波紋
ペンドラゴンの亡霊を倒し高台へ戻ると討伐に参加した生徒達を集めて報告が行われた。
この報告にはどうすれば尚良かったのか、何がいけなかったかといった反省会も併せて行われた。
俺も一応参加して求められた質問にはいくつか答えることがあった。
これが終わると後方支援隊によって夕食が用意されて夕食会となった。
付近にいたホルニッセの生き残りは討伐し安全が確保されたこともあり撤収は翌朝にすることになった。
俺はイセッタ殿やロッタと同じ机に着いていたのだがオスカーが呼びに来た。
「タケゾーさん、俺たちの机に来てくださいよ、一緒に食べましょう!」
そう言って俺の手を引いた。
「行ってやるがよい、この人気者め」
ロッタにそう言われて俺は席を立った。
「タケゾーさんが来てくれたぞー、席を空けろよ」
オスカーに連れられ机に来るとそれまで座っていた生徒たちが俺の席を作るために立ち上がって席替えを始めた。この机にはこの討伐に選ばれた七人とあとは数人の生徒が着いているようだ。
「あ、タケゾーさんはエミリアの隣にどーぞ」
そう言われてエミリアの隣に席を用意された。
「みんなタケゾーさんの戦いを見て見惚れてたんですよ」
そう言ってエミリアは笑った。緊張がほぐれたのか屈託のない優しい笑顔だった。
「そうか? 剣士の戦いとはだいたいあんなものだろ」
「いやいや、あの速さはすげえっすよ。あの突きの中に突っ込んでいくとか考えられないっすよ」
オスカーが目を輝かせて飛び込んできた。俺はまあ何となく笑って応えることにした。
「失礼しまーす」
後方支援組の下級生たちが料理を運んできた。大皿に並んだ料理をどんどんと机に並べていく。
「あ、椅子が足らないんだけど」
オスカーが言うと下級生は困ったような顔を向ける。
「あ、ええと……椅子ですか? ちょ、ちょっと待ってもらっていいですか」
エミリアが立ち上がった。
「わたし、取りに行ってくるよ。どこにあるのか教えてもらえる?」
「え? ……でも」
「早く料理を持ってきてあげないとみんな待ちきれないから……ね」
困惑する下級生をエミリアは優しく諫めた。
「はい……じゃあ、すみませんけどお願いします。あっちの木箱のあたりに置いてあります、あっちは暗いので気を付けてください」
「うん、ありがとう」
エミリアは下級生の指したほうに向かった。
「んー木箱ってあれかな?」
ランプの明かりが届かず少しの間立ち止まって目が慣れるのを待たないと、何があるのかよく見えなかった。
「ランプ借りてくればよかったかな……」
目が慣れてくると木箱らしき物体の反対側にも何か大きなものが転がっているのが見えた。
エミリアは目を凝らしてじっと見つめてみる、次第に暗がりの中に実態が浮かび上がってくる。
エミリアはぎくりとした。
「ホルニッセ! ……し……死んでるよね?」
警戒色が毒々しいホルニッセだが体の表面は焼けたように黒ずんでおり炎術魔法に焼かれたのだろう。ホルニッセの前を通らねば椅子を取りに行くことは出来ず、かといって何となく気持ち悪くて途惑っていた。
「ま、こういう時は念のために……」
エミリアは杖を抜いた……が、後ろを振り返ってみると夕食を囲む皆が見えた。
「あ……あんまり騒がすのもよくないかな……うん」
エミリアは考えた。
「どうしよう……うーん…………ん? あ、そーだ、魔力の波紋を打ってみよう生きてれば反応があるはず! んーわたし頭いい!」
エミリアは静かに詠唱し、魔力の波紋を放った。波紋はホルニッセの体を通り抜け反射してくる波紋は無かった。
「うん、死んでる。よし行こう」
エミリアは木箱に向けて歩き出した。それでもホルニッセの前を通る時には何となく気持ち悪くて、そおっと歩いてみたりもした。
「ええと、椅子は……っと」
エミリアは木箱の周りを探してみた。すぐには見当たらず、陰になってて見えないのかと裏側のほうまで覗き込んでみた。
「おっ……あった」
背後で重い物を引きずるような物音……エミリアは不振に思い振り返った。
「あっ……」
暗がりの中、ホルニッセの顔が目の前にあった。ホルニッセの複眼は静かにエミリアを睨んでいた、状況が呑み込めないエミリアはただ立ち尽くす。
戻りの遅いエミリアを心配してかオスカーが呼びに来た。
「エミリア? まだかよー、おーい」
オスカーの声だった、暗闇の中オスカーの姿を探そうと視線をやった次の瞬間、胸にかすかな衝撃と続けて激痛がエミリアを襲う。
何が起こったか理解出来ず自分の胸を見ると短剣のような毒針が胸から引き抜かれたところだった。ホルニッセの猛毒に冒されエミリアは体の自由を一瞬にして奪われる。
「えっ? 痛……あ……ああ、傷……傷を塞がなきゃ」
エミリアは胸に手を当てるがどうすることも出来ず崩れ落ちる。
「傷を……傷を塞ぐの……どうやるんだっけ……」
体がいうことをきかず力も入らなくなり、ついにその場で倒れ込んでしまう。起きようとはしても体を動かすことは出来ず思考することもままならない。意識もはっきりしなくなり自分が死んでいくのだいうことをゆっくりと認めていく。
遠ざかる意識の中、エミリアはホルニッセのあの固い外殻を一刀のもとに切り伏せるタケゾウの背中を見た。
ホルニッセの絶命を確認した後、次第に体の感覚が消えていった。
それでも、ただ頬を流れる涙の感覚だけは……はっきりと残っていた。




