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最愛の貴公子様へ、忘れられた花嫁ですが、忘れた貴公子を保護しております  作者: 西野 歌夏
第三章:先輩とは、誰だ?

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鷹条Side 私が今度はお守りします

りんちゃんと過ごす葉山は幸せな時間だったが、私にとっては自制を要される時間でもあった。サマードレスから伸びるスラリとした腕、普段は着物で見えない足などが見えて、私の心は散り散りに揺れた。


海に登る月を見ながら、「りんちゃん、ずっと一緒にいよう」と言った時の私の心は、本当はいますぐに彼女を奪ってしまいたかった。でも、大切なものだからこそ、私は壊れ物に触れるように扱った。



彼女が湯上がりに花菖蒲の浴衣を着て姿を現した時は、崩れ落ちるかと思った。すごい衝撃だった。みぞおちを殴られたかのような、ズシンと全身にくるような衝撃だった。


「……とてもよく似合っている」


それだけを言うだけで背いっぱいだった。


艶かしいうなじ、湯上がりの頬、濡れた髪、私は以前に見たことがあるのかと思うほど、何か熱くたぎるような衝撃を抱いた。


――……私を……試しているのか……?


そうとすら思えるほど、そそられた。


 

彼女が寝る前に、舞を踊っている姿を初めて見た。凛と空気が澄み、見ているだけで心が澄み切るようなそんな舞だった。


「雅親さん、おやすみなさい」

「おやすみ」


口付けをして、りんちゃんと私はそれぞれの部屋に戻った。



――眠れるわけがない……。


浴衣姿のりんちゃんを抱きしめておやすみの口付けまでして、さあ寝ますと言うわけにはいかない。


私の中の男がおとなしくしてくれない。


――ここは自制するのだ……雅親!


自分に言い聞かせて、しばらく布団の中で悶々と寝返りを打って半時ばかりを過ごした。どうしようもないと諦めて、テラスに涼みに行こうとした。


だが、声がすることに気づいた。


――りんちゃん……?


私はそっと廊下を進み、廊下の角にあるりんちゃんの部屋の前まで歩いた。


「……行かないでっ……えっえっ……行かないで……待って……」


ひどく泣きじゃくるりんちゃんの声が聞こえた。取り乱しているようだ。


私はいても立ってもいられず、ドアを開けて、そっと中に足を踏み入れた。


りんちゃんは、布団の中で苦しそうに身悶えして、泣きじゃくっていた。


「せ……せんぱい……もう一度……もう一度私を抱きしめてください……せんぱい……待って……」


――先輩の夢を見ているのか……!


私は尋常ではない様子で泣くりんちゃんの様子に、どうしたら良いのか分からず、そっと手を取った。


「……大丈夫だ……りんちゃん、私がそばにいるから」


私は励ますように、りんちゃんにそう言った。


りんちゃんは私を見つめ、泣きながら抱きついてきた。


「……せんぱい……どこにも行かないで……」


りんちゃんが、先輩と私を混同していることに、混乱した。


「先輩……お願い……どこにも行かないで……」


りんちゃんは泣きながら私の胸に顔を埋めた。


「私が今度はお守りしますから……」


その言葉に、私の胸は熱くなった。



私は、先輩と間違えている様子に混乱したが、浴衣からのぞく肌にドキドキしてしまった。


――だめ……いや、ここは自制するのだ……雅親……堪えろ。


りんちゃんは、涙に潤んだ瞳で「私が今度はお守りします」と囁いた。



それは、自分に言われているような気がした。先輩と混乱しているりんちゃんが、最後は私に向かって自分が守ると言っていると分かった。


私は、今まで、守るのは自分の役目だと思っていた。


帝を守る。

鷹条家を守る。

りんちゃんを守る。



だが違った。


守られていたのは—— 私の方だったのかもしれない。


この人もまた、私を守ろうとしてくれている。



私はその瞬間、決意した。


――りんちゃんと結婚しよう。




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