鷹条Side 私が今度はお守りします
りんちゃんと過ごす葉山は幸せな時間だったが、私にとっては自制を要される時間でもあった。サマードレスから伸びるスラリとした腕、普段は着物で見えない足などが見えて、私の心は散り散りに揺れた。
海に登る月を見ながら、「りんちゃん、ずっと一緒にいよう」と言った時の私の心は、本当はいますぐに彼女を奪ってしまいたかった。でも、大切なものだからこそ、私は壊れ物に触れるように扱った。
彼女が湯上がりに花菖蒲の浴衣を着て姿を現した時は、崩れ落ちるかと思った。すごい衝撃だった。みぞおちを殴られたかのような、ズシンと全身にくるような衝撃だった。
「……とてもよく似合っている」
それだけを言うだけで背いっぱいだった。
艶かしいうなじ、湯上がりの頬、濡れた髪、私は以前に見たことがあるのかと思うほど、何か熱くたぎるような衝撃を抱いた。
――……私を……試しているのか……?
そうとすら思えるほど、そそられた。
彼女が寝る前に、舞を踊っている姿を初めて見た。凛と空気が澄み、見ているだけで心が澄み切るようなそんな舞だった。
「雅親さん、おやすみなさい」
「おやすみ」
口付けをして、りんちゃんと私はそれぞれの部屋に戻った。
――眠れるわけがない……。
浴衣姿のりんちゃんを抱きしめておやすみの口付けまでして、さあ寝ますと言うわけにはいかない。
私の中の男がおとなしくしてくれない。
――ここは自制するのだ……雅親!
自分に言い聞かせて、しばらく布団の中で悶々と寝返りを打って半時ばかりを過ごした。どうしようもないと諦めて、テラスに涼みに行こうとした。
だが、声がすることに気づいた。
――りんちゃん……?
私はそっと廊下を進み、廊下の角にあるりんちゃんの部屋の前まで歩いた。
「……行かないでっ……えっえっ……行かないで……待って……」
ひどく泣きじゃくるりんちゃんの声が聞こえた。取り乱しているようだ。
私はいても立ってもいられず、ドアを開けて、そっと中に足を踏み入れた。
りんちゃんは、布団の中で苦しそうに身悶えして、泣きじゃくっていた。
「せ……せんぱい……もう一度……もう一度私を抱きしめてください……せんぱい……待って……」
――先輩の夢を見ているのか……!
私は尋常ではない様子で泣くりんちゃんの様子に、どうしたら良いのか分からず、そっと手を取った。
「……大丈夫だ……りんちゃん、私がそばにいるから」
私は励ますように、りんちゃんにそう言った。
りんちゃんは私を見つめ、泣きながら抱きついてきた。
「……せんぱい……どこにも行かないで……」
りんちゃんが、先輩と私を混同していることに、混乱した。
「先輩……お願い……どこにも行かないで……」
りんちゃんは泣きながら私の胸に顔を埋めた。
「私が今度はお守りしますから……」
その言葉に、私の胸は熱くなった。
私は、先輩と間違えている様子に混乱したが、浴衣からのぞく肌にドキドキしてしまった。
――だめ……いや、ここは自制するのだ……雅親……堪えろ。
りんちゃんは、涙に潤んだ瞳で「私が今度はお守りします」と囁いた。
それは、自分に言われているような気がした。先輩と混乱しているりんちゃんが、最後は私に向かって自分が守ると言っていると分かった。
私は、今まで、守るのは自分の役目だと思っていた。
帝を守る。
鷹条家を守る。
りんちゃんを守る。
だが違った。
守られていたのは—— 私の方だったのかもしれない。
この人もまた、私を守ろうとしてくれている。
私はその瞬間、決意した。
――りんちゃんと結婚しよう。




