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この捻れた世界にて、〜悪役令嬢は愛する者のために戦う〜  作者: 3色あんこ
第4部 常世に最も近い国

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第12話 剣の守り手、雷神の試練へ



水神の試練の扉

青く輝いていた扉の前に、ヴィクトルが立つ。

その隣に、並ぶようにしてジュリアンが雷神の扉の前に立っていた。


「……行くぞ、ジュリアン」

「ああ」


二人は同時に、手をかざした。

その瞬間。

──青い光が、弾けた。


「……!」


次の瞬間、ヴィクトルの姿が光の向こうへ消える。

そして、ほぼ同時に。

雷の文字が刻まれた扉からも、青白い雷光が迸った。


「──っ!」


ジュリアンの身体が、その光に包まれる。

二つの扉が、静かに閉じた。

その場に残された者たちは、しばし言葉を失っていた。

イリシアは閉ざされた二つの扉を、交互に見つめている。


「殿下……ジュリアン様……」


その声には、隠しきれない心配が滲んでいた。


ヴィクトルは第一王子、ルヴァン王国の次代を担う王族だ。

ジュリアンはアルヴァン公爵家の次男、剣の公爵家を継ぐべき男だ。


それでもイリシアにとってはそれ以前に、幼い頃から共に過ごしてきた、大切な人たちだった。


「大丈夫ですわ」


自分に言い聞かせるように、イリシアは呟いた。


「お二人なら、きっと……」


──その時だった。

ふっ、と九重の笑みが消えた。


「…………」

「九重様?」


咲羅が不思議そうに顔を覗き込む。

九重は答えない。

ただ、祭壇を見つめていた。

その視線の先、先ほどまで青く輝いていた──水の扉。

その隣の、火の文字が刻まれた扉が。


「……え?」


咲羅が目を瞬かせた。

赤い。

ほんの僅かな光。

しかし、それは確かに火神の扉から漏れ出していた。


「九重様……?」


咲羅の声が僅かに震える。

九重はしばらく黙っていた。


「……おかしいのぉ?」


その一言だけが、低く落ちた。


「え……?」

「九重様?」


イリシアも振り返る。

九重は祭壇を見据えたまま、ゆっくりと目を細めた。


「神の試練が……」


一拍。


「三つ、同時に動いておる」

「──!」


イリシアの瞳が見開かれた。

水神の扉。

雷神の扉。

そして、赤く明滅する火神の扉。

「いや、二つは正常じゃな、もうひとつが反応しておる」

「反応……?」

「あり得るんですか?」


咲羅が尋ねるが、九重はすぐには答えなかった。

千年を生きる九尾の瞳が、珍しく真剣な色を帯びている。


「本来、神の試練とは1回につき一人一柱。その者の魂に最も近しい神が呼びかけ、試練を与えるものじゃ」

「なら……」


イリシアの胸がざわめいた。

九重がゆっくりと呟く。


「あの王子と公爵の息子……ただ水神と雷神に呼ばれたわけではないようじゃな」

「……ヴィル、ジュリアン様」


イリシアの唇から、その名が零れた。

九重が、ふっと振り返った。


「──さて」


扇をぱちんと閉じる。


「王族の第一王子が水神へ挑み、公爵家の次男が雷神へ挑む。しかも同時に、実に良い心がけじゃ」


その視線が、閉じた二つの扉を見つめる。


「じゃが……」


赤く輝き続ける火神の扉へ、目を細めた。


「どちらに反応しておるかは不明じゃが、何かが始まっておる」

「…………」


九重の脳裏に、一つの疑念が浮かぶ。

水神。

雷神。

そして──炎神。


これは偶然ではなく何かが始まっている。

そんな予感がした。

イリシアは、閉ざされた扉を見つめたまま、小さく祈るように呟く。


「……どうか、どうか、ご無事で……」



◇


──同時刻。


ジュリアン・アルヴァンは。

雷光の中へ落ちていた。


「うおおおおっ!?」


身体が落下する。

どこまでも。

どこまでも。


「──っ、なんだこれ!?」


咄嗟に剣へ手を伸ばすが、腰にあるはずの剣がない。


「……は?」


ジュリアンの目が見開かれる。

次の瞬間、凄まじい轟音と共に地面へ叩きつけられた。


「ぐっ……!」


痛みに顔を歪めながら、ジュリアンは身体を起こす。


「……最悪だ」


そこは黒い雲に覆われた、巨大な荒野だった。

空には無数の雷が走っている。

大地には巨大な亀裂。

その向こうには、幾つもの巨大な石柱が立ち並んでいる。


そしてその中心、一際巨大な石柱の上に──何かがいた。


人でも、獣でもない。

巨大な雷そのものがそこに存在している。


バチッ。

バチバチッ。


青白い雷光が弾ける。

ジュリアンは立ち上がった。

武器がない、防具もない、味方もいない。

それでもジュリアンは拳を握った。


「……なるほどな」


目の前の存在を睨む。


「俺の試練ってわけか」


雷光が一際強く弾け、声が響いた。


『──汝』


大地が震える。


『剣を持たずして、何をもって戦う』


ジュリアンの目が細くなる。

ゆっくりと拳を構えた。


「……決まってる」


雷鳴が轟く。

ジュリアンは笑った。


「俺自身だ」


──雷神の試練が始まった。

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