鷹条Side 最愛の女性の花婿になる日
言葉を失った。
目の前に、白無垢姿の美しい花嫁が、現れた。目の前には、おりんしかいなかった。
私の花嫁。
――りんちゃん……?
――なんて綺麗なんだ……。
――こんなに素敵な花嫁が……この世にいたんだ……。
私の恋した最愛の女性。
私のそばで、帝都の貴公子ではなく、生身の人間としての私の姿を、わざわざ男装してまで一緒にいてくれた女性。
女学生のお嬢様なのに、詰襟に眼鏡姿で、帝都の散策に付き合ってくれた女性。
力も家も失った私のそばに、ずっと、何も言わずにいてくれた女性。
私の花嫁は、美しい顔を私に向けて、瞳をきらきらさせて、宝石のような涙を煌めかせて、恥ずかしそうに微笑んだ。
その一瞬だけで、私は溢れる思いで胸がいっぱいになった。
――こんな綺麗な花嫁が……私の妻になってくれた……。
「綺麗だ」
それだけ言うだけで、精一杯だった。
冬の朝の光が、おりんの白無垢を柔らかく照らしていた。
――あの菖蒲の夜から……母上が私を庇ったあの日から……2年半もかかった。
私の胸は幸せでいっぱいだったが、かかった歳月を思うと、感慨深さのあまりに震えが止まらなくなった。
いつ久しく幸せに。
その言葉の意味が胸に深く落ちた。
綾小路夫妻が仲人を務めてくれていた。
新郎側で号泣していたのは、理人と、鹿乃子さんだった。
新婦側席で号泣していたのは、鈴乃さんと、沙千代さんだった。
父は、自分が結婚式に着たという紋付き羽織袴が無事に残っていたと言って、離れに訪ねてきてくれた。私が帝に認められて役職を得た事に、大層喜んでくれた。
「ばあや…」
タエさんと目があった時、私は抑えていた涙が溢れ出た。
――ばあやのおかげだ……。
――ずっとそばにいてくれて……りんちゃんと私を支えてくれて、ありがとう。
静かに酒を酌み交わし、結婚式が終わった。
私は幸せだ。
それだけで、胸がいっぱいだった。
金木犀の香り混ざり、白檀の香りが強まった。
私の力が再び覚醒しようとしている。
だが、私の新妻は、恥ずかしそうに目を伏せて、私を直視出来ないようだ。
私はそっと手を伸ばして、妻になったおりんの手を握った。
私たちは見つめあった。
ずっと離さない。
ずっと守るから、どうか私のそばにいて欲しい。
私を見つめるその瞳に、私が変わりなく、おりんの愛した「先輩」として、あり続けられますように。
「愛している、おりん」
「私も、愛しています、先輩」
私たちの結婚式が終わった。
金木犀の香りが風に乗る。
私は妻の手を握ったまま、二度と離すものかと思った。
そして今宵――。
ついに、私たちの初夜が来る。




