↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この捻れた世界にて、〜悪役令嬢は愛する者のために戦う〜  作者: 3色あんこ
第3部 泡沫の鎮魂歌

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/104

第28話 反撃の狼煙



「……面倒だ」


5級魔族は小さく舌打ちした。

目の前にはヴィクトルとジュリアン。

二人の連携は予想以上だった。

一撃一撃は届かなくとも、その剣筋は確実に自分を追い詰め始めている。

このまま長引けば、不利になる。


(ならば──)


魔族の姿が陽炎のように揺らいだ。


「消えた!」


ルークが叫ぶ。

その声が響いた瞬間、魔族はすでにイリシアの背後へ回り込んでいた。


「お嬢様!」


真っ先に飛び出したのはミーナだった。

ほとんど反射だった。

主を守る、その一心だけで地を蹴る。

ルークも同時に駆け出す。


しかし──


「邪魔だ」


5級魔族が無造作に片手を払う。


轟ッ!!


凄まじい衝撃波が二人を襲った。


「ぐっ……!」

「きゃあっ!」


身体がまるで紙切れのように吹き飛ばされ、何度も地面を転がる。

砂煙が舞う。

その一瞬の隙、魔族は見逃さなかった。


「捕まえた」


黒い腕が一直線に伸びる。

イリシアは反射的に魔法陣を展開した。

幾重にも重なる防御障壁。


しかし。


パキン。


一枚。


パキン。


また一枚。

硝子が砕け散るような音が連続する。


「っ……!」


最後の障壁が砕け散った。

そのまま、魔族の手がイリシアの細い首を掴む。


ぐっ──。


片腕だけで、軽々と身体が宙へ持ち上げられた。


「かはっ……!」


息が詰まる。

足が虚しく空を掻く。

苦しげに眉を寄せても、その拘束はびくともしない。


「イリシア!!」


ヴィクトルが叫び、剣を握ったまま駆け出そうとする。

だが、その前へ7級魔族が3体、壁のように立ちはだかった。


「通すな」


オーリンも槍を構え、一歩前へ出る。


「どけぇぇぇ!!」


怒涛の水流が轟音とともに放たれた。

だが7級魔族は身体を捻り、水流を受け流す。


「邪魔をするなァ!」


サイラスも槍を振るう。

槍と槍が激突し、水しぶきが弾け飛ぶ。

誰も、誰一人として前へ進めない。

その光景を見下ろしながら。

5級魔族はゆっくりと口角を吊り上げた。

白と黒が反転した異形の瞳が、ヴィクトルだけを映す。


「近付いてみろ」


イリシアの首を掴む手に、さらに力が込められる。


ミシッ──。


「ぁ……っ……」


喉から苦しげな声が漏れた。


「この女の首など、少し力を込めれば簡単に折れるぞ?」


ギリッ。


ヴィクトルは奥歯を強く噛み締めた。

黄金の瞳に怒りが燃える。

それでも動けない。

一歩踏み出せばイリシアが死ぬ。


「そうだ」


魔族は愉快そうに笑う。


「その顔だ、守りたい者がいる人間の顔は実に愉快だ」


さらに首を締め上げようとした──

その瞬間だった。

イリシアがふっと微笑んだ。


「……何?」


魔族の眉がわずかに動く。

呼吸もままならないはずの少女。

けれど、その碧い瞳だけは、すべてを見通していたかのように穏やかだった。

そして、静かにたった一言だけを告げる。


「──解」


魔族が眉をひそめる。


「……あ?」


その直後、背後から轟音が響いた。


「ギシャァァァァァァッ!!」


岩を砕きながら飛び掛かってきたのは巨大蜘蛛──アルガスティ。さらに


「ヒヒィィィィィン!!」


ホマムが高らかに嘶き、前脚を大きく振り上げる。

5級魔族は咄嗟に後方へ跳躍した。

イリシアの首を掴んだまま使い魔達を吹き飛ばす。


「使い魔か」


鼻で笑おうとした、その時だった。

魔族の視界がぐにゃりと歪む。


「……っ!?」


視界が揺れる、焦点が合わない。

いつの間にかミーナの影から、小さな白銀の狐、アンサーが姿を現していた。

愛らしい姿とは裏腹に、赤い瞳には燃えるような怒りが宿っている。

アンサーは静かに尾を揺らした。


幻惑魔法。


魔族の意識を一瞬だけ奪う。

その刹那、低い声が響いた。


「そこだ」


魔族の真下。

ルークの影が大きく波打つ。

影は裂け漆黒の巨体が姿を現した。

巨大な黒獅子、黄金の瞳を持つ、獣王レグルス。


「ガアァァァァァァッ!!」


咆哮とともに一直線に跳躍する。

魔族が気付いた時には、もう遅かった。

鋭い牙が右腕へ深々と食い込む。


「がっ──!」


ぶちっ。

肉が裂け、骨が砕ける。

次の瞬間には右腕そのものが噛み千切られ、鈍い音を立てて地面へ転がった。

黒い血が激しく飛び散る。


「貴様ァァァァァ!!」


級魔族の絶叫が街へ響き渡った。



それと同時に、氷の結界の内側では。


ミレイユが黒い核を抱くように、両手を重ねていた。

輝きはもう弱々しい。

魔力も限界に近い。

それでも少女は祈ることをやめなかった。

人魚たちがそっと背中へ手を添える。


「お願いします」

「聖女様……」

「どうか」

「終わらせてください」


優しい魔力が重なっていく。

金色。

深い青。

柔らかな緑。

真珠のような淡い光。

幾つもの願いが一つになり。

ミレイユを優しく包み込む。

少女は静かに目を閉じた。


(みんなを、助けたい…それだけ)


次の瞬間。

天を貫くほどの黄金の光柱が立ち昇った。


──浄化


その声は歌えなくなった少女の祈り。

その歌は誰かの役に立ちたいと願った少女の思い。

世界は、その願いに応えた。


パキッ。


黒い宝石へ一本の亀裂が走る。


パキパキパキッ──!!


無数の亀裂が一気に全体へ広がった。

5級魔族が振り返る。


「まさか……!」


パリンッ──!


その声と同時に黒い核は、眩い光の中で粉々に砕け散った。

眩い光が街全体を包み込む。

禍々しい瘴気は音もなく霧散し。

眠り続けていた住人たちの身体から、黒い靄が静かに抜け落ちていく。


催眠は完全に解除された。

5級魔族の顔から初めて余裕が消える。


「……馬鹿な」


ヴィクトルは静かに剣を構え直した。

その黄金の瞳には、揺るぎない勝利への確信が宿っている。

そして、小さく笑う。


「──形勢逆転だ 」


その一言を合図にジュリアンが剣を構える。

ルークが立ち上がる。

ミーナが魔力を練り上げる。

オーリンとサイラスが槍を握り直す。

誰一人、もう恐れてはいなかった。


そしてイリシアもまた、首元をそっと押さえながら静かに立ち上がる。

乱れた銀髪を風が揺らした。

その碧い瞳にはもう恐怖はない。

ただ、揺るぎない決意だけが宿っていた。

イリシアは仲間たちを見渡し、静かに微笑む。


「皆様」


その声は穏やかでありながら、誰よりも力強かった。


「──反撃開始です」


その宣言は、絶望を打ち砕く狼煙となって戦場へ響き渡った。

遂に反撃開始!


読んで頂きありがとうございます!

次回の投稿は明日の7時頃を予定しております!


本作品はカクヨム、アルファポリスにて同時投稿をしております。

気が向いたらいいね、ブクマ、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。