第27話 開戦
夜明け前。
雨上がりの海辺に、剣戟が響いた。
「行け」
5級魔族が指を鳴らす。
その合図だけで、控えていた5体の憑依型7級魔族が一斉に駆け出した。
「人魚もあの結界内の女も、全て殺せ」
その瞬間。
「ジュリアン!」
ヴィクトルが叫ぶ。
「承知!」
二人は同時に地面を蹴った。
一直線に5級魔族へ。
「ほう」
魔族が笑う。
「自ら来るか」
黄金の剣士と騎士。
二本の刃が同時に振り下ろされる。
甲高い金属音。
5級魔族は一本の黒い短剣だけで二人の攻撃を受け止めた。
「いい連携だ、だが──」
瞬間、7級魔族たちが散開する。
「来ます!」
イリシアの声が飛ぶ。
「オーリン様!サイラス様!左を!」
「任せろ!」
オーリンが巨大な槍を振るう。
轟音。
海水が槍へ絡み付き、そのまま巨大な水槍となって七級魔族へ襲い掛かった。
同時にサイラスも槍を構える。
「水牙」
幾本もの水の槍が空中へ現れ、一斉に敵を貫く。
しかし7級魔族は笑った。
「遅い」
身体を捻る。
人間離れした動きで全てを避ける。
「っ!」
オーリンの目が細くなる。
「やはり普通の人間ではないか」
その頃、イリシアの前へ2体の7級魔族が迫る。
「術者を狙え!」
だが。
「させねぇ」
ルークが剣を抜く。
銀閃。
双剣が敵の喉元へ突き付けられる。
もう一体へは。
「そこ!」
ミーナの投げナイフ。
正確無比。
魔族は慌てて避ける。
「お嬢様には指一本触れさせません!」
ルークが笑う。
「護衛ってのはこういうもんだ」
二人は自然にイリシアを背に立った。
イリシアは静かに頷く。
「ありがとうございます」
その手は止まらない。
次々と魔法陣を展開。
「氷、風、炎……顕現せよ」
三属性の魔法が雨のように降り注ぐ。
しかし7級魔族は不気味に笑った。
「撃て」
7級魔族の近くにいた同じ7級悪魔を引っ張り、盾にした。
「っ!」
イリシアの魔法が止まる。
ルークも剣を止める。
「……くそ」
5級魔族が腹を抱えて笑った。
「そうだ、それでいい。人間というものは愚かだ。同じ姿をしているだけで、斬れない、壊せない、躊躇する」
口角が裂けるほど笑う。
「その一瞬こそ、我らが命を刈り取る最高の瞬間。」
7級魔族が同じ仲間を盾に距離を詰める。
ルークが舌打ちする。
「この野郎……!」
ミーナも歯を食いしばる。
「仲間を盾にするなんて……!」
五級魔族は心底愉快そうだった。
「虫けら同士で庇い合う、だから人間は弱い」
その瞬間だった。
「黙れ」
低い声、ジュリアンだった。
静かだったが、誰よりも怒っていた。
「……命を、何だと思っている」
一歩。
「貴様らには」
更に一歩。
剣を構える。
「人間の命を語る資格などないっ!」
轟ッ──!!
凄まじい踏み込み。
5級魔族の目が僅かに開く。
「速──」
言い終わる前。
ジュリアンの剣が黒い短剣を大きく弾き飛ばした。
「殿下!」
「任せろ!」
王家の剣が黄金の軌跡を描く。
防御が崩れた一瞬。
ヴィクトルの一撃が五級魔族の肩口を深く斬り裂いた。
鮮血が舞う。
「ぐっ……!」
5級魔族が初めて苦悶の声を漏らす。
ヴィクトルは剣を構え直した。
「お前は人の心を弱さだと言った」
その瞳には怒りと決意が宿る。
「人間は弱いとも言ったな?だが違う。誰かを守ろうとする心こそ、人の強さだ」
ジュリアンも並び立つ。
「人を盾にするしか能のない貴様らに、俺たちは負けない」
二人の剣先が、再び5級魔族へ向けられる。
一方その頃。
氷壁の内側では、ミレイユが両手で包むように核へ祈りを捧げ続けていた。
彼女の周囲を、人魚たちの魔力が淡い光となって流れ込んでいく。
アルガスティは8本の脚を広げ、蜘蛛糸を氷の結界へ幾重にも張り巡らせる。
馬形の使い魔も前脚で地面を叩き、侵入者を寄せ付けまいと鋭く嘶いた。
そしてその中心で、聖女は静かに祈る。
(どうか……みんなを……助けてください……っ!)
その祈りに応えるように、核を包む光が一層強く輝き始めていた。
──戦いは、まだ始まったばかりだった。
うわぁ!魔族ってば悪い奴ぅ!
アルちゃんとホマムってば健気可愛い!
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