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ヒーローアフターヒール(リメイク連載中)  作者: 手頃羊
6話:道化師にも戦場はある
36/67

その4・Shut up.

[クロノ]

一晩過ごして次の日。

大会開始まで3日。

朝早くに起きたものの、特にすることもなくて暇だ。

マリアはまだ寝ている。

(夏の時期なのにまだ薄暗さが残っているということは6時くらいか。)

部屋を出てみる。

朝だからか、やはり静かだ。

老人「おぉ、こんな時間に起きとるとは!」

廊下の向こうから1人の老人が歩いてきた。

背が小さいのはドワーフだからだろうか。

老人とは言ってもなかなかの筋肉だし、動きも老いを感じない。

背中には弓を背負っている。

老人「なかなか早起きじゃのう。それとも大会が待ち遠しくて寝れんかったか!」

クロノ「いや、だいたいこんなもんだよ。今日はいつもより少し早かったが。あんたは?出場者?」

老人「いや、ワシは運営する側じゃ。お主、クロノじゃろう?聞いておるぞ。」

クロノ「はぁ…なんだって知られてるんだか…」

老人「いや…お主には話せぬし、知らない方がよいかもしれんな。ワシはジグ・ラックという。」

クロノ「ジグ…ね。」

ジグ「驚かんのじゃな…。今までワシの名を聞いた者はみな何かしら反応しとったが…」

クロノ「有名人なのか?俺はその辺疎くてな。」

ジグ「有名というか…ワシは英雄神の1人じゃ。」

クロノ「は?」

英雄神の1人とこんな廊下でバッタリ会っちゃったの?

クロノ「本当に?」

ジグ「本当じゃ。弓の名手、老兵ジグとはワシのことじゃ。」

クロノ「まじかよ…まさか、あんた不老不死ってわけじゃ…」

確か不老不死になった英雄神はアリウスって奴らしいが…

ジグ「そうではない。ワシはただ長生きなだけじゃ。」

クロノ「2000年以上も?」

ジグ「2000年以上も。近々寿命は来るじゃろうて。」

クロノ「その割には全然現役そうじゃん。」

ジグ「当たり前じゃ!生涯現役!死ぬまで弓を抱えて戦うのみよ!」

クロノ「そういやさ、あの青の…ロナルドだっけ。あいつも英雄神なの?」

ジグ「確かにあいつは知恵と魔術の神である叡智神リーマナと同じ名を持つ。じゃがあいつは英雄神ではない。その子孫じゃ。」

クロノ「子孫?あいつの遠いご先祖様が、そのリーマナってやつなの?」

(本当に子孫だったのか。)

ジグ「あいつはリーマナ程ではないと言うが、やつの魔法に敵うやつはおらん。まぁ、多少おっちょこちょいじゃったり、ドジったりする部分はあるがの。」

クロノ「少なくとも駆け引きは難しそうだったな。」

ジグ「良くも悪くも若いからのぅ。それで、お主はどこか出掛けるのか?」

クロノ「いや。出てきたのはいいものの、特にやることもなくて暇なんだよ。」

ジグ「なら本戦で戦う会場に行ってみるといい。お主は予選も出んといかんかったかの。先に下見をするのもいいものじゃぞ。もしかしたら、他の出場者もおるかもしれん。」


と言われて来たが、

クロノ「あ、でも本当にいたな。」

刀を持った男が素振りをしている。

(あいつ強いんだろうな〜。)

地面は普通の土だ。

イタリアにあるコロッセオは地下に色々と柱があって、エレベーターみたいな役割を果たす空間があったりしたが、ここも同じなのだろうか。

刀を持った男がこちらに気づいた。

手を振りながらこっちに来ている。

男「あんたも出場者か?」

刀を肩に担いで陽気な笑顔で話しかけてくる。

オールバック、筋肉、体中にある傷跡。

兄貴的な風貌だ。

クロノ「まぁな。あんたは?」

男「キッドマン、で分かるか?この大会では結構有名だとは思うが。」

クロノ「あぁ昨日酒場でその話したよ。カラドマを倒したとか。」

キッド「ははは!いやー、そこまでじゃねぇよ!魂を喰うったって、それ以外はただの魔獣だ。あんたの名前は?」

クロノ「言えない事情があってな。」

キッド「リングネームくらいは教えてくれてもいいだろ?俺だってキッドマンってのはリングネームだ。本名はまた別。」

クロノ「ヒールだ。」

キッド「ヒール、ね。あんたはなんでこの大会に?」

クロノ「大した理由はないよ。面白そうだったから。強いて言うなら、俺は決闘とかの正々堂々の戦いが結構好きなんだよ。」

キッド「あんたもか!俺もだよ!…ん?」

キッドが離れた方向を見る。

自分も続いてその方向を見ると、ピエロのような格好をした人間が会場を眺めていた。

キッド「あいつは初出場の奴だな。」

クロノ「なんだありゃ。ピエロか?」

キッド「道化師だな。古い物語にあるお調子者の格好。場を和ませたり盛り上げたりするが、時に事件も引き起こす。」

クロノ「そんな物語があんのか。ってことはあいつはまさか…」

キッド「いやいや、あれは実話じゃないし、あれがその本人ってわけはないだろ。道化師の格好でゲンを担ごうってわけなんだろうよ。でも変なやつなんだよ、あいつ。」

クロノ「変なやつ?」

キッド「話しかけたんだがよ、頷いたり首を傾げたりだけで、全く話そうとしないんだよ。声が出ないとかの類じゃないらしいけどさ。人と関わろうともしないし。」

クロノ「そりゃ確かに変なやつだな。」

キッド「もし本戦であいつと戦うことがあったら要注意だな。」

道化師の男は向こうへ消えてしまった。

キッド「で、お前もここで素振りか?」

クロノ「いや、暇で暇でやることなくてな。散歩がてらここに来たんだ。」

キッド「なら軽く手合わせしないか?俺も暇なんだよ。」

クロノ「悪いが遠慮しとくよ。暇ではあるけど、今は散歩を楽しみたい気分なんだ。」

キッド「そっか。それじゃあ本戦で運が良かったら戦おうぜ。」

クロノ「あんたと当たるのは運が悪いってことなんじゃねぇのか?」

キッド「覇者と当たるんだ、幸運だろ。」

クロノ「そのまま勝たせてくれたら幸運だろうよ。そんじゃ。」


街を歩いていると、闘技場の召使いらしき女性が籠を持って歩いているのが目に入った。

みすぼらしい格好というか、いかにも奴隷というか、そんな感じの格好だからだろうか。

見た感じでは成人女性だろう。

(そういや予選には剣奴が出るんだっけ。ってことは奴隷を何人か抱えてるってわけだよな。あれもその内の1人なのか?)

そう考えると、なんとも言えない気持ちになる。

(本人が望んでることなら何も文句はないんだがな。)

すると突然路地から手が伸び、召使いの女を引き込んだ。

(おっ?なんだありゃ?)

当然行かないわけもなく、女が攫われた路地へと入る。


2人の男が先ほどの女性を壁に追い込んでいる。

片方は図体のデカいハゲでもう片方は…

(昨日の食い逃げ?懲りてねぇな。)

食い逃げ「おつかいに来てるっつーことは金持ってるってことだろ?なぁ。その金よこせっつってんだよ!」

女は怯えているのか声すら出ていない。

(呆れるな…まったく…)

ハゲの方の頭を掴み、壁に押し当てる。

食い逃げ「え?んなっ⁉︎」

ハゲの頭と壁が真っ赤に染まる。

クロノ「一言も喋らずにダウンとは…出番の少ないハゲだ。」

食い逃げ「てめっ!昨日の‼︎」

クロノ「懲りねぇな、お前も。」

食い逃げ「ちっ…昨日の借りだ…ぶっ殺してやらぁ‼︎」

ナイフを取り出した食い逃げが右手を突き出す。

クロノ「遅い。」

左手で男の腕を掴み、みぞおちに拳を入れる。

食い逃げ「うぐぉ…」

クロノ「俺の剣だと狭い路地じゃあうまく戦えないとか思ったんだろうが、剣なんぞ無くても戦えるし、武器=勝てるってわけでもねぇことを覚えておけ。」

食い逃げ「くっそぉ…」

「待て‼︎」

通り側の方から声がする。

そこには真っ赤な鎧に身を包んだ人が立っていた。

騎士というような風貌だ。

鎧の装飾の豪華さが身分の高さを表しているかのようだ。

顔までも覆っている為、誰か分からない。

クロノ「あんたは…」

食い逃げ「なんだテメェ……」

騎士「食い逃げに恐喝。よそ者にしては随分と好き勝手やってくれる。」

赤い騎士は食い逃げに対して威厳のある声で話しかける。

クロノ「赤…紅…まさか三騎士の1人?」

食い逃げ「三騎士…‼︎まさか紅の…‼︎」

紅の剣士が剣を抜き、食い逃げの喉に剣を突きつける。

食い逃げ「ひぃ‼︎」

騎士「そこの男。」

紅の剣士に話しかけられる。

クロノ「はい?」

騎士「この男をどうするか、お前の判断に委ねよう。」

クロノ「なにそれ。生かすも殺すも俺次第ってこと?」

騎士「そうだ。お前がその召使いを助けた。ならこの男をどうするかのけんりもお前が持っている。」

クロノ「どういう道理なんだか…」

食い逃げ「頼む‼︎助けてくれ‼︎もうこんなことしないから‼︎」

食い逃げの男は必死の表情で命乞いをする。

クロノ「はぁ…おい、ちょっと。」

召使いの女に話しかける。

クロノ「あんた、おつかいの途中なんだろ?なら今のうちに終わらせてこい。そんでこの通りには戻ってこなくていい。その頃には終わってる。あんたは普通に仕事を終わらせてこい。ここは大丈夫だから。」

召使いの女を通りに出させる。

クロノ「そんじゃ紅の剣士さん。そいつ、ぶっ殺していいよ。」

食い逃げ「ひぃ‼︎」

騎士「殺すでいいのか?憲兵に突き出したりはしなくていいのだな?」

クロノ「憲兵に突き出したところでこいつが死刑になる可能性があるかは分からんし、何よりも俺の気がすまん。こういう何回やっても反省しない悪人は殺すべきってのが俺の持論だ。」

食い逃げ「頼むよ‼︎もうこんなことしないから‼︎」

騎士「と言っているが?」

クロノ「はぁ…」

腰の剣を抜き、男に向ける。

クロノ「ならあんたに問おう。どっかでこういう目に合うとか考えもしなかったのか?悪いことしたやつには当然の報いが来る。それはいつ来るか分からないものだが、誰かが、もしくは何かがもたらしてくる。悪事を働いた時点で、そんな死刑執行人的なやつに出会う運命が確定しているとは考えなかったのか?」

食い逃げ「そんな…‼︎」

クロノ「そこの騎士様がお前を殺さず、お前を守ろうとしても、あんたのその言葉が本心から来たもので本気で改心する気だったとしても、俺はお前を殺すつもりでいるぞ。俺がここでお前を見つけた時点でそのつもりでいた。あんたを生かしてこの路地から出す気は一切ない。言い残すことはあるか?」

食い逃げ「頼むよ…なんでもするから…たすけ」

クロノ「黙れ。」

男の顔に剣を突き刺す。

悲鳴一つ上げず、抵抗する瞬間も無く、体をだらけさせて崩れ落ちていく。

クロノ「こんなもんか。」

剣の血を払い、腰に戻す。

クロノ「で、騎士様。俺はこのまま逮捕されちゃうの?」

騎士「お前は大会の出場者だな…今回のことはなかったことにしよう。」

クロノ「俺が出場者だから?」

騎士「それもあるが、もっと単純な理由がある。私も殺すつもりだったからだ。」

クロノ「へぇ〜。そんじゃ、俺は帰りますよ。」

騎士「あまり派手な行動はしないことだ、カミヅキ・クロノ。」

主催者なだけあって俺の名前を知っている。

あの手紙の送り主と関係があるのだろう。

クロノ「知ってるとは思ってたよ。俺を招待したのは誰さ?」

騎士「さぁ。」

クロノ「ふん。」

通りに出ようとすると、たくさんの人が出口を囲んでいた。

(大会主催者さんがこんなところに堂々と来てるんだ。そりゃそうだわな。)

クロノ「あぁ〜、ちょ〜っと通してくださらない?はいごめんよ〜。」

人混みの隙間を縫って外側に出る。


クロノ「朝からふざけんなっての…」

今の時刻は正確には分からないが午前10時ほどだろう。

そんな時間にさっそく人1人殺すハメになるとは。

昨日見た花畑に行こうかと歩いていると後ろから服を引かれる。

振り返ると、先ほどの召使いが籠を腕にぶら下げて立っていた。

クロノ「さっきの。大丈夫だったか?」

召使いがうん、と頷くと何かを差し出してきた。

クロノ「マスカット?」

マスカットのような緑色の丸い果物のような食べ物を差し出される。

クロノ「くれるの?」

再び頷く。

クロノ「ありがとな。」

礼を言うと、召使いが微笑んだ。

クロノ「なぁ…あんたってさ、奴隷かなんかなの?服が随分とボロボロだけどさ。」

それを聞くと、召使いから笑顔が消え、少し暗い顔になりつつ頷いた。

(さっきから一向に喋ろうとしないのは奴隷は話しちゃいけないみたいな決まりがあるのか環境のせいで喋れない病気かなんかにかかったのか…奴隷だからそんなに金を持ってないってことだよな。それなのにお礼だっつってわざわざこれを買ってくれたのか…)

小さな一粒とはいえ、彼女にとってはポルシェでも買うような決断をしたのだろう。

クロノ「いや、奴隷だからどうだってわけじゃないんだけどさ。困ったことがあったら助けに行くぜ。それじゃ、ありがとな。」

召使いに別れを告げ、その場を去る。

貰ったマスカットのような果物を口に入れる。

見た目はマスカットだが、味は全く違った。

クロノ「ぶど…いや、ブルーベリーだな。」

(ブルーベリーは苦手なんだがな…)

少し涙が出てくるのは、ブルーベリーが苦手だからではない。

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