↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この捻れた世界にて、〜悪役令嬢は愛する者のために戦う〜  作者: 3色あんこ
第3部 泡沫の鎮魂歌

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/102

第22話 王家に継がれし統制

少し長くなっちゃいました…



中央広場。

雨上がりの石畳には、眠る住民たちが幾重にも倒れていた。


その中央、少女と人魚が手を取り合う街の象徴。

少女像の右目には、不気味な赤黒色の宝石が埋め込まれている。

そこからは今もなお、細い瘴気が霧のように街中へ伸び続けていた。


ヴィクトルは静かに右手をかざす。


「清き光よ、偽りの鎖を断ち切れ《レガリア・ディスペル》」


金色の魔法陣が展開される。

光が少女像を包み込む。


しかし。


ギィィィィ……


宝石が脈打った。

次の瞬間。


「──侵入者、排除」


少女像の瞳が赤く染まる。

同時に。


ドサッ……

ドサッ……


眠っていた住民たちが一斉に立ち上がった。

その瞳には意思がない。

まるで操り人形だった。


「また来やがった!」


ルークが剣を抜く。


「殺すな!」


ヴィクトルも叫ぶ。


「無力化だけだ!」


住民たちは我先にと飛び掛かる。

老人

若者

女性

子供までも

全員が二人だけを狙っていた。


「ちっ……!」


ルークは柄で腹を打ち、足払いで転ばせ、峰打ちだけで次々と倒していく。

ヴィクトルもまた王家に伝わる剣術で急所を外し、最小限の力で住民たちを眠らせていった。

だが数が多い。


「王子!一度離れるぞ!」

「分かった!」


二人は一気に屋根へ跳び上がった。

そのまま数棟先まで後退する。

すると——


「……」

「……?」


住民たちが追ってこない。

その場で立ち止まる。

そして糸が切れた操り人形のように。


ばたっ。

ばたっ。


再びその場へ倒れ込み、深い眠りへ落ちていった。

静寂。

ルークが眉をひそめる。


「……追ってこねぇな」


ヴィクトルも少女像を見つめる。


「どうやら、あの像を守るためだけの防衛機構らしい。一定距離を離れると、住民はまた眠る」


ルークは舌打ちする。


「面倒な仕掛けだ」


ヴィクトルは顎へ手を当てた。

少女像

住民

黒の糸

結界

その全てが頭の中で一本の線になっていく。


(待てよ……今この街全体は、イリシアの眠りの大結界の中)


その瞬間、彼の脳裏へ、一つの魔法が浮かんだ。


「……そうか」


ルークが振り向く。


「思いついたか?」


ヴィクトルはゆっくり頷く。


「僕ならイリシアの結界を、一時的に制御できる」

「は?」

「王家固有魔法《統制ドミニオン》。」


ルークが目を丸くする。


「そんな魔法があんのか」


ヴィクトルは静かに笑う。


「王族が国家規模の魔導装置を扱うための魔法さ。

他者が展開している魔法を、術者の許可を得た上で、一時的に自分の制御下へ置く。ただしら勝手には使えば術者の抵抗で魔力消費が大幅に上がり、最悪の場合弾かれる……術者本人の了承が必要なんだ」


そう言うと、肩に止まっていた黒い小鳥へ視線を向ける。


「頼む」


小鳥が小さく鳴いた。

その瞳が青色に輝く。




一方その頃——。


海辺。

眠りの大結界を維持し続けるイリシアは、巨大な魔法陣の中心に立ったまま静かに目を閉じていた。

額には薄く汗が滲んでいる。

その肩へ、一羽の黒い小鳥が舞い降りる。


「……?」


イリシアはゆっくり目を開けた。

小鳥の口から、ヴィクトルの声が響く。


『イリシア。聞こえるかい?』


その声に、彼女はほっと息をつく。


「ええ、どうなさいました?」

『催眠の核を見つけた。中央広場の人魚と少女像の少女のほうの右目だった。ただ、防衛機構が邪魔で近付けない。だから君へお願いがある』


イリシアは静かに耳を傾ける。


『《統制》を使いたい』


その一言で全てを理解した。


「……そういうことですのね」

『ああ、君の結界を一時的に僕へ預けてほしい。核だけを結界で隔離する。そうすれば住民を動かしている催眠の糸を断ち切れる』


イリシアは目を閉じ、小さく息を吐いた。


「殿下」

『うん?』

「統制は、他者の魔法を制御する王家の秘術。術者への負担も決して小さくありませんわ」

『それでもやる』


返事は即答だった。

イリシアはふっと微笑む。


「……昔から、一度決めたら聞きませんものね」


通信越しにヴィクトルも笑った。


『君ほどじゃないよ』


イリシアは肩をすくめる。


「分かりました、許可いたします。どうか、お使いください」


その声には、一片の迷いもなかった。


「ですが、絶対にご無理だけはなさらないでくださいませ」

『約束する。必ず帰るよ』


イリシアは静かに頷く。


「ええ、信じております」


通信が途切れる。

彼女はゆっくりと結界へ手を添えた。


「どうか殿下へ力を」


銀花の蕾のような結界が静かに脈打つ。

その魔力は、王都でも類を見ない大結界。


そして今──

その膨大な術式の一部が、王家に受け継がれし秘術《統制》によって、一時的にヴィクトルの制御下へと移ろうとしていた。




ヴィクトルは静かに息を吐いた。


「……始めよう」


隣ではルークが剣を構えたまま周囲を警戒している。


「本当にいけるんだな?」

「ああ」


ヴィクトルはゆっくりと右手を胸へ当てた。

その瞳が静かに閉じられる。


(統制──)


王家へ代々伝わる秘奥魔法。

他者の魔法を一時的に己の制御下へ置く、高位制御術式。

本来ならば、膨大な魔力差があれば成立しない。

ましてや相手はイリシア。

世界でも屈指の魔力量を誇る魔導師だ。

普通ならば到底扱えない。

それでも。


「統制──発動」


足元に黄金の魔法陣が展開される。

幾重にも重なる紋様が回転し、光の柱が上空で銀色の花の蕾のような結界へと伸びていく。

金の光が触れた瞬間だった。


──ゴォォォォォッ!!


「ぐっ……!」


凄まじい衝撃がヴィクトルを襲った。

まるで荒れ狂う大海へ素手で飛び込んだような感覚。

いや、それ以上だ。

あまりにも膨大。

一つ一つの魔力は精密に制御されているにもかかわらず、その総量が常軌を逸している。


(なんだ……これは……!)


統制の術式が軋む。

王家の秘奥魔法ですら、イリシアの魔力を掴みきれない。


(押し切られる……!)


黄金の魔法陣が激しく明滅する。

術式を維持するだけで、全身の魔力が削り取られていく。

額から汗が流れ落ち、呼吸が乱れる。

イリシアの膨大な魔力は、まるで暴風そのものだった。

統制しようと手を伸ばすたび、その奔流がヴィクトルの意識を飲み込もうとする。


「王子!!」


後方からルークの叫び声が響いた。


「大丈夫か!?顔色が──!」


ヴィクトルは歯を食いしばったまま、小さく首を振る。


「……問題、ない!」


そう答えた瞬間。


ビシッ──。


乾いた音が響く。

黄金の魔法陣の縁に、一本の亀裂が走った。


「っ……!」


さらに。


ビシッ──。


また一本。

そして、三本。

黄金の魔法陣が少しずつ崩れ始め、眩い光が不規則に明滅する。


「王子!」


ルークの声が焦りを帯びる。


「術式が保たねぇぞ!一度解除をしろ!」

「……駄目だ」


ヴィクトルは震える腕を押さえ込む。


「ここで止めれば……皆を救えないっ!」


魔法陣は悲鳴を上げるように軋み続ける。


王家に伝わる秘奥魔法。

その術式ですら、世界屈指の魔導師であるイリシアの魔力を完全には受け止め切れない。


(このままでは……砕ける。)


統制の天秤が、ゆっくりと崩れ始めていた。


「頼む……」


ヴィクトルは小さく呟いた。

その瞬間だった。

胸の奥。

心臓の少し下辺りが、ふわりと温かくなる。


「……!」


銀色だった。

淡い銀色。

まるで月光を溶かしたような魔力が、胸の奥から静かに流れ始める。


「これは……!?」


ヴィクトルは目を見開いた。

忘れるはずがない。


10年前。


高熱に苦しみ、命を落としかけた幼い自分へ。

眠ることすら忘れて、2日以上付き添い続けた少女。


『わたくしは医者でも回復術師でもありません。ですが、この有り余る魔力を殿下のために使えるのなら、本望ですわ』


そう言って10時間以上。

一定量の魔力を流し続けてくれた。

その時、体内へ残った魔力。


(まだ、残っていたのか……)


いや違う、消えずに残っていたのではない。

長い年月、ヴィクトルの魔力と混ざり合い、

静かに眠っていたのだ。

必要な、この瞬間まで。


銀色の魔力が、統制の魔法陣へ溶け込んでいく。

魔法陣が眩く輝いた。


「……イリシア」


思わず名前が漏れる。


(魔力の残穢ですら、君は僕を助けてくれるのか)


胸の奥が熱い。

涙と愛しさが込み上げそうになる。

だが今は泣く時ではない。

ヴィクトルはゆっくりと息を吐いた。


「今は集中しろ。彼女の想いを無駄にするわけにはいかない」


ぐっと拳を握る。

銀色の魔力は静かに応えてくれた。

まるで「大丈夫ですわ。」そう語りかけるように。

その温もりを感じながら、ヴィクトルは魔法を完成させる。


「──統制」


瞬間、結界外で維持され続けている眠りの大結界へ、一本の細い光が伸びる。




その頃。

結界維持を続けるイリシアが、小さく目を開いた。


「……来ましたわね」


彼女の周囲を覆う巨大な魔法陣が、静かに共鳴し始める。


「殿下……」


金色と銀色。

二つの魔力が、遠く離れた場所で繋がる。

イリシアは抵抗しない。

統制されることを許可した。


「どうぞ、お使いくださいませ」


優しく微笑む。


「わたくしの魔法は。殿下のためにもありますから」


その言葉と共に、眠りの大結界が応答した。

巨大な結界の一部が、まるで腕を伸ばすように中央広場へ集束していく。




中央広場。

ヴィクトルは両手を掲げた。


「捕らえろ」


低く響く声。

街全体を覆う巨大な結界の一部が、少女像だけを包み込むように降り注ぐ。

黒い宝石が激しく震えた。


ギギギギギギ!!


耳障りな悲鳴。

瘴気が爆発する。


「来るぞ!」


ルークが叫ぶ。

しかし今度は違う。

住民は動かない。

全員眠ったままだ。

代わりに宝石そのものが暴れ始めていた。

黒い触手のような瘴気が結界へ激突する。


バチィィィン!!


火花が散り結界が揺れる。

しかし破れない。

ヴィクトルは歯を食いしばった。


「流石に、簡単にはいかないか!」


結界越しでも、凄まじい圧力が伝わってくる。

それでも少しずつ、少しずつ。

黒紫の宝石が、街全体との繋がりを失っていく。


「あと少しだ……!」


ルークも前へ出る。


「耐えろ!ここまで来たら逃がさねぇ!」


少女像を覆う結界は、完全な球体となり黒い宝石だけを像から切り離し始めていた。

黒紫の瘴気が、檻の中で荒れ狂う獣のように暴れ続ける。

だがもう逃げ場はない。

ヴィクトルは静かに息を整えた。


「これで……ようやく土俵は整った」


次にやるべきことは一つ。

隔離された”核”そのものを、完全に破壊することだった。

読んで頂きありがとうございます!

次回の投稿は明日の7時頃を予定しております!


本作品はカクヨム、アルファポリスにて同時投稿をしております。

気が向いたらいいね、ブクマ、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。