↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この捻れた世界にて、〜悪役令嬢は愛する者のために戦う〜  作者: 3色あんこ
第3部 泡沫の鎮魂歌

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/90

第3話 影を駆ける獣



夜の帳が街を深く包み込んでいた。

昼間よりは幾分弱まったとはいえ、雨はまだ止まず、空には厚い鉛色の雲が低く垂れ込めている。


ホテルの裏手、馬車を停めている車庫では、ランタンの淡い灯りだけが静かに揺れていた。


「借りてきたぞー」


ルークが手綱を引きながら戻ってくる。

一頭の逞しい栗毛の馬が、鼻を鳴らして雨の匂いを嗅いだ。


「随分立派な馬ですわね」


イリシアが目を丸くすると、ルークは肩を竦めた。


「潜入するなら足は速い方がいいからな。街の人が融通してくれた」

「助かりますわ」


ヴィクトルも静かに頷いた。


「では、準備を始めようか」


イリシアは一歩前に出て、ルークとミーナの前に立った。

ゆっくりと両手を重ね、二人へ柔らかな視線を向ける。


「お二人とも。使い魔について、ご希望はございます?」


ルークとミーナが顔を見合わせた。


「希望?」

「ええ」


イリシアは優しく微笑んだ。


「潜入任務であれば隠密行動に特化した子。撹乱が必要なら陽動向きの子。索敵を重視するなら探索能力に優れた子もおります。ご要望に合わせて呼び出せますわ」

「へぇ……」


ミーナが感心したように目を輝かせた。


「オーダーメイドできるんですね!すごい!」

「もちろんですわ」


ルークは腕を組み、少し考え込んだ。


「そうだな……犬より大きくて、馬より小さい。野山を素早く駆けられるような奴がいい。できれば力もあると、なおいい」


イリシアが「あら」と小さく笑う。


「狼をご希望かと思いましたけれど……」

「狼でもいいが、もっと威圧感があるとな」

「なるほど……」


イリシアはわずかに目を閉じて考え、すぐにぱちん、と白い指を鳴らした。


次の瞬間。

魔法陣が静かに地面に広がる。

その中心から、ゆっくりと巨大な影が姿を現した。


漆黒の鬣。

黄金の瞳。

堂々たる筋肉質の体躯。

──巨大な黒ライオンだった。


「うわぁぁぁぁ!!」


ミーナが思わず歓声を上げた。


「おっきい!!もふもふ!!」


勢いそのままに鬣へ飛びつき、顔を埋める。

ライオンは驚く様子もなく、大人しく受け止めた。


「ふわぁぁ……!最高……柔らかくて温かい……!」


イリシアが苦笑しながら説明する。


「この子はレグルスと言います。とても賢いので、余程のことがない限り、噛みつきませんわ」


ミレイユも恐る恐る近づき、そっと黒い鬣へ手を伸ばした。


「……っ!」


柔らかな感触。

レグルスは静かに目を細め、ミレイユの手に額を軽く押しつける。

ミレイユの目が輝き、表情が少しだけ綻んだ。


何度も優しく撫で続けるその姿に、皆の顔も自然と緩む。

ルークが笑って前に出た。


「いいね。俺のイメージは狼だったけど、ライオンも悪くねぇ」


ゆっくり右手を差し出す。


「一時的な相棒関係だ。よろしくな」


レグルスは静かに近づき、その大きな額をルークの掌に預けた。


「お、賢いじゃねぇか」


ルークの口元が自然と緩んだ。

その様子を見ていたミーナが勢いよく手を挙げた。


「あたしも!」

「はい」

「えっとね!一時的に幻覚魔法とか、分身して敵を惑わせたりできる子はいますか!?」


イリシアはすぐに頷いた。


「でしたら、狐などいかがでしょう?」


ぱちん。


再び指が鳴る。

今度は白銀色の魔法陣が浮かび上がり、ふわりと一匹の狐が姿を現した。


雪のように白い毛並み。

紅玉のような輝く赤い瞳。

ふさふさとした豊かな尾。


「きゃーーーーー!!」


ミーナが即座に抱き上げ、くるくるとその場で回り始めた。


「その子はアンサーという名前です。とても愛らしいでしょう?」

「かわいいいいいい!!最高すぎる!!」


アンサーは慣れた様子でされるがままになり、尻尾を優雅に揺らした。

ルークが呆れたように笑う。


「はしゃいで転ぶなよ」

「分かってるよー!でもこの子すっごい可愛いんだもん!」


ジュリアンが苦笑した。


「仕事前だってのに、すっかり遊園地じゃねぇか」


ヴィクトルも思わず柔らかな笑みを浮かべる。


「二人とも随分気に入ったようだね」

「ええ!最高です!」

「お嬢、助かるぜ」


イリシアは満足そうに頷いた。


「それでは……影へ」


レグルスが静かに姿勢を低くする。

その巨体が黒い影へと溶けるように変化し、するりとルークの足元へ吸い込まれていった。

同じように、アンサーも優雅に跳び、ミーナの影の中へ消えた。

一瞬だけ影が水の波紋のように不自然に揺れたが、すぐに元に戻る。


「これで完了ですわ。必要になればいつでも姿を現します。命令も最低限理解しておりますので、緊急時にはお二人を最優先で守ります」


ルークが軽く拳を握った。


「頼もしいな」


ミーナも胸を張る。


「これなら百人力ですね!」

「……百人力どころじゃない気もするが」


ジュリアンがぼそりと呟き、皆が小さく笑った。


しかし、次の瞬間。

空気がぴたりと引き締まった。


ルークは腰の短剣を確認し、外套のフードを深く被る。

ミーナも軽装の上に雨避けのマントを羽織り直した。


先ほどまでの明るい笑顔は完全に消え、二人とも熟練の諜報員としての鋭い表情に戻っていた。

ヴィクトルが静かに、しかし力強く言った。


「危険だと思ったら、調査より帰還を優先してほしい」

「分かってる」

「任せてください」


イリシアも一歩前に出て、二人を見つめた。


「どうか、ご無事で」

「お嬢様」


ミーナがにっと笑う。


「お土産、期待しててくださいね!」

「まずは無事に戻ることですわ」

「はい!」


ルークは馬に飛び乗り、ミーナもその後ろへ軽やかに跨った。


「行ってくる」

「行ってきます!」


馬が力強く嘶き、蹄の音を響かせながら夜の街道へと駆け出していった。

雨に煙る闇の中へ。


──人魚族の街、《カント・マリス》の真実を確かめるために。

ちなみにイリシアには馬型使い魔もいますが、白銀の体をしてたのでルークに却下されています。


次回の投稿は20時頃を予定しております!

本作品はカクヨム、アルファポリスにて同時投稿をしております。

気が向いたらいいね、ブクマ、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。