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この捻れた世界にて、〜悪役令嬢は愛する者のために戦う〜  作者: 3色あんこ
第3部 泡沫の鎮魂歌

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第7話 港に響く銛



広場を離れたルークは、足早に港の方へと向かっていた。


(これは一人で判断する案件じゃねぇ……)


あの異様な演説。

狂気じみた熱狂。

そして、黒く染まった男の瞳。


文献でしか知らなかった現象が、現実として目の前で起きていた。


(情報が圧倒的に足りねぇ。まずは街全体を把握しねぇと)


冷たい雨が港を白く煙らせている。

その時だった。


「逃がすな!!」

「囲め!!」


鋭い怒号が雨音を切り裂いた。

続いて、金属が激しくぶつかる音。

ルークは咄嗟に駆け出した。

港の桟橋近くに飛び出した先で見た光景に、彼は思わず息を呑んだ。


一人の男を、十数人の男たちが巨大な銛で囲んでいる。

男は背が高く、鍛え抜かれた大柄な体躯をしていた。

濡れた紺色の長い髪を払いながら、静かに周囲を睨みつけている。

その立ち姿だけで分かる。


(強ぇ……)


しかし、相手は多勢。


「捕まえろ!!」

「鯨族だ!!」


男は小さく舌打ちした。


(まずい。ここで暴れれば一般人まで巻き込む)


そう考えた瞬間──


「……ちっ」


ルークは姿くらましを解除した。


「誰だ!」


男たちが一斉に振り返る。

その隙だった。

ルークは地面を強く蹴り、一瞬で懐へ滑り込む。


1人目のみぞおちへ容赦のない拳。


「がぁっ!」


2人目の銛を蹴り上げ、軌道を乱し頭に蹴りを入れる。


「ぐぁっ!」


3人目の顎へ鋭い肘打ち。


「ぐえっ!」


4人目を肩で吹き飛ばす。


「うわっ!?」


ルークは雨に濡れながら苦笑した。


「悪いが──」


振り返ることなく片手を後ろへ向ける。


「その人、借りるぜ」


残る男たちが怒声を上げて一斉に襲い掛かる。

しかし、勝負は1分もかからなかった。

雨の中、港の桟橋には気絶した男たちが無残に転がっていた。

ルークは拳を軽く払い、息を整える。


「ふぅ……最近はお嬢の護衛ばっかやってたから、鈍ってるかと思ったぜ」


背後から、静かで低く響く声が聞こえた。


「……助かった」


振り返る。

先ほど囲まれていた男だった。

近くで見ると、その体格はルークより一回り以上大きい。

濡れた紺色の長髪が肩に張り付き、整った顔立ちに海の王者らしい威厳が宿っていた。

男は右手を胸に当て、深く頭を下げた。


「俺はオーリン。鯨族の長だ」


ルークは一瞬だけ目を丸くし、次の瞬間、豪快に笑った。


「はっ……当たり引いたな」


オーリンもわずかに口元を緩めた。


「君は?」

「ルーク。旅の護衛兼、潜入担当だ」

「潜入……」

「ああ。で、お互い同じ目的みたいだな」


オーリンは静かに頷いた。


「君もこの街の異変を調べているのか」

「そういうこと」


2人は人気のない建物の軒下へ移動した。

雨音だけが辺りを包む。

オーリンが低い声で語り始めた。


「ここ2ヶ月、人魚族が次々と姿を消している。

俺たち鯨族も全力で調査を続けてきた。だが、決定的な証拠が掴めない」


ルークも広場で見た出来事を簡潔に話した。

黒く染まった瞳。

狂気じみた演説。

人魚族を「資源」と呼ぶ男たちの熱狂。

話を聞き終えたオーリンの表情が、ますます険しくなった。


「やはり……街の中で何かが起きている。俺一人では、もう限界だ」


ルークは腕を組み、少し考えてから笑った。


「だったら簡単だ」

「ん?」

「うちの主に会ってくれ」


オーリンは眉を上げた。


「主?」

「俺なんかより何十倍も頭が切れる。しかも──」


ルークはどこか誇らしげに笑った。


「困ってる奴を見捨てられねぇ、お人好しだ。事情を話せば、絶対に力を貸してくれる」


オーリンは静かにルークの目を見つめた。

その瞳に、嘘や計算はない。

しばらくの沈黙の後、小さく頷いた。


「……分かった。会わせてくれ」


ルークはにっと笑う。


「交渉成立だ。仲間のところへ案内するぜ」


港にはなおも冷たい雨が降り続いていた。

だがその雨の中で、人魚族を救うための新たな縁が、静かに、しかし確かに結ばれようとしていた。

読んで頂きありがとうございます!

次回の投稿は20時頃を予定しております!


本作品はカクヨム、アルファポリスにて同時投稿をしております。

気が向いたらいいね、ブクマ、よろしくお願いいたします。

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