが魔法使いになることがいけないのですか……」
「いやいや、そうじゃない」
俺はすぐに否定した。
「あいつが……腰が引けてるだけだ。歳のことを気にしてるしな」
「……じゃあわたしはどうすれば……」
ケルナはまた泣きそうに顔を崩しながら言った。
「ケルナは何もすることはない、今すべきはロッタに魔法の使い方を教わり少しでも早く習得することだ。ユハのことは……まあ俺に任せろ」
正直なところ自信があるわけじゃないが、ひとまずロッタとケルナには魔法の修練に打ち込んで貰わねばならない。俺が一肌脱ぐしかあるまい。




