第13話 雷神の試練──己が剣
すみません!次回から小説のクオリティ向上のために1日1話投稿になります!
頑張って続けますので見守っていただけると幸いです!
雷鳴が轟いた。
ジュリアンは拳を構えたまま、目の前に立つ雷そのものを睨みつける。
剣も鎧もない。
ここにいるのは、ただ一人の生身の人間。
アルヴァン公爵家の次男、ジュリアン・アルヴァンという男だけだ。
『──己自身が剣であると』
雷の塊が、低く唸る。
『ならば、示してみよ』
「……何をだ?」
『剣を持たぬ者が、如何にして戦うのか』
「そりゃ」
ジュリアンは拳を握り込んだ。
「殴るに決まってんだろ」
直後、近くに雷が落ちた。
「っ!?」
ジュリアンは咄嗟に横へ飛び退くと地面が爆ぜた。
土砂が吹き飛び、黒焦げになった大地から煙が立ち上る。
「っ……!」
着地したその瞬間、背後から雷光。
ジュリアンは振り返ることすらせず、身体を捻った。
轟音と共に雷が頬を掠める。
「速ぇ……!」
今度は正面に雷。
避けきれないと判断したジュリアンは防御体制を取る。
その直後に来る衝撃。
「ぐっ……!」
身体が数メートル吹き飛ばされ、地面を転がり肩から叩きつけられた。
「くっ……!」
ジュリアンはすぐに立ち上がる。
息を荒くしながら、雷を睨みつけた。
「なるほどな……」
相手は雷、剣で斬れるような相手ではない。
そもそも、武器を持っていない。
ならばどうする?
ジュリアンは周囲を見渡した。
巨大な石柱。
亀裂だらけの大地。
雷が落ち続ける荒野。
そして、生身の自分。
「……」
ジュリアンは、ふっと笑った。
「そういうことかよ」
雷神の試練。
これは、ただ敵を倒す試練ではない。
──己の力だけで、この場所を突破しろ。
ということなのだろう。
ジュリアンは走り出した。
雷の着弾地点を見極め、身体を滑り込ませる。
「──っ!」
また雷、今度は石柱の陰へ飛び込む。
轟音の後に石柱が震える。
ジュリアンは柱の裏から顔を出した。
「……雷ってのは」
また一つ、雷が落ちる。
「落ちる場所が分かれば、避けられる!」
ジュリアンは走った。
1つ1つ雷を避けながら、巨大な石柱を渡っていく。
──バチッ。
「……?」
足元の黒い地面に、青白い光が走った。
ジュリアンの顔から笑みが消える。
「まさか──」
次の瞬間、大地そのものが光った。
眼前が白くなる。
「ぐあああああああっ!!」
雷が地面を伝って走り、ジュリアンの身体を電撃が駆け抜けた。
筋肉が痙攣して、膝が崩れそうになる。
「っ……ぐ……!」
歯を食いしばる。
倒れるな。
立て。
騎士なら。
いや騎士でなくても。
ここで倒れるわけにはいかない。
ジュリアンは震える脚に力を込めた。
「……っ、はぁ……!」
どうにか立ち上がる。
すると雷の塊が、再び声を発した。
『汝は剣も鎧もない』
「そうだな」
『仲間もいない』
その言葉にジュリアンの眉が動いた。
雷神は続ける。
『──問おう』
空が轟く。
『それでも、汝は誰かを守れるか』
ジュリアンはしばらく黙っていた。
やがてゆっくりと顔を上げる。
「……当たり前だろ」
拳を握る。
「剣がなきゃ守れない?」
1歩前へ出る。
「鎧がなきゃ守れない?」
さらに一歩。
「仲間がいなきゃ守れない?」
ジュリアンは雷神を見据えた。
「ふざけんな」
雷光が、瞳に映る。
「俺は剣の公爵家、ジュリアン・アルヴァンだ」
雷鳴。
「剣がなくても、防具がなくても。誰もいなくても、守る。それが俺だ!」
──轟ッ!!
ジュリアンの周囲へ雷が落ちた。
今度は避けなかった。
「──っ!?」
ジュリアンは腕を掲げる。
雷が身体へ触れる。
激痛。焼けるような熱。
筋肉が引き攣り、逃げたくなる。
「ぐ……!」
倒れない。
逃げもしない。
怯まない。
魔力を集中させ雷をコントロールする。
「おおおおっ!!」
ジュリアンは叫んだ。
雷を受け、魔力で制御する。
魔力回路が焼き切れそうなほどの膨大な力をその身に受け、それでも歩みを止めない。
「俺は……俺自身が──!」
拳を握る。
「誰かを守るための──!」
拳を振り上げる。
「──剣だぁっ!!」
拳が、雷神の雷を纏った一撃が、雷の塊へ叩き込まれた。
その瞬間、世界が白く弾けた。
「───ッ!!」
音が消え、視界が消え、何もかもが消える。
ただジュリアンの拳だけが、雷の中へ突き刺さっていた。
──パァンッ!
音ともに雷が砕けた。
「……え?」
ジュリアンが目を見開く。
砕けた雷の欠片が、空中へ舞い上がるが、それは消えなかった。
ジュリアンの腕へ、肩へ、胸へ、身体中へ、光となって吸い込まれていく。
「……なんだ、これ……」
胸の奥が熱い。いや、熱いのではない。
──痺れている。
全身の血管を雷が駆け巡っているような感覚。
それでも先程の一撃を受けた時と違って、不思議と苦しくはなかった。
雷はジュリアンを傷つけることなく彼の魔力回路へ入り込みその中で静かに脈動している。
「……俺の中に……?」
すると頭上から声が降ってきた。
『痛みを力に変え、逃げも隠れもせずに牙を剥いたその憤怒──合格だ』
ジュリアンが顔を上げる。
先ほどまで荒れ狂っていた雷雲がゆっくりと晴れていく。
『汝は剣を持たずとも戦った』
少しずつ雷神の姿が解けていく。
『己を武器とし、己を盾とした』
巨大な雷の塊が今度は人の姿にも似た輪郭を取る。
『汝の力は、誰かを倒すためだけのものではない。己が傷つこうとも、誰かの前に立つ。
それこそが──』
一際大きな雷鳴。
『雷の力を扱う者に相応しい』
ジュリアンの身体を、白い雷光が包み込んだ。
「……」
ジュリアンは自分の右手を見つめた。
指先で小さな雷が弾ける。
「……すげぇ」
思わずそんな言葉が漏れた。
その直後ジュリアンは眉を顰め周囲を見渡す。
「殿下は大丈夫なのか?」
雷神の試練に来る前。
確かにヴィクトルも別の扉へ入っていった。
それからどれほどの時間が経ったのか分からない。
「……あいつ、無茶してなきゃいいけどな」
その瞬間、雷神が静かに告げた。
『案ずる必要はない』
「……?」
『汝の友もまた、己が試練と向き合っている』
ジュリアンはほんの少しだけ安心したように笑った。
「……そうか」
なら自分も負けてはいられない。
ジュリアンは拳を握る。
──バチッ。
青白い雷が指の間を走った。
そして不敵に笑う。
「帰ったら、どっちが先に合格したか自慢しないとな」
雷神は何も答えなかった。
ただ、その雷光がどこか愉快そうに瞬いた。
雷神の試練。
ジュリアン・アルヴァン。
合格。




