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この捻れた世界にて、〜悪役令嬢は愛する者のために戦う〜  作者: 3色あんこ
第3部 泡沫の鎮魂歌

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第11話 魔族の階級



応接室には、温かな紅茶の香りが静かに広がっていた。

ルークとミーナが交互に、街で得た情報を順に語り始める。


中央広場での異様な演説。

人魚族を「資源」と呼ぶ男たちの狂気。

街全体を覆う不穏な空気。

人魚族の連続失踪。

新たに売り出されたガラス工芸品と虹色に輝く丈夫な糸。

そして、鯨族までもが監視され始めているという事実──。


話を聞き終えた部屋には、重い沈黙が落ちた。

最初に口を開いたのはイリシアだった。


「……魔族」


その一言だけで、全員の視線が彼女に集中した。


「断定はできませんわ。ですが、この異常さを考えると、人間ではなく魔族が裏で糸を引いている可能性は十分にあります」


ヴィクトルも静かに頷いた。


「僕も同感だ」


イリシアは机の上で指を組み、慎重に言葉を続けた。


「ですが、現時点では敵の数も、目的も、実力も分かりません。そして何より──」


皆をゆっくりと見渡す。


「今のわたくしたちが、魔族を相手に正面から戦えるだけの力を持っているのか。それすら判断できませんの」


誰一人として反論しなかった。

軽率に飛び込めば、自分たちだけでなく、助けられるはずだった命まで失うことになる。

だからこそ、まずは敵を知ること。

それが最優先だった。


その時だった。


くいっ。


小さく袖が引かれる感触。

イリシアが振り返ると、少し遠慮がちな表情のミレイユがいた。

彼女は慌てて筆談用紙を取り出し、さらさらと文字を書き始めた。

書き終えると、そっと差し出す。


『バルタザールが魔族の種類について話してるのを聞いたことがあります』


イリシアは目を見開いた。


「魔族の……種類?」


ミレイユは小さく頷き、続けて書き込む。


『魔族には、ひょうい型と、じゅにく(?)型があるって』


最後の「受肉」の文字には自信がないのか、小さな「?」が添えられていた。


「受肉型……」


イリシアは静かにその言葉を繰り返した。

初めて聞く名称だった。

さらにミレイユは筆を走らせる。


『階級もあるみたいです』

『七級が一番弱くて、数字が小さくなるほど強くなるって』


全員が紙を覗き込む。


『憑依型は七級から四級』

『バルタザールは四級だと言ってました』


四級の文字の横に、小さく『バルタザール』と書き添えられる。

その瞬間──


「…………え?」


最初に声を漏らしたのはミーナだった。

ルークが目を丸くする。


「おい……今、何て?」


ジュリアンも珍しく目を見開いた。

ヴィクトルは紙を見つめたまま、低く呟いた。


「つまり……バルタザール本人が、自分を四級だと名乗っていたのか……?」


ミレイユはこくりと頷く。

応接室の空気が、一瞬で凍りついた。

イリシアも思わず息を呑む。


(バルタザールが……魔族……)


ゲームでは教団の枢機卿として登場しただけだった。

黒幕でありながら、その正体について深く語られることはなかった。

だがもし彼自身が魔族だったのだとしたら──


クラリッサへの異常な執着。

ミレイユを地下牢へ閉じ込めた理由。

数々の不可解な行動。

その全てに説明がつく。

ヴィクトルが険しい表情で呟いた。


「だから……あれほど大胆に動けたのか」


ルークが低く舌打ちする。


「教会の枢機卿が魔族だったとはな……」


ジュリアンも静かに息を吐いた。


「人間社会へ魔族が入り込んでいる。想像以上に厄介だ」


重い沈黙の中、ミレイユだけが不安そうに筆を走らせた。


『言わない方がよかったですか?』


その紙を見るなり、イリシアは即座に首を横へ振った。


「いいえ。教えてくださって本当にありがとうございます。この情報がなければ、敵の正体に気付くのはもっと遅れていたかもしれませんもの」


ミレイユはほっとしたように微笑んだ。

すると、オーリンが静かに尋ねる。


「それで、受肉型というのは?」


ミレイユは再び紙へ書き込んだ。


『三級と二級』

『受肉型』


そして、最後の一文だけはゆっくりと、一文字ずつ丁寧に書いた。


『一級 魔王』


応接室は再び静まり返った。

その二文字が持つ重みを、誰もが肌で感じていた。

イリシアは紙を見つめながら、思考を高速で巡らせる。


(ゲームにはありませんでしたわね……)


少なくとも彼女が知る本編にも、攻略資料にも、魔族の階級についての詳細な記述は存在しなかった。

だが──


(当然ですわ。ここはゲームではなく、現実)


ゲームでは敵には推奨レベルが表示される。

しかし現実では、生き物には分類があり、組織には序列がある。

その方が自然だった。


(これは大きな助けになりますわ)


敵の階級さえ分かれば、おおよその実力を推測できる。

ゲームでいう「敵レベル」の代わりになる。


戦うべきか。

退くべきか。


その判断材料が、一つ増えたのだ。

イリシアは優しく微笑み、ミレイユに向き直った。


「ありがとう、ミレイユ。とても大切なお話でしたわ」


ミレイユは少し照れたように笑うと、もう一枚の紙へ書き込む。


『でも、わたしは聞いただけなので、意味までは分からないんです』

『ごめんなさい』


イリシアは即座に首を横へ振った。


「謝る必要なんてありません。これだけでも十分すぎるほど価値のある情報ですわ」


ヴィクトルも穏やかに頷く。


「イリシアの言う通りだ。小さな情報が、大勢の命を救うこともある」


ルークが腕を組みながら笑った。


「要するに、まずは敵が何級か調べりゃいいってことだな」


ジュリアンも短く頷いた。


「情報戦だ」


オーリンは窓の外へ目を向ける。

雨はまだ止まない。

灰色の空の下で、海は静かに波を立てていた。


その向こうには、助けを待つ人魚族がいる。

そして、その背後には──

まだ姿を見せぬ魔族が、静かに牙を研いでいた。

読んで頂きありがとうございます!

次回の投稿は20時頃を予定しております!


本作品はカクヨム、アルファポリスにて同時投稿をしております。

気が向いたらいいね、ブクマ、よろしくお願いいたします。

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