9話 これが始まりだった
「万事休す、という、ところ、だな、弓木 紀彦。あと、一発で、仕留めて、やろう」
あと一発で仕留める?
ということは、心臓? 頭? 首?
視界は遮られ、使えない。
(そもそも、視界に頼っていたのが、駄目だったんだ。頼るのは、音。橘が、どんな魔術を使ってあの攻撃をしているのか分からないが、音はあった。それを聞き分けることができれば!)
目をつぶり、反応することも、可能なはず。
「これ、で、終わり、だ」
ヒュン!
来た!
これは、心臓!
予測し、軌道を遮るように、ナイフをだす。
キン! という音と、ナイフに強い衝撃が走った。
「ほう、よく、この、攻撃を。まあ、数うちゃ、あたる、だ」
ヒュン!
ヒュン!
ヒュン!
三発。
心臓、頭、首!
目はつぶり、横にとぶ。
これも、当たらなかった。
「ほう、よく、かわす。おもしろい」
(黒霧家には戦闘狂が集まっているのか?)
前の、中野も、戦闘中に、おもしろいと発言した。
そういうやつを集めているって可能性もあるけどな。
「仕方ない。この、攻撃は、もう、効果が、ない、ようだ。別の方法、に、しよう」
別の方法?
ビュン!
音が聞こえ、さっきと同じように、よけようとした。
しかし、腹部に強い衝撃が走り、後ろに吹き飛ばされた。
殴られたような、鈍い痛み。
避けられなかった?
ビュン!
もう一度来る!
今度はナイフの刃に当てて、軌道を変えようとした。
が、結果は、さっきと変わらなかった。
「うっぐ」
思わず、目を開いたが、砂塵はどこかに消え去り、はっきりと橘が見える。
「ああ、なるほど。そういうことか」
「どうした? 苦し紛れの言い訳か?」
「いや、あんたの術だよ。最初、物を飛ばしてきていたから、爆発系かと思ってた。それなら、橋が爆破されたのも納得だ」
「ああ、あれは、俺では、ない。仲間が、この島に、かかる、橋を、すべて、爆破した。お前たち、三人、は、袋の鼠、という、わけだ」
「へえ、情報提供、感謝しするよ。でも、あんたが、爆破系なら、最初の砂塵にはかなり、違和感がある。あまりに、きれいに空中に留まっていた。爆破で作ったものとは思えない。そこで、空気、風じゃないかって思った」
「ほう、おもしろい」
「川屋は水圧を極限まで高めることで、レーザーにした。なら、あんたの最後の攻撃も、一部の風圧を極限まで高めれば、あんなのになるんじゃないか?」
「ご名答、だ。素晴らしい。さすがは、弓木。戦闘で、相手の、手の内を、見抜く能力、は、さすが、だ。が、見破った、ところで、俺に、勝てる、わけ、では、ない!」
(まったくもって、その通りだ。今のだって、時間稼ぎ。少しは回復したが、足はほとんど動かないし、立ちくらみもする。拳銃を使うのは危険だし、ナイフは、届かない。投げるしかない)
右手、左手、二本ずつ! 一斉に、投げる!
「これも、リサーチ、済みだ」
目の前から、強烈な風が吹き、投げたナイフは勢いを失い、落ちた。
(くそ! 分が悪い!)
「俺は、一部だけ、でなく、全体に、強烈な、風を、起こす、ことも、できる」
(アナザーを呼ぶか? 呼べば確実に勝てるだろうけど、今は明音みたいに止めるやつがいないから、敵を殺しかねない。それは良くない)
(ふ、ふ、ふ! 私がいるのをお忘れですか?)
(律か、大丈夫か?)
律が、ストッパーをやってくれるなら、アナザーを出すのもありだ。
(私だって、何かの役にたちたいですよ。明音ちゃんは友達ですし。私だけ、何もしないのは嫌です)
それで、アナザーのお守りか。
確かに、他の方法は全部、運頼みだ。
やってみるしかない。
(じゃあ、頼むよ律)
(はい! 任せてください!)
そういうわけだ。アナザー! 出番だ。後は任せた!
「ははは、ここ最近、仕事が多くて、嬉しいぜ! 相変わらず、追い込まれてから、俺に仕事を回してきやがる!」
「ほう、キルキルキル、だ、な? おもしろい」
「なーにが、おもしろいだ! てめえ! 今から殺されるってのに、おもしろいはねえだろうが!」
(今回も、殺しちゃだめですよ!)
(ああん? まーだ、いたのか。うっとうしいやつだな! さっさと立ち退いてくれや!)
(紀彦からのお願いですから!)
(あいつ、俺を、どう思ってるかは知らねえが、俺は、紀彦に心配される義理なんか、ねえんだよ!)
「攻撃を、開始、するぞ? いいな?」
「ああ? どいつもこいつもうるせえな! 構わねえぜ? あいつがきっちり、分析してくれたからなあ!」
さっきと同じ、風で、殴る攻撃だ。
「ここは、飛ぶ!」
「そう、かわすか。おもしろい、追撃、だ」
「そうくると、思ったぜ!」
風を、足裏で受け止める。
「んな、馬鹿、な、どう、やって、予測、したんだ?」
「ちょっと、ばかし、砂を使わせてもらったぜ? 砂が吹き飛んだ部分が、風の部分だよな!」
「しかし、そこから、落ちた、とき、受ける、ダメージ、を、考えて、いたか?」
「いやー? ここからは賭だな」
拳銃を取り出す。
ここからなら、明音に当たることはまずない。
狙うのは、橘の足元!
続けざまに六発全弾撃ち込む。
「く! か、風で!」
止められない。勢いは止まらない。
橘は死んでいない。
ただ、足元に、消えかかった陣ができていた。
目の前には、弓木 紀彦。アナザーが立っている。
「なぜ、殺さなかった? さっき、私を、狙う、こと、も、できたはず、なぜ、魔術陣、を壊した? いや、いつから、魔術陣、の、存在、に、気づいて、いた?」
「質問が多いぜ? まったく。まあ、まずあんたを殺さなかったのは俺が安全に地面に降りるため、徐々に、俺を押し上げる、風の威力を下げてもらうため。あんたが死ぬと一気に消えるんだろ? そうなると、俺の足、完全に壊れちゃうからさ」
「だから、魔術陣、を?」
「そうそう。魔術陣を壊して、徐々に風の威力を下げて降ろしてもらおうと思ったんだ。が、そもそも、魔術陣がなかった場合はどうしようもなかった。だから、これは賭けだ」
「ちなみに、魔術陣の存在は紀彦の方の予測だ。あんたが、その場所から、一歩も動かないこと。ナイフを投げても、わざわざ風で跳ね返したこと。さらに、あの風をだすには魔力が相当必要だろう。だから、魔力提供型の魔術陣じゃないかってね」
「あ、当たりだ。す、すごい、な、まったく」
「ああ、まったく、あいつはどうかしてる。どうしてこう、頭が回るのか、不思議だ。しかし、あんた、ここで死ぬつもりだったのか? その陣に、魔力を頼っているようじゃ、とても、実戦向きとは言えないな」
「キルキルキル、は、危険、だ。戦闘員、を、増やした、ところ、で、結果、は、変わらない。だから、最少人数、で、この、作戦、は、おこなわれた」
「へえ、俺が目的か? しかし、俺もずいぶん甘く見られたもんだ」
「事情、が、あるんだ」
「ふー。まあいい、さて、あんたをどうするかだが」
「殺してくれ」
「そういうと思ったぜ。だが、紀彦から、殺すな、と強く言われててね。頭の中でやかましく響いてるんだわ。なんか、今回のこと、見通してか、あいつスタンガン持ってるし、これで、気絶してくれや」
「しかた、ない、な」
バチバチイと音が鳴り、橘は気絶した。
(これでいいんだろ? これで!)
(え、あっはい。そうです)
(なーに、お前が驚いてんだよ! さんざん、頭の中でわめきちらしやがって! 鼓膜関係ねえけど、鼓膜破れそうなんだよ!)
(さっさ、次は明音ちゃん回収しないと!)
(逃げやがった! こいつ!)
橘が出てきたドアから入ると、柱に明音がくくりつけられていた。
「おい、明音、大丈夫かー?」
頬をぺしぺし叩く。
(なんと、デリカシーの無いことでしょう!)
(起きねえな)
(明音ちゃん、頬叩かれすぎて、真っ赤になってるじゃないですか!)
(手加減できないんだよ。諦めろ)
とりあえず、ロープを切り、明音を解放したが、起きる気配がない。
「おいおい、これじゃ、テレパシー、できないじゃねえか! しっかりしろよ!」
(ただ、寝ているだけなんでしょうか)
(んなわけねえだろ。脈も正常にあるし、息もしてる。死んでいない。でも、起きない。催眠魔術で間違いないだろ)
(すぐに、起きますかね)
(それは、ねえな。誰がかけたかは知らねえが、こいつは意識があるだけで、かなり危険だからな。すぐに、起きることはねえだろ。二、三日で起きたらいい方だろうな)
(じゃあ、松島さん、どうします?)
(ほっといても、大丈夫だろうけど、明音が、問題だな。まったく。こいつ抱えて泳ぐのは、かなり、重労働だ)
(船とか、呼べます?)
(まさか、無理に決まってるだろ。とりあえず電話してみるか)
松島の番号にかける。
すぐに出た。
「うん? もしもし、松島ですけど」
「アナザーだ。てめえ、今どこにいるんだ? こっちは明音を回収したんだが」
「ああ、アナザーか。いや、暇だし、他の橋が無事か見て回ってたんだけど、ダメだったから救援要請をだしたよ。今はそっちに向かってる」
「そうか、じゃあ、また、会って話そうや」
電話を切る。
(切るの、早すぎません?)
(いいんだよ、すぐに合流するだから)
(ところで、紀彦から情報を受け継いでいるんですね)
(紀彦が選んだ情報だがな。状況とか。必要以上はいらないって言ってるからな)
(それで、いいんですか?)
(いいんじゃねえの? したいことだけをする。俺は戦いたい。それができるだけでいい)
クラクションが聞こえた。
(あ! 来ましたね!)
(さて、ここで、俺はおさらばだ)
(もう、ですか? アナザーの時間、少な過ぎません?)
(いや、俺は面倒事はいい。いいとこ取りさせてもらうぜ。あとは頼むわ。紀彦にちゃんと説明しておいてくれよ)
「おーーい! 大丈夫か!」
松島さんが、駆け寄ってくる。
「ほとんど、記憶がなくて、教えてもらっているところです」
「そうか、まあ、無事でなによりだ。えっと、お嬢様は分かるんだけど、気絶しているこいつは?」
「橘、と名乗りました。新たなる闇の所属だ、とも言いました」
「なるほど。やはり、そうか。しかし、これは確実にまずいな。
黒霧家は間違いなく、これを口実にして、新たなる闇を攻撃するぞ」
「完全に身内ですもんね」
松島さんは腕を組み、息を吐いた。
「下っ端の俺たちが知ったこっちゃ、ねえよな。さて、救助だが、そろそろ来るはずだ」
(船ですかね)
「船ですか?」
「そうだよ。倉橋さんが、免許持ってるからね」
その後、僕らは倉橋さんの船で、回収された。
当然、黒霧家には報告され、とりあえず僕と松島さんの処分はなし。
しかし、これをきっかけに、黒霧家は新たなる闇を攻撃する、口実ができた。
間違いなく、戦争が始まる。




