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19話 山道

 車が高速道路を出た。

 だいたい、今は四時ぐらい。

 少しずつ建物が減っていき、田畑が多くなる。

 徐々に傾斜が上向きになり、緑が茂る山道にはいっていく。


 いったい、こんな所で弓木 紀文は何をするつもりだろうか。


 もしくは、単純に人目を避けて、追っ手から隠れているのだろうか。


 だが、本当に隠れているだけなのだろうか。


 何か意味があるように僕には思える。


 それが分かれば弓木 紀文が戦争を起こした理由が分かるはず。


 戦争の危険性を知った上でそれでも起こした、その理由が。


 


 少しすると、車は道のうねりに合わせて右に左に揺れ始めた。

 山道は車、一台が通るのがやっと。

 向かいから車が来たら、どこまで戻らないといけないのだろう。


 さっきから景色が変わらない。道の右側は緑が生い茂り、左側は崖。深すぎて、底が見えない。

 そのハンドルさばきで、我々を再三、恐怖に陥れてきた松島さんだが、今回は本気だ。

 本気と書いてマジと読むやつ。

 無駄口をたたかず、スピードを落として、道から外れないように必死だ。

 その気迫が伝わるためか、車内は久しぶりの沈黙が訪れた。


 途中、左端の道路のコンクリートがパキッと割れて、崖に落ちていった。

 いつもの松島さんであれば、冗談を言うところだが、今回は、フヒューーと息を吐いて、目の前に集中していた。


 さて、突然だが酔った。

 車酔いだ。

 松島さんが「あと、五分ぐらいで着きます」と言った。

 早く、早く、着いてくれ。

 そう祈る今も、車は非情にも揺れる。


 普通、僕は車酔いはしない。

 したこともなかった。

 しかし、三〇分ほど前、明音の座る助手席の後ろにかかっているゴミ袋が、車の左右の揺れに耐えきれず、落ちた。

 どうも、ゴミ袋をフックにかけていたらしい。

 いや、そこはどうでもいい。

 問題は、そのゴミ袋の中身が後部座席、全体に散乱したことだ。

 助手席からは「全部、拾いなさいよ?」と言う心無い声援が届いた。

 

 座席の上にあるのは、まだいい。

 座席の下に潜り込んだのを取るのが苦行だった。

 そう、この間も車は揺れているのである。


 二〇分ほど、一心不乱にゴミをかき集めた。

 その間は、座席の下をのぞき込んだりもしたが、その間も車は揺れる。

 やっとのことで集め終わり、安堵したそのとき。


 気持ち悪い。


 吐き気、めまい、頭痛。

 

 車が停止したときには僕はすでに瀕死だった。

 足元がおぼつかない。

 ふらふらする。

 もはや限界だった。

 

 車が停止した瞬間、ドアを開けて草むらに飛び込んだ。

 

 嘔吐した。



 

「突然、車から出ていったから、壊れたのかと思ったわよ。私成分が近頃は少なかったし、飢えていたのかなと思って」


 車から出てきた明音が本気で心配しているのがつらい。

 と言うか、私成分って何だよ! 私成分って!


(一応、原因は明音ちゃんにもありますし、明音ちゃん成分もあながち間違いではないですね)


 間違いでしょ。

 せめて、後でいいよ、と言ってくれれば、、、。

 今から重要な場面だというのに、一気に気分はマイナス方向だ。責任取ってくれ! 


「ゴミ拾ってて酔っちゃったの? 後で良かったのに」


「い、言うのが遅い、、、」


「ただ、紀彦君。今からこの山を登るんだぜ? 大丈夫か?」


「だ、大丈夫なわけないです、、、少し休ませてください」


 明音一行が山を登り始めたのは、それから一五分後のことだった。

 遅くなりました! 今回は少なめです。

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