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ヒーローアフターヒール(リメイク連載中)  作者: 手頃羊
6話:道化師にも戦場はある
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その5・Holding

[クロノ]

剣奴の前戯(マダ・リヴェ)』開催。

その1日目。

朝だというのに外が騒がしい。

マリア「そりゃあ開場から競争が始まりますからね〜。」

クロノ「競争?席取りとか?」

マリア「はい。舞台に近い方からお金持ちや有力者なんかの席で、一般客は後ろの方の席になるんです。少しでも前で見るために、ものすごい競争になるんです。そういえばクロノさん、『剣奴の前戯(マダ・リヴェ)』はいつに出るんですか?」

クロノ「今日の最後。昨日の夜言ったろーが。」

昨日のうちにどの順番で出場するかをクジで決めたのだ。

マリア「あれ〜?言いましたっけ〜?」

クロノ「酒飲みすぎだ。」

マリア「いやー、お供がいると安心して飲めるというか…」

クロノ「ったく…」

ドアがノックされる。

ロナルド「クロノ様。まもなく開場となりますので、出場者の方は舞台入場口の方へお越しください。」

クロノ「うーい。そんじゃあ行ってくるぜ。」

マリア「はい!頑張ってきてください!」


入場口に着く。

入り口の方から舞台が見え、それを取り囲むように作られた観客席が人の波に飲み込まれているのが見える。

クロノ「うわぁ…」

人々が走っては席を取って座り、席を奪われまいと必死である。

ロナルド「それでは本日の出場者の皆様方、よろしいでしょうか。」

ロナルドが出場者を集める。

ロナルド「本日の試合はあくまで前座でございます。本気で戦われるも力を温存されるも皆様の御自由ですが、怪我をされない戦い方をなさるのを推奨いたします。また、武器は我々で用意いたすこともできます。必要であればお申し付けください。必要ないという方は御自身の武器でも出場できますが、故障又は破損なされても、当方は責任を負いません。ご了承ください。それでは、皆様のご武運を。1戦目は、約30分後の開始となります。」

現在9時ごろ。

(こんな時間からやるのか…)

自分の出番は16時の予定だ。

当然それまで暇である。

(ちょっと出るか。ついでに、初めの試合を上から見よう。)


観客席へ向かう通路でいつぞやの道化師の男とすれ違う。

クロノ「なぁあんた。」

声をかけるが、振り返ることなく通り過ぎていった。

(いや、俺も特に用は無かったが…無視していくか…?)

足元を見ると、小さな紙が落ちていた。

紙には何かの絵が描かれている。

子供が描いたような解読に一瞬迷う絵だが、男が描かれているのは分かる。

(あのピエロが通り過ぎるまでは廊下には何もなかった…つまりあのピエロのものなわけだが…)

ピエロが去った方向にはもう誰もいない。

また出会った時に渡そう。


観客席に着く。

スポーツの大会なんかの熱気そのものだ。

いや、それ以上だろう。

既にテンションが上がりきっている者が何人かいる。

「おい!」

誰かに呼ばれる。

その方向にはキッドマンがいた。

キッド「こっち来いよ!空いてるぜ!」

キッドマンが最前列の席を2つ取っている。」

クロノ「最前列じゃねーか。」

キッド「俺ほどになると優遇されるのよ。初めの試合は去年の出場者だ。どんな試合になるだろうな。」

しばらく話していると、突然が声が響き渡る。

声「本日はご足労頂き誠にありがとうございます。皆様の期待が、剣闘士達を熱く燃え上がらせます。皆様、どうぞ会場を盛り上げていっちゃってください!さぁ丁寧な挨拶はとっとと終わらせよう!今年も大会の初めから最後までを実況するピギー・トルトロイだ!」

クロノ「ちゃっかり実況までいんのかよ…」

キッド「声をデカくする魔法だったかを上手く利用すんだと。よくもまぁそんな器用なことを思いつくぜ。」

クロノ「ま、楽しくなるからいいじゃないか。」

キッド「全くだ。」

ピギー「さぁさっそく1人目といこう!」

選手の入場口から槍を持った男が出てくる。

ピギー「1人目は去年の本戦5位、テラー‼︎今年も真っ赤な血をイメージした仮面と真っ黒な夜をイメージしたタイツみたいな鎧でお出ましだ‼︎」

テラーと紹介された男が槍を掲げる。

途端に会場は一気にやかましく騒ぐ。

クロノ「うっひょ〜、1人目でどんだけ大盛り上がりなんだよ。」

キッド「それがこの大会の影響力なんだよ。」

ピギー「さぁ魔獣の登場だ‼︎反対側の檻に注目‼︎」

テラーが出てきた門の反対側にある檻が開く。

中からはとても巨大なウサギが出てきた。

軽くカバくらいはある。

ピギー「おっとラーバーだ。サイズはデカイが、俺が知る限りこの大会ではまだ簡単な相手。5位とかいう微妙な順位でも、これは余裕の圧勝というところだろう。さぁ、用意はいいか‼︎始め(ディッカ)‼︎」

実況の合図とともに槍を構えてテラーが走る。

ラーバーもテラーに向かって走り、巨大な体を飛びあがらせて牙を剥く。

テラーが槍を両手で持ち、腰を低くしたかと思うと、突如姿が消える。

クロノ「あれ?」

キッド「見てろ。奴の唯一の特技だ。」

獲物を見失ったラーバーが地面に降り立ち、辺りをキョロキョロする。

するといきなり、頭に上から槍が落ちてくる。

落ちてきた方を見ると、テラーが空中で物を投げ下ろした体勢で落ちてきていた。

ピギー「さっそくやりやがった‼︎テラーの唯一の特技‼︎」

槍が脳天に突き刺さったラーバーは無事で済むわけもなく、地面に倒れる。

ピギー「こんな技がありながらなのか、これしか技がないからかは知らないが、これでもこの男は去年5位だ‼︎こんなスッゲェ技を持つ奴は他にはいねぇだろうに‼︎ラーバーとはいえ、あのデカい魔獣を一撃で仕留めやがった‼︎勝負あり‼︎」

会場は登場の時よりも更に盛り上がる。

キッド「5位でも盛り上がるのがこの街の連中の良いところだよな。」

クロノ「ってかあれで5位かよ。一瞬じゃねえかよ。」

キッド「仕方ねぇ。もっと強いやつがあと4人いるだけの話だ。」

クロノ「そのうちの1人がお前か。あぁ〜自信なくなってきたな〜。」

キッド「いや、俺は今回のダークホースはお前だと思うな。お前の体の中を流れる魔力はその辺のやつとは違う。」

クロノ「そうか?」

キッド「俺は人を見る目があるんだ。過去に何があったかは知らんが、闇の力によって魔力が強化される事例は知ってるが、闇のそのものを魔力に変えて保持してるやつは初めて見た。」

クロノ「え?」

(なんでそんなこと分かるんだ?)

キッド「言ったろ?人を見る目があるって。」

キッドの目を見る。

よく見ると、目の中に魔法陣が回っているのが見える。

クロノ「なんだその目…?」

キッド「古い魔道書を開いたらこうなっちまってな。そいつの魔力が見えるんだ。」

クロノ「それはなんだ?良いものなのか?」

キッド「どうだろうな。おかげで視界が変わっちまった。魔力の流れが見えるようにはなったが、それ以外が何も見えないんだ。」

クロノ「それ以外?」

キッド「魔力の強さや種類なんかは区別できる。魔力は人に流れているから、人の形に魔力が流れているのが見える。それでやっと人を認識できるんだ。食べ物も武器も建造物も。魔力が流れていれば見える。大抵のものには魔力が流れてないものはないから普通に見えるが、基本が真っ黒の世界に変な光が人や物の形を作って動いてるんだ。始めは何度も吐いたよ。」

簡単に言えば、常時サーモグラフィー状態だと。

クロノ「よくもまぁ正気を保ってられんな。」

キッド「いや、むしろもう壊れてるのかもな。じゃなきゃこんな状態でこんな大会に出ようだとか思わん。」

クロノ「そうだな。」

ピギー「さぁ舞台のお片づけも終わったな。次はお昼のご飯が終わった辺りに2戦目だ。さっさと食い終わらねえと見逃すぜ!急ぎすぎて喉に詰まらせるなよ!」


マリア「あれ?クロ…ヒール?こんなところに……ってその方は‼︎」

酒場が埋まる前に会場を出ようかと思ったらマリアに出会った。

キッド「知り合い?」

クロノ「連れ。一緒に来たんだよ。出場者じゃないが。」

キッド「へぇ。」

マリア「キッドマンですか⁉︎覇者の‼︎」

キッド「あぁ。俺がそのキッドマンだ。」

マリア「うっひょー‼︎握手してください‼︎」

クロノ「テンション上がってんなー。」

キッド「はいはい。あ、なぁ嬢ちゃん。俺とヒール。どっちが勝つと思う?」

(うわぁ、答えづらい質問を。)

マリア「うーん、申し訳ないですけどヒールでしょうかね。」

キッド「ほほーう?」

マリア「私の賭け師としての勘がそう言ってるんですよ。」

キッド「そう言われたら俺も負けるわけにはいかねぇな。ヒール、本戦でかち合ったら本気で行くぜ。」

クロノ「ほどほどにしてくれよ…。」


ピギー「さぁお前ら、飯は済んだか?腹は膨れたか?喉渇いてないな?今日から何日も叫ぶんだ、体力に気をつけろよ!さぁ次の選手の入場だ!今年初出場の1人目、テム‼︎」

上半身裸の男が入場口から現れる。

クロノ「カンフー映画みたいだな。」

キッド「上が裸で下はズボンだけか。軽装だな。さっきのテラーでも軽い鎧くらいは付けてたのに。」

ピギー「己の肉体を武器にするこの男!武器に頼らず、魔獣をボコボコにしてやろうという良い眼光だぜ‼︎ならばさっさと魔獣を見せてやろう‼︎相手は〜!」

檻が開く。

ピギー「ゴブリンだ‼︎しかもマッスル‼︎」

筋肉隆々のゴブリンが現れる。

クロノ「でっか⁉︎」

キッド「うわ〜お、ありゃすごいな。テムとやら、相手にできるのか?」

しかし、2メートルはあろう身長のゴブリンにテムは怯む様子も見せない。

ピギー「いいぞ、テム!こんなところで怯えてちゃ話にならねぇからな‼︎さぁ準備はいいか!いざ尋常に!始め(ディッカ)‼︎」

テムが中国拳法でも彷彿とさせるかのような構えを見せる。

ピギー「おっと不思議な構えを見せる。これはなんの構えだ?」

ゴブリンがテムに向かって走る。

ピギー「おっとゴブリン走る‼︎走って〜‼︎」

十分近づいたところで、片足を上げる。

ピギー「蹴るか⁉︎当たるのか⁉︎」

足の裏面で敵を蹴る、俗に言うケンカキックを繰り出すが、テムは両手を突き出し、蹴りを正面から受け止める。ピギー「掴んだ‼︎」

懐に飛び込んで、肘打ちをゴブリンに決める。

ゴブリンは後ろによろけるが、テムがその隙を見逃さず、ゴブリンの腹を蹴り抜く。

ピギー「連撃‼︎いい調子だ‼︎」

ゴブリンがやり返そうとパンチを繰り出すが、それを避けてまた懐に潜る。

拳を腹に添え、力を込める。

拳の位置は数ミリと動いていないが、ゴブリンは豪快に吹き飛ばされる。

ピギー「なんだ今のは何をしたァ⁉︎手を動かさずにゴブリンを吹き飛ばしやがった‼︎」

斜め上方向に吹き飛ばされたゴブリンの体が観客席に向かう。

クロノ「あれぶつかるぞ‼︎」

キッド「大丈夫だ。」

かと思ったらその直前で見えない壁にぶつかる。

クロノ「あれ?」

キッド「な?」

ピギー「おっと観客のみんなビビったか?そういえば説明するの忘れてたぜ!舞台は頑丈な結界で囲ってあるから、中のものがあんたらに飛んでくる心配は何1つないぜ‼︎安心してふんぞり返ってな‼︎というところで‼︎勝負あり‼︎早過ぎるぞ‼︎時間余っちゃってんじゃねーか‼︎考えてくれよテム‼︎でもまぁなっちゃったものは仕方ない!次の試合は暗くなるちょっと前くらいだ!昼寝してる暇はねぇぞ!」

キッド「お前の出番だな。」

クロノ「あぁ、緊張してきた。」

キッド「お前なら何が来ても余裕だろ。」

マリア「クロノならいけますって!」

キッド「ん?クロノ?」

マリア「え?あっ…」

クロノ「おま…」

キッド「クロノって言えばお前…」

幸い、騒がしさのせいで他の客には聞こえていないようだ。

クロノ「頼むキッド!黙っててくれ!ここで騒がれるとめんどくさいんだ!」

キッド「いや、俺も似たような立場だから分かるさ。誰にも言わねぇよ。でもお前…それはつまり、あのクロノなんだよな。カミヅキ・クロノ。」

クロノ「まぁ…うん。」

キッド「へぇ〜。」

今まで聞いてきた中で1番長い「へぇ〜。」聞いた気がした。

キッド「ますます楽しみだなこれは。おい、途中で負けたら許さねぇからな、ヒール。それじゃあ、準備があるだろ。行ってこい。」


クロノ「マリア…」

マリア「ごめんなさい…ほんとに…」

クロノ「はぁ…まぁ、聞かれたのがキッドだけで良かった…」

マリア「知られると最悪、アリアンテまで名前が行っちゃいますからね〜。」

クロノ「え?」

マリア「え?だって、クロノ程の知名度ですよ?例の事件がレギオン討伐の後だったからそんな騒がれませんし、最近はクロノに関することがあの街で話題にならないですけど、もしまた名前がアリアンテで思い出されるようであれば、どこかからクロノ=極悪人ってのが流れて、相当な事態になりますよ?」

クロノ「………」

マリア「そこまで考えてなかったとか…?」

クロノ「忘れてた。」

そういえばそんなことあったわ。

マリア「えぇ〜…」

クロノ「そうだな…確かに…俺って結構綱渡りしてんな…」

マリア「とにかく…名前の重要さが身にしみましたね…」

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