朝霧玲央Side もったいないような花嫁だと思った
見合いの席では、なんて綺麗な人なんだと思った。
高慢で気位が高いから、帝都の貴公子に避けられたともっぱらの噂だった。
だが、実際に式を挙げて、彼女が家にやってくると、全然噂と違った。
長州の武家の出で、三男坊。家は継げない。
イギリスの王立士官学校を出た後、帰国してから帝にはよくしてもらっていた。
九重鹿乃子さんは、想像したより綺麗で、一生懸命な女性に見えた。
あかぎれがあることに驚いたが、家事も一通りできるようでさらに驚いてしまった。
あんな綺麗な女性に「旦那様」と呼ばれると、なんだか体がムズムズして、カッと熱くなった。
なんだか健気な女性だと思った。
私の妻になるのは、相当嫌だったのではないかと気遣っていた。
だから、自分としては、気遣ったつもりだった。
「あなたは、私に無理して嫁いだのでしょうから……その……今夜は別々の部屋で寝ましょう」
だが、その言葉で、彼女は泣いた。
湯上がりの彼女は妖艶で、そこはかとない清純さを漂わせていて、私は戸惑ったのだ。
自分を律することができるか不安だった。
あんな女性を前にして、何もしないなんてことができるのか、自信がない。
だが、無理やりに私のような男に抱かれることを、彼女に許したくなかったのだ。
私の妻になってくれた女性だ。
相当な身分差のある婚姻だ。
それをすぐに承知してくれ、ここまでやってきて、挙式からわずか数時間で片付けてくれ、食事も準備してくれていた。
私は、彼女が嫌がることはするつもりはなかった。
だが、彼女が私の言葉で寂しそうな表情をしたのが気になった。
私は、何か間違ったのだろうか。
明日は、上司に今度の夜会に行くと伝えよう。珍しいと驚かれるはずだ。だが、帝から何を言われたのかは秘密にするつもりだった。
帝から頂いた結婚祝いは、帝の軽井沢の別荘への招待だった。
だが、まだ、鹿乃子さんに伝えるべきか迷っていた。
まるで、夜の情事を誘っているみたいではないか。
そうだ。
私の妻になってくれた人なのだから、それは当たり前なのだが、私にとっては、もったいないような美しく健気な花嫁なのだから。
翌日、上司は目を丸くした。
『朝霧、夜会とは珍しい』そう言われて、私は黙ってうなずいた。
妻のためだとは、言えなかった。




