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この捻れた世界にて、〜悪役令嬢は愛する者のために戦う〜  作者: 3色あんこ
第1部 歪んだ世界

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第7話 第一王子の側近



王城の奥深く、第一王子ヴィクトルの執務室。


普段なら国政に関する報告書や外交文書が山積みになる重厚な執務机の上に、今日は奇妙なものが並べられていた。


五つの手鏡。

どれも掌にすっぽりと収まるほどの小型コンパクト型で、縁には精緻な銀色の装飾が施されている。

表面は磨き上げられた鏡面が淡く輝き、まるでただの装飾品のようにも見えた。


「……これは?」


ヴィクトルが首を傾げ、興味深げに一つを手にとって眺めた。

執務机を囲むように座っているのは3人。

第一王子ヴィクトル

イリシア

ソフィア

そして一つ空席が残されていた。


「特別ゲストですわ」


イリシアは優雅に微笑んだ。


「そしてもう一人、間もなく到着いたしますわね」


その言葉から数分後、執務室の重い扉が控えめに叩かれた。


「失礼します」


入室してきたのは、ジュリアン・アルヴァン。


第一王子直属の側近であり、剣の公爵家アルヴァン家の次男。

鍛え抜かれた長身に、短く整えられた黒髪、鋭い水色の瞳。

常に王子を守る騎士としての気品と、戦場で培われた実直さが同居した青年だった。


「殿下、お呼びと聞いて参りましたが……」


言いながら部屋の中を見渡したジュリアンは、瞬時に空気を察した。

イリシア

ソフィア

そしてヴィクトルという組み合わせ。

ただそれだけで、これは通常の茶会や雑談ではないと判断したらしい。


「座ってくださいな、ジュリアン様」


イリシアが穏やかに促す。


「重要なお話がありますの」


ジュリアンは無言で頷き、空席に腰を下ろした。

背筋を伸ばし、常に緊張を保つ騎士らしい姿勢だった。

そして、イリシアとヴィクトルから説明が始まった。


教会の異常。

偽りの聖女クラリッサ。

地下深くに囚われた本物の聖女ミレイユ。

保守派の不審な動きと、消えゆく孤児たち。

血を抜かれ続ける残酷な現実。

そして、これから実行される救出計画の概要。


話が進むにつれ、ジュリアンの表情は次第に険しくなっていった。

拳を膝の上で固く握りしめ、水色の瞳に怒りと決意が宿る。

やがて全てを聞き終えた時、彼は低く抑えた声で呟いた。


「……そんなことが、教会の中で起きているというのか」

「まだ確定したわけではありませんわ」


イリシアが静かに言った。


「ですが、可能性は極めて高いと判断しています」


重い沈黙が部屋を包んだ。

やがてジュリアンは勢いよく立ち上がり、椅子をわずかに軋ませた。


「俺も参加させてくれ」


その場にいた全員が彼に視線を向けた。


「もしそれが事実なら、見過ごせるはずがない。

その子や子供たちが囚われ、苦しめられているなら助けるべきだ。

そして……フィリップ殿下も、何者かに利用されている可能性があるなら尚更だ」


真っ直ぐで、迷いのない瞳だった。

剣の公爵家らしい、潔く正義感の強い反応だった。

ソフィアが穏やかに微笑んだ。


「もちろんです。歓迎いたします」


イリシアも静かに頷いた。


「最初から、そのつもりでしたわ」

「……そうか」


ジュリアンがようやく息を吐き、肩の力を抜いた。

その瞬間──

机の上から、突然声が響いた。


『やはりイリシアはこの人員を選ぶんだね』


全員が凍りついた。

ヴィクトルが目を見開き、ジュリアンは反射的に腰の剣に手をかけた。

ソフィアは鋭い視線で机を凝視する。

声の発生源は──5つの手鏡だった。

ただ一人、イリシアだけが穏やかに微笑んでいる。


「お待たせいたしましたわね」


そう言うと、彼女は優雅に指先を一番近い手鏡に触れさせた。

魔力が流れ込む。

次の瞬間、淡い銀青色の光が五つの鏡すべてから溢れ出し、執務室の中央に立体映像が投影された。


「なっ……!?」


ヴィクトルが思わず立ち上がった。

そこに映し出されていたのは──


アラン・ヴァルモンド

ルーク

エレナ

ミーナ

そして革新派枢機卿ラファエル・ドミニクの姿。


それぞれが別々の場所にいるはずなのに、まるで同じ部屋に集まっているかのように自然に映し出されている。


「これは……通信魔道具……?」


ヴィクトルが驚愕を隠せずに呟いた。


「ですが、こんな小型で、人物の立体投影まで……」


ソフィアも眼鏡の奥の瞳を細め、珍しく驚きを露わにした。


「まさかイリシア様の開発品ですか?」

「正解ですわ」


イリシアは少しだけ誇らしげに、しかし控えめに笑った。


「もっとも、まだ試作品です。通信距離に課題がありまして、そのためアランお兄様たちには王城近辺まで移動していただいておりますの」


映像の向こうでアランが肩を竦めて見せた。


『妹の頼みだからね』


ルークは欠伸をしながら手を振る。

エレナは資料を読み続け

ミーナは元気いっぱいに手を振っていた。

ラファエルは苦笑を浮かべながら軽く頭を下げた。


『普通なら枢機卿を通信機越しに会議へ呼び出したりはしませんがね……』

「ご協力、感謝いたしますわ」


イリシアは静かに立ち上がった。

銀髪が執務室の光を受けて美しく揺れ、青い瞳が一人ひとりを順に見渡す。

その姿は、まるで舞台の中央に立つ指揮者のようだった。


「皆様」


部屋の空気が、一瞬で引き締まった。


「お時間をいただき、ありがとうございます」


静かだが、確かな威厳を帯びた声。


「これより、わたくしが数か月に渡り準備して参りました、ミレイユ・アンサリオ救出作戦──

そして救出後を見据えた今後の行動計画について、

ご説明させていただきますわ」


イリシアの微笑みは穏やかだったが、その瞳の奥には、燃えるような決意が宿っていた。

運命を変えるための、本格的な作戦会議が、今、始まろうとしていた。

本作品はカクヨム、アルファポリスにて同時投稿をしております。

気が向いたらいいね、ブクマ、よろしくお願いいたします。

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