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この捻れた世界にて、〜悪役令嬢は愛する者のために戦う〜  作者: 3色あんこ
第3部 泡沫の鎮魂歌

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第20話 王家の浄化魔法



静寂。


眠りの大結界に包まれたカント・マリスは、不気味なほど静まり返っていた。


雨上がりの石畳を踏みしめながら、ヴィクトルとルークは中央広場へと戻っていた。


広場の中心。


少女と人魚が手を取り合う、大きな石像。

その姿は本来ならば平和と友好の象徴であるはずだった。

しかし今は違う。


「……周囲を探してもやはり核はここしかなかったな」


ヴィクトルが静かに目を細める。

少女像の右目。

そこへ埋め込まれた黒い宝石。

禍々しい瘴気が内側から脈打ち、鼓動するように明滅している。


「これが……大元の原因か」


ルークも低く呟く。


「街中の糸は全部ここへ繋がってた」

「王子、どうするよ」


ルークが聞くと、ヴィクトルは静かに頷いた。


「手立てはある。王家に伝わる対精神魔法を使おう」

「それって催眠魔法を見破るための魔法じゃねぇのか?」

「通常ならば見破るための魔法だ、だけど本来は洗脳や精神干渉を解除するための術なんだ」


彼は剣を鞘へ納める。

代わりに右手をゆっくり前へ。

深く息を吸った。


「──清き光よ」


足元へ王家の紋章を描いた魔法陣が広がる。

黄金色の魔力。

柔らかな光が少女像を包み込み始めた。


「偽りの鎖を断ち切れ《レガリア・ディスペル》」


光が一直線に宝石へ届く。

その瞬間だった。


──ゴォォォォォンッ!!


街全体が震えた。


「!!」


少女像の瞳が赤黒く輝く。

同時に、広場中で眠っていた住民達が、一斉にゆらりと立ち上がった。


「……なっ!?」


ルークが目を見開く。

住民達の瞳はどこを映すでもなく虚ろだった。


「防衛機構か!」


ヴィクトルが叫ぶ。

次の瞬間、老人も、女性も、青年も、子供も全員が武器を拾い上げる。


包丁

銛

斧

木材

石


手に取れる物全てが武器となる。

そして全員が、ヴィクトルへ向かって走り出した。


「王子!」


ルークが前へ飛び出す。


ガギィン!!


銛を剣で受け流す。

返す刃で柄だけを叩き折る。


「悪い!眠っててくれ!」


峰打ち。

一人。

また一人。

正確に急所を外し、意識だけを刈り取っていく。

ヴィクトルもまた剣を抜いた。


「傷付けたくはない……!」


飛び込んできた男の手首を軽く払う。

武器だけを弾き飛ばす。

続けざま、柄頭で首筋を打つ。

男は静かに崩れ落ちた。


だが次から次へと住民が押し寄せる。


「数が多い!」


ルークが舌打ちする。


「全部街の人間だ!殺すわけにもいかねぇ!」


ヴィクトルも苦しい表情を浮かべた。


「核へ近付けない……!」


ようやく最後の一人を眠らせ、二人は大きく息を吐く。


「今だ!」


ヴィクトルが再び宝石へ向かう。

しかし少女像から再び瘴気が溢れた。


ゴォォォン!!


石畳に倒れていた住民達が、再びゆっくりと起き上がる。


「……またか!」


ルークが目を見開く。

今度は先ほどより人数が多い。


離れた路地

家屋

港

眠っていた住民達まで、糸に引かれる操り人形のように歩いて来る。


「無限かよ……!」


ルークが剣を構える。

ヴィクトルは少女像を睨み続けた。


(術式ではない。これは……宝石そのものが魔道具。近付く者へ反応して住民を操る、自律型防衛機構……)


「ルーク!」

「何か分かったか!」

「核そのものが防衛術式になっている!」


ヴィクトルは悔しそうに歯を食いしばる。


「解除を試みるたび、周囲の住民を操って時間を稼いでいる!」


ルークが周囲を見渡した。


「つまり、俺達だけじゃ近付けねぇってことか!」

「……ああ」


ヴィクトルは静かに頷く。


「核を止めるには、この防衛機構そのものをどうにかしなければならない」


二人は背中合わせになる。

再び住民達が迫る。

傷付けることも、殺すことも許されない戦い。

ルークは苦笑した。


「お嬢なら、この状況見て何て言うかな」


ヴィクトルも小さく笑う。


「きっと『まだ何か見落としていますわ』そう言うだろうね」


二人は再び剣を構えた。

少女像の瞳は、まるで嘲笑うように黒い光を放ち続けていた。

読んで頂きありがとうございます!

次回の投稿は明日の7時頃を予定しております!


本作品はカクヨム、アルファポリスにて同時投稿をしております。

気が向いたらいいね、ブクマ、よろしくお願いいたします。

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