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最愛の貴公子様へ、忘れられた花嫁ですが、忘れた貴公子を保護しております  作者: 西野 歌夏
第二章:思い出せないのに、どうして私に優しくするのですか?

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鷹条Side 灯り

理人が訪ねてきてくれたのは嬉しかった。幼馴染の彼が、こんな青年になったというのは不思議としっくりきて、私は違和感なく彼と話せた。


ただ、彼と一緒にイギリスに留学までしていたというのは、何も思い出せなかった。しかし、彼の話を理解できるところを見ると、私は確かに長年彼と一緒に人生の多くの時間を過ごしてきたのだと思えた。



りんさんと千時屋であんみつを食べている時、目の前の丸眼鏡をかけて詰襟を着ている彼女に不思議と心が和んだ。


――あぁ、美味しいものを食べるとほっぺが膨らむんだ。


たわいもないそんな事を思うだけで、心の中に平穏が訪れるのを感じた。


偶然、私の許嫁だったという九重鹿乃子さんに遭遇した。チラッと見たが、とても綺麗な女性だった。子供の頃の彼女しか記憶になかったが、感動するくらいに綺麗な人になったんだなと思った。


私に相当な怒りを感じているのはよく分かった。自分が何をしたのかを父にも聞かされていたので、私は彼女の怒りが理解できた。


――ただ……鹿乃子さんと一緒にあんみつを食べに行ったりしていない。


そういう直感めいたものを感じた。確信に近かった。


私は、甘いものがそれほど好きではない。私が千時屋にあんみつを食べに来るのを楽しみにしていたとタエさんは言っていた。私のそばにいてくれた誰かがあんみつが好きで、それでこの店に来ていたのだと思った。


――鹿乃子さんじゃない。俺が来るとすれば、こういうふうに……。


私は目の前で美味しそうにあんみつを食べているりんさんを見て、ぼんやりと考えていた。



その夜、華道の稽古帰りのりんさんと一緒に月を見た。


りんさんが、華道の稽古に行っている間、私は少し寂しいと感じている自分に驚いていた。


りんさんがそばにいないと分かっていると、胸の中に小さな穴が開いたように感じた。昼間、一緒にあんみつを食べただけなのに。


星と月が綺麗な夜だった。

月は、丸眼鏡をかけたりんさんの姿に重なって見えた。



心に平穏が訪れる、私の苛立つ心が落ち着く、そんな存在だなと思った。



今日の、新宿御苑も楽しかった。てんとう虫を彼女が見つけて、偶然、私の指が彼女の指に触れた。


その瞬間、電流のような衝撃が私の体に走った。人肌というか、わけの分からない温かさを感じたのだ。


――俺はその感覚を知っている……!?


動揺してしまった。ひどく慌ててしまった。


私は身体中がカッと熱くなり、顔から火が出るほど真っ赤だったと思う。耳も熱かった。


――なぜなんだ?


――女性の指に触れただけで、どうしてこんなに動揺するのだろう。


りんさんの食べている途中の団子を私が奪って食べてしまったことにも動揺してしまった。



その後の、活動写真館は薄暗く、とても大人な雰囲気の場所だった。館内の構造がなんとなく理解できていたので、私はここに前にも来たことがあるのだと分かった。


りんさんは、夢中で活動写真に釘付けになった。私は、活動写真よりも、りんさんが画面に一喜一憂する様子に釘付けになってしまった。映写機の光に照らされたりんさんの横顔は、綺麗だった。


――なんて綺麗なんだ。


そう思った。

途中で、りんさんがハッとした様子で私の顔を見たが、私は何が起きたのかよく分からなかった。


ただ、綺麗な人だなとそれだけを思っていた。ずっと見ていたくなるような綺麗さだった。心動かされる綺麗さだと思った。



牛鍋屋で、ようやく分かった。

りんさんがそばにいると、心が温かい。

彼女が笑うと、なぜか私も笑いたくなり、幸せな気持ちになった。


この2年、荒んでいて空っぽだった場所に、少しずつ温かい灯りが灯り始めたと思った。

どうしてなのかは分からない。


ただ、今の私にはりんさんが必要だ、そう思った。


離れの灯りが見えた時、私はなぜだが帰ってきた気がした。








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