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この捻れた世界にて、〜悪役令嬢は愛する者のために戦う〜  作者: 3色あんこ
第3部 泡沫の鎮魂歌

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第29話 零の光



5級魔族の右腕が地へ落ちる。

黒い血が飛び散った。

その直後、イリシアは首を押さえながら咳き込み、大きく息を吸う。


「……ごほっ……っ」

「イリシア!」


ヴィクトルが駆け寄ろうとする。

しかし彼女は片手を上げ、それを制した。


「まだ……来ないでくださいませ」


ゆっくりと立ち上がる。

首には赤黒い指の痕が残っている。

それでもその碧眼は、5級魔族だけを見据えていた。

魔族は腕の断面を押さえながら忌々しげに睨む。


「女……今ので終わりだと思うなよ」


イリシアは静かに息を整えた。

そして小さく微笑む。


「ええ……ですので先程、貴方に触れられている間に終わらせておきましたわ」

「……何?」


魔族の眉が動く。

イリシアは胸元へ手を添えた。


「首を掴まれている間、体内構造を解析させていただきましたのよ」


静寂。


「憑依型魔族因子。その位置も、循環経路も、精神核との接続も、全て把握済みですわ」


5級魔族の顔色が変わる。


「……馬鹿な、人間が一瞬で解析など──」

「わたくしなら、できますわ」


イリシアは当然のように言った。


「ですが術式の再構築には時間が必要です」


ゆっくりと皆を見る。


「30秒……30秒だけ、わたくしへ時間をくださいませ」


その言葉だけで全員が理解した。

ジュリアンが剣を構える。


「30秒か」


ルークが獅子の頭を撫でる。


「長ぇようで短ぇな」


ミーナが狐を抱き上げて言う。


「5分の時よりずっと楽です!」


オーリンが槍を肩へ担ぐ。


「十分だ」


サイラスが笑う。


「30秒守ればいいんだな」


ヴィクトルは剣を静かに構え直した。


「誰一人、イリシアへ近付けさせない」


魔族が叫ぶ。


「殺せ!」


残る7級魔族が一斉に飛び出した。

戦いが再開する。


──5秒。


ジュリアンが一体を吹き飛ばす。


──10秒。


オーリンの水槍が敵を貫く。


───15秒。


サイラスの音波が七級魔族の動きを止める。


──20秒。


ルークの獅子が喉元へ喰らい付く。


──25秒。


ミーナの短剣が急所だけを正確に突く。

そして。


30秒。


イリシアが静かに目を開く。


「完成しました。」


右手を前方に伸ばし、人差し指と中指を揃えて突き出す。

左手を後ろに引き、弓を引き絞る仕草をする。

右手の人差し指と中指に、蒼白い光が集まり始める。

空気が震え、大地が軋む。

魔族は本能で悟った。


(危険だ、これは─。)

「ゼロ・レイ」


その瞬間、世界が白く染まった。

一本の蒼き光線が一直線に魔族を貫く。


轟音。


闇夜を照らさんばかりの光は魔族の身体を傷付けることなく、その内側だけを焼き尽くした。


「な……ぜ……」


全ての魔族の身体から黒い靄が噴き出す。

断末魔。

悲鳴。

叫び。

黒い因子は光へ触れた瞬間、次々と崩壊していく。


「ば……かな……我らは……不滅──」


最後まで言えなかった。

黒い魔族因子は完全に消滅する。

その場へ崩れ落ちたのはただ一人の人間だった。

苦しみから解放されたような穏やかな表情のまま。

静かに眠るように。

ヴィクトルが息を吐く。


「……終わった」


イリシアもほっとしたように肩の力を抜く。

しかしその身体がふらりと揺れた。


「お嬢様!」


ミーナが駆け出す。

ヴィクトルも腕を伸ばす。

だがイリシアは小さく笑って首を振った。


「まだ……まだ、終わっておりませんわ」


ふらつきながらも自らの足で歩き始める。

向かった先は氷の結界。


「解除」


ぱきっ。

透明な氷壁が静かに消えていく。

その瞬間だった。


「……!」


ミレイユが駆け出した。

一直線にイリシアの胸へ飛び込み、ぎゅっと抱き締める。

イリシアも優しく抱き返した。


「大丈夫ですわ」


ミレイユは涙を零しながら必死に口を動かす。


「……!…………!」


声にならない。

何度も何度も必死に伝えようとしていた。

ルークが横で静かに目を細める。


「読むぞ」


全員が彼を見る。

ルークはミレイユを見つめながら静かに言葉を紡いだ。


「──『核を破壊できた』」


ミレイユが何度も頷く。


「──『人魚達が魔力を分けてくれたから』」


涙が零れる。


「──『初めて、一人でやり切れた』」


その一言を聞いた瞬間、その場にいた誰もが笑みを浮かべた。

イリシアは優しくミレイユの頭を撫でる。


「ええ、あなたが成し遂げたのですわ。もう誰が何と言おうと、あなたは立派な──」


イリシアは微笑みながら、誇らしげに告げた。


「聖女ですわ」

気づいた方もいらっしゃったかもしれませんが、イリシアはちゃんと解析したぞって合図出てたんですよ、そしてそれに気づいたルークとミーナが影に潜ませてたイリシアの使い魔を使ってイリシアの拘束を解いたという感じ。

めっちゃ連携取れてるかっこいい3人組にしたかったんです。



読んで頂きありがとうございます!

次回の投稿は20時頃を予定しております!


本作品はカクヨム、アルファポリスにて同時投稿をしております。

気が向いたらいいね、ブクマ、よろしくお願いいたします。

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