21話 真実
紀文の顔は大真面目だ。
まったく笑っていない。
「ど、どういうつもり、、、?」
明音は本当に困惑しているようだ。
松島さんは絶句している。
「言葉のそのままの意味さ。魔術界を潰す。そのための戦争は下準備だ。当然だが戦争を終わらせることに協力はしない。いや、逆だな。妨害する」
「何で、魔術師なのに魔術界を潰そうとするんだ? そこがイマイチよく分からないんだが」
「それには、深いわけがある。おい、黒霧とその運転手! 少し紀彦君と二人で話がしたい。いいか?」
明音は明らかに嫌な顔をした。
自分が蚊帳の外に置かれるのは我慢ならないだろう。
しかし、逆らえば手に入れられるはずの情報を失うかも知れない。
明音ならそこまで考えているだろう。
「ええ、紀彦がいいなら、かまわないわよ」
「なら、二人で話しをしよう、紀彦君」
「こちらもいろいろと聞きたいことがあるので、ちょうど良い機会です」
紀文は僕を後ろに連れて、家のドアを開けた。
「紀彦君、入りたまえ」
さっと明音を見たが、ブスッと腕を組み、目をつぶって動かないので、声をかけるのを諦めた。
やはり、嫌だったようだ。
紀文の家の中は、木が基調の部屋。
それなりに広い。
おそらく、この部屋がリビングで、奥の扉二つが寝室。左側の扉が風呂、トイレと言ったところか?
玄関から右側、テレビは部屋の隅っこの棚の上に置かれ、それを囲むようにソファーが配置されている。
律とそっくりの彼女はさっきと変わらず窓際でソファーと一緒に設置された安楽いすに座り、黙々と本を読んでいる。
僕たちが家に入ったことに気づいた様子はない。
(あれが、、、私ですよね?)
(そのはずだ。間違いないだろう?)
(ええ、はい。そうですね)
しかし、端から見た彼女は儚くすら見える。
まるで、夢の中の登場人物のような。
でも律がクラスにいたときは、同じ見た目でも、あんな感じではなかった。
いつも、クラスでは誰かが律の周りにいた。
明るく、ハキハキとしゃべる。
その性格とその容姿で、学年一の人気者とすら呼ばれていた。
「紀香には手を出すなよ、そればっかりはいくら紀彦君でも怒るからな?」
「ええ、当然です」
部屋の左側。
食事をとるであろうテーブルに座らされた。
紀文は向かいに座った。
「コーヒーはいるかい?」
「いえ、結構です。早くこの話が終わらないと、外で待っている明音の機嫌を損ねますからね」
紀文ははっはっはっと笑い「今の君の主人だろ? 良い人だ。大事にしろよ」と続けた。
「そうだな、さっそく話に入ろう。俺と紀彦君の父、紀隆の過去だ」
俺と兄貴、紀隆は生粋の魔術師だ。父も、母も魔術師。
当然、二人とも将来は魔術師となって、さらなる魔術を編み出してみせると息巻いていた。
紀隆は俺の三つ上だから、魔術学校の中等部、高等部で一緒になったことはなかった。
それどころか、兄貴は一度、中等部のときに飛び級で一年から三年になっているからな。学校で接点はほとんどなかった。
でも、ことあるごとに、兄貴の噂は耳に入ってきた。
魔術の実技、記述のテストは常にダントツで学年一位だった。
その頃、兄貴は「パーフェクト」と呼ばれていた。確かにその通りだった。魔術において、兄貴は負けなし、完璧だった。
だが、孤高だった。
ひたすら、魔術を極めようとする姿は周りを近寄り難くした。
常にクラスでは一人。
誰とも話さない。
話しかけられれば明るく返すが、相手がいつも自分を学年一位のエリートの弓木 紀隆だ。と、認識しているのを嫌った。
だから、話しかけない。
高等部では、その日の授業が全部終われば、成績優秀者にのみ与えられる研究室に夜遅くまでこもっていた。
家に帰って来るのは、大抵夜の十時、十一時だった。
俺は兄貴と同じ魔術学校の中等部だった。
俺は、魔術の実技は得意で学年一位を取ったこともあるが記述はとことんダメで学年最下位を取ったこともある。
その頃は、ずいぶんそのことで悩んでいたが、ある意味その方が良かったとは今でも思っている。
完全無欠よりも、明らかな欠点が一つか二つ見えているぐらいの方が近付きやすいもんだ。
おそらく俺の場合、魔術の記述が明らかな俺の欠点として見えていたからこそ、それなりに友達ができたんだと思う。
その当時、弓木家は暗かった。
いつも明るかった母は両親、俺の祖父母が亡くなり、どこか暗い雰囲気を持っていた。
父は共にもともと無口で家ではまったく話さない。いつも家では我関せずといった感じだった。
兄貴は学校でのストレスの為か、どんどん暗い雰囲気を出し始めた。
俺に家に漂う暗い雰囲気を払拭することはできなかった。
そのため、俺は逃げるように、できるだけ外で放課後を過ごした。
勉強は図書館で、できるだけ友達と遊び、何泊かする旅行を実行したこともあった。
それが俺が中等部、兄貴が高等部の頃の話。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
書きたかった所までこれて嬉しいです。
次話も頑張ります!




