文太は転校生と出会った。つづき
長谷川詩子は辞書を背負っていた。
教室が変な空気に包まれた。
「他に質問あるやつは?」
と先生が聞いた。するとすかさず手を挙げる生徒がいた。
「その辞典の中身は何が書いてあるんですか」
「広辞苑の丸写しと、あとはオリジナルで追加しています」
オリジナルの辞書ってなんだよ・・・と文太は思った。ここからセキを切ったかのように長谷川さんへの質問責めが始まった。
「なんでいつも持ち歩いてるのですか?」
「国語辞典が好きだからです」
「特技はなんですか?」
「広辞苑の丸暗記です」
「彼氏はいますか?」
「いません」
「辞書の重さはどのくらいですか?」
「15キロぐらいです」
「亀仙流ですか?」
「違います」
少々盛り上がりすぎておかしな質問もでていたが、そこで先生により質問タイムが終わった。
「じゃ、長谷川さんの座る席だけど梶原のとなりで」
橋本の予想通り文太の隣の席になった。
「おっ漢字博士の隣じゃん。お似合いお似合い」
と茶化すやつがいた。ちょっとイラっときて誰が言ったのか見ると、橋本だった。さらに腹がったった。
長谷川さんはトコトコ歩いてきて席に着いて、背負っていた辞書をドンッと床に置き
「こんにちは」
と文太に挨拶をした。
「こんにちは梶原です」
と文太も挨拶をした。無愛想だとよく言われるので初対面ぐらいはとニコッと微笑んだ。
その後、先生が少し話しをして、HRも終わり下校となった。
長谷川さんはすぐさま女子に囲まれて帰っていった。
文太も橋本と一緒に帰ることにした。でもまず一発小突いた。
「いたっなにすんだよ」
「何すんだもあれだよ、漢字博士って茶化したろ。余計なこというなよ」
「なんだよ、長谷川さんと仲良くなれるきっかけをあげたんじゃないか」
橋本は理不尽だと訴えるように、むくれた顔をした。
「余計なお世話だよ」
「んだと、あんなに可愛い子と仲良くなるチャンスを余計な事だと!!明日長谷川さんにあやまれ」
「うるさい」
「ともかく梶原は隣なんだし、親切にしてあげるのがあたりまえだ。早く学校に馴染めるようサポートしてあげないと」
とかなんとか橋本は言っていた。
文太もそうは思うのだが、内心は穏やかではなかった。文太にとって長谷川さんの登場はよくある恋愛モノの物語の様な、トキメクものでなかった。気分を表現するならバトル漫画のようだった。ライバル出現なのだ。
相手は、広辞苑丸暗記だと・・・漢字の知識も当然あるだろう。オレより上なのか・・・
などなど、悶々と思い悩むのだ。
文太の漢字博士という立ち位置が、自信が揺らぐ。所詮漢検2級なのだ、勉強をまじめにすれば取れる。
広辞苑丸暗記なんてどんな労力なんだ。オレにできるのか・・・
文太は長谷川さんとの知識の差に、恐怖した。
「でも長谷川さんって変わっているよな。広辞苑暗記なんて普通やろうとしないだろ」
橋本はしゃべっていたが、文太は話も聞かず一人で思いなやんでいた。
「おいっ梶原聞いてるか?」
「うるせー、オレはもう帰る!!」
と言って文太は走りさっていった。




