表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この捻れた世界にて、〜悪役令嬢は愛する者のために戦う〜  作者: 3色あんこ
第1部 歪んだ世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/23

第15話 月光の追求



王城・大広間。


重苦しい静寂が、華やかな会場を覆っていた。

シャンデリアの光が宝石のように輝く中、誰もが気づき始めていた。

これは単なる断罪劇ではない。

何か、決定的におかしい。


フィリップは苛立った様子で声を荒げた。


「イリシア・ヴァルモンド!先程から何が言いたいのだ!

リリアナの罪は明白だ!証人もいる!

彼女も被害を訴えているではないか!」


イリシアは優雅に扇子を口元に添え、くすりと笑った。

その笑みは完璧に優雅で、しかしどこまでも冷たい。


「殿下、わたくしは何も申し上げておりませんわ。ただ、確認しているだけですのよ」

「確認、だと?」

「ええ」


イリシアはゆっくりと一歩前に出た。

月光を思わせる銀髪が、燭光を受けて幻想的に揺れる。


「例えば──」


彼女はクラリッサへと視線を向けた。


「聖女様」


クラリッサの肩が、わずかに震えた。


「先程、リリアナが何度も貴女様を『偽物』と呼んだと仰いましたわね?」

「え、ええ……」

「いつ頃からでしょう?

半年ほど前?一ヶ月前?あるいは、もっと最近のこと?」


クラリッサは答えられない。

本当は一度も言われていないのだから。


「お答えいただけませんの?」

「そ、それは……」

「記憶が曖昧なのですわね」


イリシアは静かに頷いた。


「なるほど。では別の質問をさせていただきますわ」


クラリッサの顔色が明らかに変わった。

嫌な予感がしたのだろう。


「聖女様は浄化の奇跡をお使いになりますわね?」

「もちろんですわ」

「素晴らしいことですわ」


イリシアは微笑んだ。


「ちなみに、先月の南部で発生した瘴気汚染はどのように浄化なさいましたの?」

「っ……!」


クラリッサが固まった。

その場にいた数名の貴族が顔を見合わせる。

南部の瘴気汚染は確かに教会が対応した案件だった。

しかし実際に現場へ赴いたのは下級聖職者たちで、クラリッサ本人は一度も動いていない。


「どうしたのです?

聖女様であれば当然ご存知でしょう?」

「それは……その……」


答えられない。

会場の空気が、さらに冷たく変わっていく。

疑念、不信、ざわめきが徐々に広がり始めた。


イリシアはそこで追撃を止めた。

本当ならもっと追い込める。

だが今は違う。

目的は時間稼ぎ。

ジュリアンたちが無事に脱出するまで。

あと少し。

あと少しだけ。


「まあ、よろしいですわ」


にっこりと微笑む。


「わたくしも、細かなことを責めたいわけではございませんもの」


クラリッサがほっと安堵しかけたその瞬間、別方向から落ち着いた声が上がった。


「では、私から質問してもよろしいでしょうか」


ソフィア・リュシアンだった。

会場の端から、知的な雰囲気を纏って歩み出てくる。

知恵の公爵家令嬢。

未来の女宰相候補と称される才女。

その一言だけで、広間の空気がぴんと張りつめた。


「ソフィア様……」


クラリッサの顔が青ざめる。

ソフィアは穏やかに微笑んだ。

しかしその目は、一切笑っていない。


「聖女様、王国法典第127条をご存知ですか?」

「え?」

「王族と三大公爵家の婚約成立、並びに婚約解消には、国王陛下および両家当主の正式な承認を必要とする、とあります」


会場が大きくざわついた。

フィリップの顔色が一気に悪くなる。


「つまり」


ソフィアは淡々と、しかし容赦なく続ける。


「本件が正式手続きを経ていないのであれば、婚約破棄そのものが法的に成立しておりません」

「なっ……!」


フィリップが声を荒げた。


「そんなものは後で──」

「後では成立しません」


ソフィアが即座に切り返す。


「婚約は契約です。

王族だからといって、勝手に破棄できるものではありません」


その一言で、会場は完全に揺れた。

貴族たちが次々と囁き合う。


「確かに……」

「法的にはそうだ……」

「正式文書は?」

「国王陛下の署名は?」


イリシアは内心で深く感心した。


(流石ですわね、ソフィア嬢)


完璧な援護だった。

その時、イリシアの耳元で影の使い魔『小鳥』が再び囁いた。


『対象保護完了、脱出開始』


胸の奥に、熱い安堵が広がる。


(間に合いましたわね……)


だがまだ終わらない。

ここからさらに時間を稼がなければならない。

フィリップが顔を真っ赤にして怒鳴った。


「黙れ!私は第二王子だぞ!

私の決定は王家の決定だ!」


その瞬間だった。

大広間の巨大な両開き扉が、重々しい音を立てて開かれた。

ざわめきが一瞬で止まり、誰もが振り返った。

イリシアは静かに、しかし深く微笑んだ。


(ようやくですのね)


王城の別室から報告を受けた者たちが、ついに動き出したのだ。

読んで頂きありがとうございます!

次回の投稿は20時頃を予定しております!


本作品はカクヨム、アルファポリスにて同時投稿をしております。

気が向いたらいいね、ブクマ、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ