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鷹条Side 白檀ではない香り
香席から戻ったあとも、私の指先には、白檀ではない、花房りんの気配が残っていた。
香を聞き分ける時、震えた指先。
丸く見開かれた瞳。可憐な唇。上気した頬。
袖が触れるたびに、心が少し乱れた。
――困った。
自分でも理由が分からない。
華族の娘でも、西洋の貴族令嬢でも、今までいくらでも会ってきただろう。
だが、こんな風に胸がざわめくことはなかった。
――なんだ?この感情は……。
迎えの人力車に乗って、帝都の街並みをぼんやりと眺める。
「……りんさん、か……」
気づけば、もう一度会いたいと思っている自分がいた。
まるで香に酔ったみたいだと、私は目を閉じた。




