スツーカ砦②
ケルナは慌てて両手を胸の前で振って全力で拒絶する。
「無理無理無理無理、ケルナに魔法なんて無理ですっ」
ロッタはふっと溜息を吐く。
「やれやれ……やはり自覚もないか」
この部屋にいる皆が唖然とした顔でロッタを注視している。
「ここにおるタケゾウの疾さは人外といってよかろう……そのタケゾウに冷や汗をかかせるほどの疾さを持つケルナ……おぬしもまた人外と言ってよかろう……」
ケルナはぶんぶんと首を横に振った。
「で……でも、それはっ……」
ロッタは話を続けた。
「タケゾウと戦っている時に見て気付いた……風の魔法を使っておる、と……」
「……え?……風の?……」
ケルナはまだ信じられないといった顔でロッタを見る。そしてワサロヴラーシェが頷きながら言う。
「たしかにケルナの戦いを見て違和感を感じることがあります、それも風の魔法を使っていたとするなら合点がいきます……しかしケルナはいっさい詠唱をしませんが……」
「詠唱なら儂もせんが?」
「そっ……それはそうでしょうがケルナは……いや、たしかに詠唱そのものには魔法を行使する効力はありません、とするとケルナは直感のみで風術を……?」
ロッタは頷いた。
「じゃろうな、ごく稀に自覚も無く魔法を行使する者もいないわけではない、今は時間もないことじゃしケルナは儂が面倒見てやろう」
ケルナは不安そうにロッタに尋ねる。
「……あ……あの、それってわたしがローテアウゼンさんに魔法を教わるってことですか……?」
「そうじゃ」
「わたしでも魔法を扱えるようになるんでしょうか……?」
「扱うだけならすでに出来ておる、風の理を理解し思うがままに行使出来るように訓練するのじゃ」
ケルナは黙ったまま、静かに考える。そして意を決するようにロッタに強いまなざしを送る。
「わたしは、それで強くなれますか?」
「当たり前じゃ」
「ローテアウゼンさんは伝説の魔法使いでもの凄く強く賢い魔法使いだとワサロさんから聞いています。どうか、わたしに魔法を教えて下さい……わたしに力を下さい」
ロッタはにやりと笑って頷いた。
「時間がないでな、ちょっと厳しくなるぞ」
「はいっよろしくお願いします。すぐに支度をしますので……」
「よかろう、儂もすぐ支度をしよう」
そう言うとロッタは席を立った。
「タケゾウよ、そっちはお前が面倒を見てやってくれ。兵法の心得くらいはあるのじゃろう?」
そっちってのは剣や槍の得物部隊ってことだな。
「俺が出しゃばってもいいのか?」
俺が尋ねるとロッタは背中越しに俺を見てこう言った。
「勝たねばならんからな」
「……心得た」
俺がそう答えるとロッタは部屋へと戻っていった。
ふと横を見るとユハがこの部屋を出て行くケルナを愕然と見ていた。
「どうしたユハ?」
はっと気付いたユハが俺を見た。
「あっ……ああ、ケルナは……その……魔法使いになるってことか?」
「まあ今の話からだとそうなるな」
俺が答えるとユハは溜息を吐いた。
「どうした? 辛気くさい顔をして……お姫様が魔法使いになるんだぜ?」
俺は少しからかい半分に声をかけたがユハはちらとだけ俺を見て返事をする。
「よしてくださいよ旦那……ケルナは十七、俺は三十三だ……とても……」
俺はおおよその事情はこれで察することが出来た。思っていたよりこれは重傷のようだがひとまずこの問題は置いておくことにする。
俺は立ち上がり皆に向かって話す。
「手を貸すと決まった以上は遠慮はなしだ、兵法に心得のある者は他にいるか?」
自警団の団長のマンソンが手を挙げる、ユハを見るとユハもそっと手を挙げた。
「他には?」
魔法使いのワサロヴラーシェも手を挙げた。
「私も多少ならば、それに魔導部隊についての助言も出来ます」
「うむ、それは心強い」
他には手が挙がらず推挙もなかった。
「ではここにいる面々で対策を練るとしよう、まずはここの構造と今までの戦史を教えて欲しい」
マンソンはこの町の見取り図と周辺の地図を持ってきて机の上に広げた。
「この町はもともとこの北にある区画にあった集落を守るための砦でした。現在は周囲を土塁で固めた町と一体になった砦となっています」
町への出入りは東門と西門の二カ所あるがどちらも開口部の前後に土塁が施工されていて一気になだれ込むことを防ぐ堅牢な造りになっていた。
北側は断崖になっておりここを武器を持って昇ってくることは少なくとも人間には不可能だ。南側もきつい傾斜があって進軍しにくいがこの砦を攻めるには南から攻める以外には方法はないだろう。
俺は戦力について聞いてみた。
「こちらの戦力は千七百といったな、練度はどの程度なんだ?」
「正規が六百人、予備役が千百人だが農繁期でも毎日朝と晩には鍛錬を欠かさないし士気も高い」
マンソンはそう即答した。こちらの戦力は申し分ないようだ。
「では皆に尋ねよう、二万の木人形を以てこの砦をどう攻める?」
俺のこの問いは皆の関心を強く引き、その論戦は深夜にまで及んだ。




